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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
怪奇!魔法少女来襲!
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怪奇!魔法少女来襲! その1


 悪の基地から辛くも脱した篠原良は、一路自宅へと急ぐ。

 選んだ移動方法は、徒歩だった。


 タクシー等は呼べなくもないが、金が掛かる。

 知っている者達の様に専用のバイクや車両はまだ無い。

 

 ただ、改造人間故か、その足は本人が思う以上に速かった。


 オリンピック選手もかくやという速さで走る。

 然も、それをして居る筈の良は、実に涼しい顔だ。 


「おーほっ! こりゃあ良いや」


 ポーンと一蹴りで数メートルは前へ進める。

 今までの人生に置いて、此処まで軽やかに走った経験は無い。


 自らの脚で走っている筈なのに、まるでバイクにでも乗っているかの様に風が当たり、景色が流れていた。


 遠い、とげんなりしていた筈の道。

 それを、良は寧ろ楽しんですら居た。


 家まで後数キロ、というところで走るのをやめる。


「おっとと……ヤバいヤバい」


 別に疲れ果てたという訳ではない。

 ただ、御近所に自分の異様な姿を見られるのは困ってしまう。


 当然ながら【どうも、改造人間です!】とは言える筈もなかった。

 だが、言えずとも実感してしまう。


 足を止め、良はジッと手を見た。


 並みの人間でも、数十キロを走破する事は出来るだろう。

 但し、それはあくまでも長年の鍛錬に置ける結果だ。


 長い長い間、修練し、体力を得て始めて出来る。

 でなければ到底無理な話である。


 普通の人ならば、歩くだけでも辛い筈の距離。


 なのに、今の良は辛いどころか息一つ乱さす事もなく、疲れても居ない。

 バイクや自動車の如く走ろうモノなら、肺は焼けつき、心臓は全身の欲求に応えんと早鐘の如く打つ筈だ。


 その筈が、良は全くと言って良いほどに平然としている。


「改造人間ってのは……嘘じゃなんだな」


 変わったという自分。


「ま、いっかぁ」


 篠原良は、実にあっけらかんとそう言ってのけた。

 

 それは、根拠の無い自信ではない。

 何故ならば、絶望的という状況ではないからだ。


 別に悪の組織から目の敵にされている訳でもなければ、同じ改造人間に命を狙われても居ない。

 変わってしまった自分を受け入れれば、寧ろ肯定的に捉えることも出来た。


「変身はまだ出来ねーけど………何とかなるさ」

 

 怪しげな組織に拉致され、改造人間にされてしまったのは変えられない。

 とは言え、今のところ問題も無かった。


 寧ろ、その組織の首領にされてしまってすら居る。

 その為か、意外な程に良の気分は軽かった。


   *


 のんびりと夜の散歩を楽しむ。

 そんな良は、肩で風を切って歩いていた。


 改造人間ともなれば、並みの人間とは一味違う。

 普通の人であれば、夜の闇とは恐いものだが、良にとっては恐怖でもない。


 寧ろ、良は【何か出て来ないかな】とすら想う。

 そして勿論、口からも願望が漏れ出ていた。


「あー、なんか出ねぇかな」


 ふと、良は過去に見た番組を思い出す。

 その中では、特に理由もなく悪の組織が放った怪人が民間人を襲うという内容も少なくはない。


 ただ、首領である良がその指示を出さねば、当たりだが怪人は現れる筈もなかった。


「そういや、そういう命令出すのって俺の役目なんだよな……でもなぁ」


 せっかく改造人間に成ったのに、腕を振るう機会が無い。

 

 その事に、良が落胆仕掛けた時、近くでガサっと音がした。


「お? 猫かな?」


 時折、草村や物陰から猫が飛び出すという事例は珍しいモノではない。

 但し、この時に良の目に映ったのは、そんな可愛い者ではなかった。


 三メートルは有りそうな巨大な何か。


 形容すべき言葉を持たないそれは、正に異形である。


「な、なんだぁ!?」思わず、良は声を出していた。


 良は化け物相手に、驚いてしまう。 

 通常であれば、この様な怪物が現れる筈がない。

 

 にも関わらず、それは、良を確かに睨んでいた。


 人に見えなくもない。 

 頭部はあくまでも人間の女性を想わせるが、体躯は大きい割には細く、衣服はまるで陽炎の様に朧気ですら在る。


「ど、どういう事だ? てか、なんだぁ、こいつは!?」


 自分は組織に何らかの指示を出した記憶は無い。

 それでも、化け物が現れてしまった。


 いきなりの事に、良の意識は追い付かない。


「やべぇよやべぇよ………ん? 待てよ?」


 慌てて踵を返して逃げようとしたが、足は縫い付けられたが如く、地面を離れて居なかった。


 異形相手に、良は向き直ると身構える。


「……やってみるか……」


 生身の人間ならば、化け物相手に喧嘩などしないだろう。 

 だが、今の篠原良はただの人間ではない。 改造人間であった。


 新しい玩具を手に入れた子供の如く、良の気分は高揚していた。

 

 変身してこそ居ない。 それでも改造人間は普通ではない。

 丸腰ではあるが、武器を身体に仕込んでいるのと同じであると良は考えた。


 異形の怪物が、ジリジリと良へと距離を詰める。

 お互いの距離が五メートル程に近付いた。


 化け物にしても、改造人間にとっても間合いである。


「じゃあ、行くか」


 ミシミシと音が立つ程に拳を握り締め、いざ、怪物へ跳び掛かろうと良が踏ん張る。


 力む良を止めるが如く「危ない! 下がって!」と声が掛かった。


 機先を制され、体制を崩す。


「うおっ、とと」


 そんな隙を、怪物は見逃してくれなかった。


 微笑んだかと思えば、グワッと蛇の如く口が開く。

 歯が剥き出しの醜悪な口が顎の関節など無視して開き、何かが飛び出す。

 怪物が吐き出したで在ろう何かは、良に当たっていた。


「うぉお!? なんだこりゃあ!? え、あれ?」


 いきなりの事に、慌てる。

 だが、当たった筈の其処には、何も無い。


 何かを当てられた筈なのに、当たったという手応えすらも無かった。


「其処の人! 退いて!」

「うお!?」


 急に現れた何者かは、ドンと良を突き飛ばす。

 今度の衝撃は、確かに良を弾き飛ばしていた。


 無様に倒れる改造人間を後目に現れたのは、少女である。


 どこかの学校の制服らしい姿。


 そんな少女は、化け物と相対しても怖じ気は見せず、持参の鞄から何かをゴソゴソと取り出した。


 出されたそれは、マゼンタ、シアン、イエローとキツい色使い。

 端から見ている分には、ペロペロキャンディかロリポップの類にしか見えない。


 ゆったりと、飴にも見える何かを振り、少女は独特の動きを取った。

 例えるならば、太極拳の類だろうか。


「へーん…………身!」


 掛け声と共に、少女はバッと何かを高々と挙げる。


 次の瞬間、閃光手榴弾(フラッシュバン)並みの光が散った。


「うお! 眩し!?」


 光の量は凄まじく、改造人間ですら眼が眩みそうに成る。

 ただ、並みの人間では見えないモノも、良には見えていた。


 いったいどの様な原理が用いられてはいるのかは定かではない。


 だが、光に包まれた少女はフワリと空中へと浮かぶ。

 着ていた筈の衣服はパッと飛び散るが、光が強さによって少女の肢体が露わに成るのは防がれていた。

 そんな光は、弱まると同時に形を成していく。


 ほんの瞬き程の瞬間ではあるが、なんと、少女の髪の毛の色まで変わり、着ている衣服も、衣装と呼べるモノへと変わっていた。


 眼を眩まされた怪物の前に、少女が降り立つ。


「掛かって来なさい妖魔! 正義の味方、マジカルアイが相手よ!」


 持っていた飴擬きは、キツい色の剣へと変わり、その衣装も派手である。


 変身した謎の少女。

 それを見て、良は首を傾げていた。


「なんだぁ、ありゃあ?」


 改造人間を作り出す悪の組織ですら、未だに理解が及んで居ないのに、これまた輪を掛けて怪しげな少女。

 あまりにも常識外れな事に、良は動けなかった。


 茫然自失な悪の首領などいざ知らず、少女は跳ぶ。

 

「たぁ!」


 勢い良く剣を振りかぶり、化け物へと切り掛かる様は派手だった。


 少女が持つ剣は、見た目通り妖しげな光りを帯びている。

 振られれば、それは彗星が如く軌跡を残した。


 ただ、化け物も大人しくやられるつもりは無いのか、手で剣を受け止める。


「あ! ちぃ……此奴!?」


 必殺の斬撃を止められたからか、少女は焦った。

 その隙を、化け物は待っていたのだろう。


 良に浴びせた時同様に、口を大開にし始める。

 このままでは、【マジカル何たら】がやられかねない。


 其処へ、第三者に介入が在った。


「ラィィ……ぃダーキィーック!」


 掛け声と共に、跳び蹴りを放ったのは、改造人間の良であった。

 変身こそして居ないが、力は生身の人間とは違う。


 大柄な化け物の肩へと、良の足が当たる。

 すると、化け物は吹き飛ばされず、当たった部分が消し飛んでいた。


「おぉ!?」

 

 蹴りを放った本人ですら、目に映る効果に驚く。


 少女の窮地を救うべく、蹴りを放ったのだが、まさか相手の体を抉るとは思って居なかった。


 地面に手を着き、立ち上がる良。


 その眼の先では、肩から先を穿たれた化け物が辛うじて立っていた。

 穴が信じられないと云うように、怪物は震える。


「チャンス!! スーパーエクセレントォ……」


 ここぞとばかりに、少女は剣を振りかざす。

 掛け声に合わせて、剣は光を増した。


「スラァーッシュ!!」


 少女の剣は、まるでバターの様に怪物を両断した。


 切られた怪物が僅かな光を残しながら四散する。

 後には、其処に化け物が居た痕跡すら残らなかった。


「消えちまったぜ……てか、何だよアレは?」


 怪物を見事に討ち果たしたという割には、良に実感は無い。

 それどころか、実のところ蹴りが当たったという手応えすら無かった。

 

 立ち上がる良の耳に、パタパタという足音。

 音の主は、相も変わらず怪しい格好の少女だ。


「其処の人! 大丈夫ですか?」

 

 そう問われた良だが、特段身体に問題は無い。

 在るとすれば、何が起こっているのか理解が出来なかった。


「え? あー、うん。 別に、何ともなってないね」

  

 多少の埃は着いても、それだけである。

 ポンと叩けば、汚れは落とせた。


「えっと、そう言えば……君は」

「え? 私? あ、うん、と」


 良に問われた少女は慌てた。

 目が忙しそうに泳ぐが、直ぐに止まる。


「そ、そんな事よりも! 貴方は! 誰なんですか!? 生身の人間なのに、妖魔と戦うなんて!?」


 声高に少女はそう言う。

 声を上げることで、敢えて自分に向けられた質問をはぐらかしている様だ。


 とは言え、良にしても困る質問である事に間違いない。


「え? 俺? あー、えーと」


【悪の組織の改造人間】かつ【その組織の首領】である。

 が、それは言えるモノではない。


「と、通りすがりの……ただの人です。 それに、君だって……」

「わ、私はそこ……とぅ!」


 良が目を向けた途端、少女はパッと飛び上がる。

 細い脚の割には、電柱の一番上まで軽々と跳んでいた。


「今見た事、忘れて! 後、助けてくれてありがとう!!」


 そう言い残すと、少女は夜の闇へと消えた。

 残された良は、ウーンと鼻を唸らす。


「何だかなぁ……俺って、世間知らずだったのかぁ」


 見知らぬ世界の一端に触れた良。

 だが、本来の目的を思い出し、帰路へと着くのだった。

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