驚愕! 地球救済作戦! その3
「まぁ、とりあえず頭を上げてください。 採用の件に関しては、後日当方から御連絡致しますので」
なかなか帰ろうとしない男を、アナスタシアが取りなす。
なんとか一人目の面接が終わった。
「此方こそ、ありがとうございます! 是非とも是非とも! お願いします!」
そう言葉を残した男は、来た時とは別人の様に陽気に帰って行った。
少し後。
窓に掛けられるブラインドの隙間から、良は帰る男を見て何とも言えない気分にさせられる。
「なぁ、これで良いのかなぁ」
普段の敬語など忘れて、良はそう幹部に尋ねていた。
首領から問われれば、答えるのが幹部の義務である。
「上々ではないかと」
「上々?」
アナスタシアの声に、良は窓から離れる。
「なんでだ? あの人は……」
妻子持ちで、マトモな勤め人だ。
良の声に耳だけ傾けるアナスタシアは、男が帰る前に慌てて出した履歴書を眺めている。
「やる気も在って、組織に忠誠を尽くしてくれる、と。 私としては早速優良物件を確保して申し分ないですよ」
何処となく冷たい印象。 ソレが、今のアナスタシアには在る。
良は忘れて居たが、そもそも彼女も悪の組織の幹部なのだ。
女幹部に取っては、男の見た目がどうのこうのではない。
ただ、改造人間として組織に尽くしてくれる者が欲しいのである。
然も、自分から【改造して欲しい!】とまで云われれば、寧ろ組織に取っては大歓迎な人材だろう。
「アナスタシアさん……」
思わず【あんた冷たいよ】と云いそうに成るが、慌ててその言葉を飲み込んだ。
良好な関係に在る彼女に、無駄に喧嘩を売る理由も無い。
「なんです? 首領?」
ウンと顔を上げた時、アナスタシアはいつもの彼女に戻っていた。
「……アナスタシアさんは、変身出来るんですか?」
思わず、咄嗟に思い付いた質問をぶつける良。
下手に何かを言い出す前に、別の質問を出してしまう。
問われた彼女は、何とも言えない顔を浮かべた。
唇を強めに閉じつつ、目も細くする。
「まぁ、その……一応は」
首領の質問故か、アナスタシアは実に仕方なさげに答えてくれる。
それに対して、良は思わず「マジで?」と答えていた。
アナスタシアがどんな姿に変身するのか。
実のところ良にとっては興味が湧いてしまう。
彼女もまた、自分と同じだという期待が強まる。
以前にも、組織の大幹部であるカンナの姿は見ていた。
ブレードタイガーと恐れられる虎女。
そんな彼女と対立していた青年。
組織の離脱者である蜂型改造人間。
そして、思い返せば分かるが、アナスタシアもまた、大幹部の一人である。
「え? じゃあ」
何とか、部下の姿を探ろうとしてしまう良。
マトモな会社ならば【パワハラ&セクハラ】モノだが、生憎と二人は悪の組織である。
世間一般に置いて、マトモな企業とは取られないだろう。
良の声に、アナスタシアはウッと呻く。
彼女が如何なる理由にて、姿を隠すのか。
「ちょっとだけ、ね? ちょっとだけだからさ」
言葉だけを見ても、権力を盾に部下に迫る変態上司だろう。
それだけでなく、良はアナスタシアとの間合いをじりじりと詰めていく。
いざ、もっと深く探ろうという時、コンコンとドアが鳴っていた。
「あ、やば………ほら、首領! 次の人来ちゃいましたから」
慌てて布を広い、良へと渡すアナスタシア。
部下から衣装を渡された良は、ウーンと呻いた。
ドタバタと慌ただしい動き。
「こほん………どうぞ!」
急いで椅子を元の位置へ戻しつつ、アナスタシアが声を出す。
良もまた、慌てて衣装を被ると、椅子へと座った。
声を掛けた筈なのだが、なかなか入ってこない。
『あれ?』
どうしたのかと、良の腰が椅子から少し浮く。
ソレと同時に、ドアがゆっくりと開かれた。
慌てて姿勢を正す怪しい首領。
そして、部屋に入ってきたのは、若い少女であった。
学生服でなく、纏うのは学校指定らしいジャージ。
「あの……このチラシ……見たんですけど」
組織謹製の募集広告を持つ少女。
彼女から絞り出される様な声は、酷く小さい。
生身の人間で在れば【え? 今なんて?】と聞き返しただろう。
そんな些細な事よりも、良の目を引いたのは少女の顔だった。
長く伸ばされた髪で辛うじて隠れてはいる。
だが、少女の頬には痣がうっすらと見えていた。
「とりあえず、お座りください」
「……すみません」
アナスタシアに促され、少女は椅子へと座る。
ただ、良い姿勢ではなく、寧ろ、可能な限り身を縮めている様であった。
「広告を見て頂いたという事ですが、貴方は改造人間に成りたいんですか?」
面倒くさい手間を抜いて、アナスタシアは率直に尋ねる。
良は、思わず隣の幹部を見た。
『おい、ちょっと……まずいって』
対面に座る少女は、まだどう見ても中学生程であり、高校生に少し達したかどうかという程に幼い。
自称にて【私は大人】と言い張る子も多いが、まだまだ世間知らずな少女である事は明白であった。
だが、そんな良に構わず、アナスタシアは少女を見詰める。
舐め回す様な視線ではなく、寧ろ心配そうな色すら在った。
「ねぇ、貴方。 どうして改造人間になりたいの?」
一応はアナスタシアにも良識が無い訳ではない。
良の様に、それなりに人間らしさも持っている。
質問された少女は、何も答えず、俯く。
何かに耐える様に震えたかと思った所で、少女は顔を上げた。
「理由が無くちゃ、いけないんですか?」
最初の弱さは何処へやら、今の少女には何とも言えない影が在った。
もしも幽霊が実在し、電柱に隠れて居たならば、今の少女は正にソレである。
少女の問いに、アナスタシアはウンと頷いた。
「そうね、必要」
「どうしてですか!」
張り上げられる声は、悲痛だった。
我慢していた何かが、少女から漏れ出している。
「改造人間に成るって事はね、戻れないって事よ?」
諭す様な声は、良にとっても染み入る。
一度改造を施されたならば、それはもはや人ではない。
人の姿を真似しているだけの怪人である。
アナスタシアは、彼女なりに少女を諭そうとしたのだろう。
が、それは少女の都合には無関係である。
「人間やめちゃって、何か問題在るんですか?」
バッと立ち上がった少女は、いきなり自分の衣服に手を掛けた。
『お、おい! ちょっと!』
良は慌てて止めようとする。
が、それをするには長机が邪魔に成ってしまった。
止める間も無く、少女はジャージを脱ぎ捨ててしまう。
晒される肢体はまだまだ女性というには遠い。
ただ、ソレよりも良が驚いたのは肌に残る傷であった。
治っては居るのだろうが、痕は見えてしまう。
「コレじゃ駄目ですか? 誰も助けてくれない。 みんな自分ばっかり! だから、学校の奴らも家の奴らも全員殺したいの!」
切実な声である。 泣く少女は組織に助け求めに来た訳ではない。
自分で何とか出来る力を、彼女は欲していた。
*
とりあえず、少女に衣服を着せ、アナスタシアが支える。
「私にお任せを」と、それだけ言い残して、幹部と少女は部屋から出て行った。
ただ帰しては、何も解決しない。
其処で、良はアナスタシアに任せてしまった。
「どうすりゃ良いんだろうねぇ」
無論、出来ることは在るだろう。
明日にでも少女の通う学校へ乱入し、暴れ回る。
それだけでも、虐めは無くなるかも知れない。
が、そんな事をすれば組織の存在が公に成ってしまう。
その場合、国家と相対する覚悟が必要に成るだろう。
勝てるとしても、どれだけ無為に血が流れるのか、わかったモノではない。
それは、良の望みではなかった。
「改造人間なんざ、無力なもんだなぁ」
今までも、良は自分と同等かそれ以上の輩と対決した事もある。
それらの相手には、辛くも勝利を得てきた。
しかしながら、そんな良でも戦えない相手が居る。
社会というモノに潜む絶対的な悪とは、決して交わる事は無い。
物理的な形として存在していない以上、倒すのは難しい。
暴れた所で、ソレには意味も無く、派手に立ち回るだけの道化師であった。
ウーンと悩む良。
そんな首領の元へ、アナスタシアが戻って来た。
「あぁ、どう、でした?」
「あの子は、大丈夫ですよ」
具体的に何をしたのか、それをはぐらかす幹部。
良としては、少女の後が知りたかったが、アナスタシアは答えない。
「や、でもさ」
「でもも何も、大丈夫ですってば! それよりも! まだまだ来るんですからね?」
勢いで押し切る女幹部に、首領は、黙らされてしまった。
*
少女の後も、続々と面接希望は絶えなかった。
中には、ただの冷やかしも居たが、全員がそうでもない。
何故ならば、なんと現職の警察官という者まで面接に来たのだ。
然も、その警察官は悪の組織を捜査しに来た訳ではない。
【自分の力では倒せない悪と戦う為の力が欲しい!】とまで宣言している。
最初こそ、良は改造人間志願者など居ないと想っていた。
だが、僅か二時間程で、それが甘い考えだと思い知らされた。
長机に突っ伏す首領。
『あー……参るね……まだ来るのかなぁ』
どんな窮地ですら弱音を吐かない良ではあるが、面接官という職務は彼を打ちのめしていた。
無論、助手を努めるアナスタシアもフゥと息を吐く。
「えぇと、後は……一人ですね。 もうチョットですから!」
『はーい』
女幹部に突っつかれ、首領が頭を上げる。
そして、再びドアがトントンと叩かれた。




