驚愕! 地球救済作戦!
出逢いが在れば別れ在り。
新たなるマシンを手にし、順風満帆な篠原良。
彼は恐るべき悪の組織の首領である。
しかしながら、そんな首領も知らない遠くの場所では、別の計画が進められていた。
*
其処は何処かという事を示すモノは見えない。
ソレほどの自然の中と言える。
ただ、十数人のグループが、キャンプを楽しんでいた。
ランタンの照らす灯りに、傾けられる酒に焼いた肉。
在る意味、野外の生活にも見えなくもない。
若い集団がのんびりと時間を楽しむ。
そんな中で、一人の青年が立ち上がった。
「うぇーい! 俺、ちょっとクリスタルと話してくる!」
白人の青年がそう宣言すると、仲間達が手を叩いた。
「よぉし! ソレでこそ男だ! いっちょお前のタマを見せてやれ!」
「頑張れよ!」
酒の勢いか、皆が皆上機嫌であった。
「いって参ります!」
兵隊の敬礼風に決めると、青年は林の中へと分け入る。
それを見て、仲間達はヒソヒソも話し合っていた。
「なぁ、お前どう想う?」
問われた別の青年は、ニヤニヤと笑った。
「クリスタルだろ? あんな尻軽に惚れるなんて気が知れねーよ」
酔いのせいか、ケタケタと彼は笑った。
「ま、練習には良いんじゃないか? その内野郎も気付くって」
「うん、だな! 何事も経験ってな!」
そう言うと、二人の青年は持っていたビールの小瓶をカチンと当てた。
*
「おーい! クリスタル!?」
酔いに任せて、意中の女性を探す青年。
時折ふらつきながらも、木に助けを借りながら進む。
深夜、在るところで会おうと、青年は既に約束をしていた。
無論、それらは交際を願い出る味付けの様なモノだが、青年は少し失敗を感じても居た。
「あー、どうせなら、もっと楽な場所にすれば良かった」
後悔後に立たず。
それでも、青年は同世代の異性との一時を夢見て進む。
程なく、約束の場所に近付いた。
「お? 彼処だな」
よくよく目を凝らせば、ランタンらしい灯り。
見える光に、青年はフラフラと蛾のように近付いていく。
「おーい」
声を掛けてみる。 が、返事は無い。
「あれ?」
何事かと近付くに連れ分かることもある。
ガサガサという音に、何か粘着く様な音が聞こえるのだ。
「なんだ、クリスタル……」
いざ、ランタンの灯りでソレが照らし出される。
見た青年は、顔を青くした。
得体の知れない生き物が居る。
一見するとチンパンジーか何かにも見えなくもないが、全く違う。
そんな生き物は、何かを食べていた。
グチャグチャと咀嚼する音に、青年は思わずヒッと声を漏らしてしまう。
青年のうっかり出した音は、食事に夢中の生き物にも聞こえた。
グルリと振り向くのだが、見える生き物の顔は、見たこともない程に醜い。
「な、なんだ? なんだってこんなのが」
恐れながらも、青年は目を凝らすが、ふと、見えてしまった。
怪物が食べていたのは、彼が探していた人である。
殆ど原型は残っていない。
だが、僅かに覗く頭部には、面影が名残としてへばりついていた。
怯える青年を見るなり、怪物は目を細めた。
鼻をグルルと唸らせ、持っていた肉を放り捨てる。
「ひぃ!?」
慌てて逃げ出そうとする青年。 だが、直ぐに足は止まる。
青年が気付かぬ内に、他の怪物が周りをすっかりと取り囲んでいた。
林の奥で、悲鳴が上がる。 しかしながら、それは届くことはない。
*
世界の何処かで事件が起こるとも、それに気付ける者は多くはない。
悪の組織の首領は、久々にゆったりとテレビを眺めていた。
「あー、最近急にあれやこれや在ったからなぁ」
フゥと息を吐きながら、ベッドへと身体を横たえる。
幹部であるアナスタシアからは、再三に渡って本部基地への移住を勧められては居た。
ただ、良からするとどうにも堅苦しいのは身に合わず、結局は以前から住み慣れたアパートに居た。
生活費は以前に比べると著しく安く成っている。
殆ど飲み食いをせず、時折居るだけなのだから当たり前と言えばそうだろう。
しかしながら、当然の様に家賃は掛かる。
首領とはいえ別に良は金持ちではない
「うーん……どうしたのもんかねぇ?」
このまま住んでいても何の問題も無い。
が、ソレもまた問題と言えた。
果たして、自分はいつまでも此処に居るのだろうか。
其処でふと、良は手を見る。
見慣れた筈のソレは、以前の記憶に残っている手と変わらない。
そして、それは当然ではなかった。
多少なりとも、何かをすれば変化は起こる。
だが、良の身体はまるで時が止まってしまった様に変わらないのだ。
手を握っては開いて見る。
自分の思い通りに動かせるのだが、果たして、それは本当の手なのか。
うーんと唸る良。
『大変な事件か起きた模様です!』
そんな声に、良は其方へ目をやる。
「お? なんだなんだ?」
またしても何処かの誰かが何かを起こしてしまったのかと気にする。
『……国の山中に置いて、十人程のグループが行方不明となり、捜索されたのですが、翌日、グループは発見はされました。 ただ、見つかったのは身体の一部だけであり、他は不明。 キャンプ道具等もそのままである事から、何か重大な事件に巻き込まれたのかと目下捜査中だそうです』
アナウンサーの声に、良はベッドに座ると腕を組む。
「ははぁ、こりゃあエラい事に成ってるなぁ」
事件が起きているのは分かるが、果たしてそれがどんな事件なのかもわからない。
自分は関わるべきなのか。 良は悩んでいた。
もしも、自分達以外の組織が関わってるならば、由々しき事態でもある。
どうしたものかどうか、悩む良のスマートフォンに着信音が鳴った。
「お? まさか……」
すわ、早速の事かと身構え、良は鳴り響くソレを手に取る。
「はい、もしもし」
『首領!』
聞こえてくるのは、女幹部アナスタシアの声。
「はい、なんすか?」
『今大丈夫ですか! 用が在るんです!』
切羽詰まった感じの声に、良は膝をポンと叩く。
「あ、はいはい、大丈夫ですよ? でと、基地へですか?」
『いぇ、ちょっと違う場所なんですが』
「はぁ、で、何処っすか?」
『其方の方へ地図と位置を送りますので、それで来られます? アレでしたら、迎えをやりますが?』
アナスタシアは心配そうだが、良も一応は大人としての自覚は在った。
「あーい、今行きまーす!」
そう言うと、良はスマートフォンの画面を弄った。
パッと立ち上がると、ササッと着替えを終える。
家を出る際、ヘルメットを手に取った。
*
つい最近、専用のマシンを得た良。
組織の謹製故か、傍目には地味かも知れないが専らの足である。
通勤に、日常にと大活躍のマシンへ跨がった。
わざわざ迎えを待つまでもなく、自分から赴く。
「おっしゃー、行くぞー!」
パッとライトを灯すと、良を乗せたマシンは駆け出した。
行き慣れた基地とは違う場所を指定されてしまった良ではあるが、そこはソレ、文明の利器が手助けをしてくれる。
指定された場所は、基地の在る山の中ではなく、街の中であった。
夜の街を流すという事も、良にとっては久しい。
よくよく見れば、街は平和に見える。
友人同士か、会社の集まりか、もしくは家族連れ。
それだけを見ていれば、世界は平和にも見えていた。
暫く後。
バタタと音を立ててマシンが止まったのは、街中のビルの前である。
「えぇ? こんな事で何すんだろ」
チラリと見てみれば、組織の運用する車の何台かも見える。
うーんと唸りながらも、良はマシンを留めると、建物へと向かった。
*
自動ドアを潜り抜け、中へと入る。
其処の内装自体はそう大したモノではない。
目新しいモノは見えないが、良はギョッとしていた。
「首領! 夜分にわざわざありがとうございます!」
そう言うのは、アナスタシアである。
そんな彼女と対面した良は、今までにない顔を浮かべていた。
「こんばん、は。 えーと、アナスタシアさん……ですよね?」
そう言う良の目には、いつもの【女幹部】といった格好ではなく、ビジネススーツに身を包んだアナスタシアが居たのだ。
顔こそ同じだが、細めの眼鏡に結われた髪、纏う衣服のせいか大分印象が違う。
戸惑いを隠さない首領に、女幹部は唇を尖らせた。
「そうです、私ですよ? なんですか?」
普段から【痴女紛い】の格好しか見ていないからか、如何にも出来るキャリアウーマンといった風情に、良は感慨深いモノを感じていた。
「いやぁ、なんつーか、ええと……似合ってますよ」
なるべくなら、当たり障りの無い言葉を選んだつもりの良である。
下手に【馬子にも衣装】などと言えば後が怖い。
ともかくも、良の放った一言にアナスタシアは意外な反応を見せた。
目を丸くして、キョトンとした顔を浮かべる。
それは、正しく鳩が不意打ちに豆を喰らった様であった。
「アナスタシアさん?」
「え? あ、えーと、はい?」
「とにかく、今回はなんですか?」
良の声に、アナスタシアは少し残念そうな顔を浮かべるが、直ぐに真面目なモノへと変わった。
「……んっんぅ……コレです」
そう言って、一枚の紙が差し出され、ソレを受け取る良。
「どらどら……ん?」
紙を見て、良は唸る。
紙面には【求む! 改造人間志願者!】と見出しが踊っていた。




