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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
絶望! 世界滅亡計画!
36/112

何処かで見たことがある公園にて


「あ! ちょっとトイレ行って来まーす!」


 そんな言い訳を残して、良は宴会を離れた。


   *

 

 言い訳をしてまで、何処かへ行きたくなる。

 何故そうするのか、実のところは本人ですらわからなかった。


「あれー……なんだ? なんなんだろう」


 胸の内で【何処かへ行くぞ】とだけ伝えてくる。

 が、そもそも良はそれが何処かも知らない。

 

 ウロウロと基地の中を彷徨く。


「あーと? 何処だったかな」


 何かを探して彷徨く良。


 そんな背中に「首領!」と声が掛かった。

 本来なら、いきなり声を掛けられれば驚くだろう。

 

 しかし、何故か良は全くと言って良いほどに驚かない。

 

 それどころか、声を掛けられる事を知っていた様な気すらした。


「あぁ、博士か」

「どうしたんです? トイレはコッチじゃないですけど?」


 博士の声に、良は唸る。

 今初めて云われている筈なのに、そう感じない。

 

「えーと、なんか、外の空気が吸いたいなぁ……って」


 良がそう言うと、博士はフフンと鼻を鳴らした。


「あー、まぁ、そういう時も在りますよね。 じゃあ、良いモノを見せましょう!」


 そう言うと、博士は良の手を取る。

 

 何処かへ連れて行かれるのだが、良は何故だか行く先を知っている様な気がしていた。


   *


 博士が良を案内したのは、組織の格納庫である。 

 様々な車両が置いてあり、勿論、それらを見るのは初めての筈だった。


「んー?」


 顎に指をやり、鼻を唸らせる。

 そんな良に、博士が首を傾げていた。


「どうしたんです? さっきから唸って居られますが?」


 心配そうな博士に、良の唸りは止まらない。


「いやぁ、俺……此処に来たこと無いなってさ」

「あー、まぁ、今後は使うことも在りますよね。 とにかく! こっちですよ」


 見覚えが無い。 にもかかわらず、在る様な気がする。 

 なんとも言えない感覚に、良は悩んだ。


 悩む良の前で、博士は在るモノの側で足を止めた。 

 雨除けのカバーが掛けられた何か。


「それって……」


 中身が何なのかは知らないが、良は指差す。

 ソレを受けて、博士はニヤリと笑うとカバーをバッと取った。


「ジャジャーン!! 前もって用意したんです! 首領専用のマシンですよ!」

 

 自信満々といった博士。 

 彼女が用意していたのは、良専用のマシーンだった。


 傍目には、ただの原動機付き自転車である。

 だが、嫌ではなく、寧ろ懐かしさすら感じてしまう


「……あの? 首領?」 

「え? あーどうしたの?」

「もしかしたらですけど、嫌ですか?」

 

 自分が用意したマシンでは不服なのかと焦る博士。 

 それに対して、良は労う様に微笑む。


「いやいや……わざわざ用意してくれたんだよなってさ」


 そう言いながら、良はマシンの前に立つ。 

 ソッと各部を見てみるが、初めて出逢う筈なのに、初めてではない。


 無論、人生に置いて何処かで見たことも在るだろう。 

 だが良が感じているのは、そう言った記憶ではなく、古い友人に出逢った時の様な感覚だった。


「な、博士」

「はい!」

「コレ、少し乗ってきて良いかな?」


 良が気まずそうに尋ねると、博士は用意しておいたヘルメットを差し出す。


「勿論ですよ! その為に用意したんですから!」


 ヘルメットを受け取ると、良はそれを被る。

 初めて着ける割には、ヤケにしっくりと来るのだ。


 そして、マシンに跨がれば、やはり自然とエンジンが掛けられる。

 ああでもないこうでもないという説明は、何故か不要であった。


「おー、調子良いじゃない?」

    

 軽くアクセルを捻ってやれば、エンジンは快調に主に従う。

 そんな感覚が、妙に懐かしい。


 知っていない筈なのに、良は知っていた気がした。


 格納庫の蓋が開き、外の光が差し込む。


 バルンバルンとエンジンを響かせながらも、良は博士を見る。


「あ! そういや博士!」

「はい? なんですか」

「俺さ、まだ名前聞いてなかったよね?」

  

 唐突に、良はそんな質問をしていた。

 急に知らない筈の事を知りたくなる。

 

 問われた博士は、急な事に目を丸くしてしまう。

 が、直ぐに後ろ手にモジモジとすると、少しだけ俯いた。


「リサです……高橋、リサ」

「そっか。 俺、篠原良です」


 急に自己紹介を始める良に、博士は頬を染めた。

 

「は、はい……知ってますけど」


 オドオドとした博士に、良は笑う。


「ソレと、宴会の方の言い訳頼んで良い? ほら、原チャリの二人乗りはマズいからさ」

 

 良はそう言うと、マシンを走らせる。

 急に走り出した首領の後を、博士が慌てて追う。


「ちょっと!」


 慌てて追いかけようとした博士だが、足が止まる。

 何故かは知らないが、博士の胸の内が少しチクッとしていた。


「もう、ちょっとぐらい良いじゃないですかぁ」


 遠くなっていく良の姿に、博士はフゥと悩ましげに息を吐いた。


「じゃ、次は90でも用意しておこうかな」


 原動機付き自転車は、二人乗りは御法度である。 

 が、それ以上であれば、問題は無かった。


   *


 良く晴れた空の下を、マシンは走る。

 軽く基地の周りを回るだけのつもりが、良は、何故か道を走っていた。


 何故なのかは知らないが【在る場所】へ行かなければ成らない。

 其処に何が在るのかも知らない筈なのに、良は其処へと向かう。


 暫くのマシンを走らせると、良は其処へと辿り着く。


 其処は、広くゆったりとした公園であった。


 パタパタとマシン走らせると、駐輪場へ留める。

 ザッとマシンから降りると、ヘルメットを取った。


「あーれー? えーと…」 


 折角の宴会をすっぽかしてまで、公園へ来た。

 辺りを見れば、良以外の人達も居り、賑わいを見せてくれる。


 マシンの鍵を抜くと、良は近場の人へ声を掛けた。


「すみません!」

「はい? なんですか?」

「此処って、ずっと公園なんですか?」


 問われた人は、首を傾げる。


「えぇ、比較的最近に造られたんですがね、まぁ、結構前から在りますよ」

「あ、すみません、ありがとうございました」


 通行人へ礼を贈った良。

 なんとも言えない違和感だけが、良の中には在った。


   *


 公園を適当に散策するのだが、華やかだろう。

 よく手入れされた花壇に、和やかな雰囲気。


 街の喧騒を離れて、心を癒すには持って来いの場所と言える。


 そんな平穏な公園の中で、良は唸っていた。


「あれ? 俺は、前に来た……訳ないよなぁ」


 何故和やかな公園に、一人で来てしまったのか、良は戸惑う。

 どうせならば、博士か誰かを連れて来れば絵に成っただろう。


 事実、公園には男女のカップルや親子連れなども多い。  


「あー、参ったな」


 公園に改造人間独りで来る。

 そう自嘲めいた良だが、一応の理由は分かっていた。


【とにかく、来なければ成らない】


 理由がわからないのに、そんな言葉が頭に浮かぶ。  

 

 そして、胸の内に在る何かに任せて、良は公園の奥へと進んだ。

 

 公園の奥には、施設が用意されていた。

 上げられている登りを見れば分かるが、飲食店も併設されているのだろう。


【味自慢!】【コーヒー】【スパゲッティ】【カツ丼】【サラダ】


 そんな五本の登りが、風に揺られて踊る。

 ソレを見て、益々良の中の違和感は強まっていた。 


 知っている筈なのに、知らない。

 知らない筈なのに、知っている。


「おっかしぃなぁ……やっぱりアナスタシアさんの云うとおり、頭やっちまったのか、俺?」


 自分の中の違和感に、良は故障を疑った。

 だが、身体に違和感は無い。 在るのは心の中である。


 うーんと唸ると、良は腕を組んで公園の施設を見た。


 全く知らない筈のソレは、見慣れた気すらする。

 何処かで見た様な感覚が拭えない。


「あー、コレはアレか? で、デジャ……えーと」


 ウンウン唸る良に、ソッと近付く気配。


「失礼」


 ハッと其方を窺うと、其処には良の知らない人が居た。


「えーと、あの?」

「デジャビュではないですか? ほら、既視感ってモノですよ」


 急に話し掛けられ、良は焦る。

 話し掛けて来た女性だが、ハッと成るほどに綺麗な人だった。


「き、きしかん? あぁ、なるほど?」


 分かってないのに、わかったフリをする。

 そんな良に、女性は微笑んだ。


「一度も経験が無いのに、在った様な気がする事ですよ」


 女性の説明は、良にとってみれば分かり易いと同時に驚くモノがある。

 何故かは知らないが、目の前の女性を知っていた様な気がしたのだ。


「あー、はー、なるほど? あー、えーと?」

「どうか、されて?」

「いや、あの……いきなりで失礼ですけど、どっかで会いましたっけ?」


 良が怖ず怖ずと尋ねると、女性はなんとも言えない顔を覗かせる。

 微笑んで居る筈なのに、ヤケに寂しそうなのだ。


「いえ……今、初めて逢いました」


 女性の答えに、良はヤケに胸の中が痛くなるのを感じる。

 別に彼女を悲しませたつもりも無ければ、何かしたつもりも無い。

 にもかかわらず、良は苦しさだけがある。


「いや、あの……俺は」

 

 悩みながらも、良は貴方を知っていると、そう言おうとした。

 胸の中に【絶対に忘れたくない】という何かが在った。


「えーと、えーと? ……え」


 何かが喉まで出掛ける。 

 その途端に、良のポケットから派手に着信音が響いてしまう。


「あ! ち、ちょっとすみません!」


 女性に詫びつつ、スマートフォンの通話を繋げる良。


「はい? なんすか?」

『はいじゃないですよ! 何処に居るんですか!!』


 怒声の主は、アナスタシアであった。


「え? あー、ちょっと、外の空気を吸いに」


 慌てて言い訳をすると、向こうでガタガタと音が聞こえた。

 どうやら争っているらしい。


『しゅりょー!? あたしを見捨てるんですかぁ!?』

「あー! ハイハイ! すんません! 直ぐ戻るから、ね?」


 聞こえて来た虎女の声に、良は慌てて弁解していた。


「参ったね」

 

 スマートフォンをポケットへと押し込みつつ、良は今一度女性と顔を合わせる。


「あ、すみません……初対面なのに、急に変な話をしてしまいまして」


 詫びる良に、女性はゆったりと首を横へと振った。


「構いませんよ。 私も、連れを待たせて居ますので」

「ああ、お連れさん……あ、じゃあ、この辺で! また!」


 特に知り合いでもない以上、良が女性と付き合う理由は無い。

 後ろ髪引かれる思いだが、留まる理由が無かった。


「変わらないんだね、君は……」


 誰にも聞こえない様な声は、風に混じって届くことはない。


   *


 慌てて駆け出して行く青年を、女性は無言で見送った後。


「おーい! そっちに居たのか? 探したんだぜ?」


 届く声に、女性は振り向く。

 向けられた視線の先には、良に似た同じ年頃の青年。


「何を云う? 君の方が待たせたんだろう?」


 そう言う女の顔には、満面の笑みが在った。 

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