絶望! 世界滅亡計画! その10
─首領、聞こえるか?─
割れた音に混じって届く声に、良は笑う。
苦しさから咳き込むが、呻きは喉で押し殺す。
『……ああ、感度は良好だぜ』
─エネルギーは充填完了だ、いつでも行ける。 全ては、君のお陰だよ─
ようやくという声に、良は空を見上げた。
割れた画面は所々に砂嵐が混じるが、まだ視界は確保されている。
其処から、すっかりと施設を覆う黒い雲が渦巻く。
端から見ている分には、世界の終わりの一歩手前にも見えた。
『じゃあ、そろそろ……出発かい?』
戦って居た時間は、数分にも数時間にも感じた。
実際の時間はわからない。
─ああ、君には世話を掛けた─
息を吸おうとするだけでも、身体に激痛が走る。
『なぁ……まだ行かないのか? 待たせてんだろ?』
割れた胸の痛みに、良はまたもせき込むが、無理にそれを抑えた。
自分の状態など、知られたくない。
が、管理する側から見ればそれは一目瞭然であった。
如何に強固な装甲に護られているとは言え、内部の損傷は筒抜けだ。
何もかもを犠牲にしてでも、世界を変えようとする。
そんな勝手な計画に、良を巻き込んでしまった女。
─ただ、一言……君に礼が云いたくてな─
伝わってくる辛そうな声に、良はフフンと鼻を鳴らした。
『へっ、気にすんなって、俺が好きでやった事さ』
半笑いの声に、応答からは悔しげな呻きが届いた。
─行く前に、聴かせてくれないか?─
懇願とも取れる声。
『何を?』
─どうしてなんだ? なぜ、手を貸してくれた?─
問われた良は、悔しげに笑った。
英雄だからと格好付けるのは無理がある。
何せ、今している事は【世界を壊す】事に他ならない。
悪と言えば、これほどの悪行も無いだろう。
平和を打ち壊し、世界を造り直すのだ。
「バカだって笑ってくれるか? 俺はさ、あんたに惚れたんだ。 ま、一目惚れかな?」
良の告白に、息を飲む音がしたが、良は構わず続ける。
事が終わったならば、自分は何もかも覚えて居ない。
で在れば、恥や遠慮など無意味であった。
『なにかとか、平和とか、世界がどうとか、そんなもんどうでも良くってさ。 たった一人の為に、自分も何もかもを懸ける。 そんなあんたにね』
自分の状態を知っているからこそ、良は偽らない。
瀕死の寸前にて、見栄を張る理由など無かった。
『だからさ、何とかしてやりたいだろ? 惚れた誰かの為にさ』
返事は無い。 それでも、良は続ける。
『すっげー馬鹿だろ? 自分が、好きに成った誰かの為に、何か少しでもしてやりたかったんだ』
自嘲めいた声ではあるが、それを聴く者にとっては辛い。
─君は……君はそれでもいいのか?─
躊躇いを感じさせる声に、良は無理に笑った。
『良いのか? 良くないさ。 惚れた相手は遠くへ行っちまう。 世界は壊れる。 でも、コレで良いんだ。 たぶん、俺はあんたを忘れちゃうからな。 胸は痛まないだろ」
速く行け、そういう声を飲み込む良。
─私は……君にどう礼をすれば良いんだ? どう報いれば良い?─
問われた事に、良は唸る。
女が旅立った後で礼を貰っても、それに良は気付く事はない。
が、在る一つの事柄を思い付く。
『あー、そう言えばさ、まだ……名前聞いてなかったかな?』
苦しげな声に対する反応は、辛そうな呻き。
─……エイトだ。 本当は八番だが、彼がくれたんだ─
聞こえた名前に、良はフッと息を吐いた。
「そっか、覚えた。 良い名前だ」
時間が改変された結果について、既に知らされている。
全てが順調に運んだ場合は、良は何も知らない事になるのだ。
負った傷も、起こした事も、今知った何もかも消える。
─すまない。 良─
『良いんだって、好きに成った奴の為に、あんただって全てを捨てんだろ? 俺だってやりたいんだ。 一生に一度の大馬鹿さ』
良の声に応答は無い。
それでも、ザリザリという音は聞こえた。
雑音ではあるが、葛藤にも聞こえる。
─ありがとう。 こんな文字だけじゃ、君に報いを払えないよ─
寂しさを感じさせる声に、良は最後の力を振り絞る。
アーマーの機能は殆ど死んでいる。
が、動けない訳でもなかった。
ボロボロのアクティブアーマーが、再び立ち上がる。
【CAUTION!! APPROACH WARNING!! 】
先程説明が在ったが、スーパーレンジャーは危機に陥ればまた強くなる。
既に、大きな巨体が起き上がり出していた。
『正義は、死ななぁあああい!!』
動き出すスーパーロボに、良は舌打ちを漏らす。
『たくよう、手に負えねぇよ、正義の味方って奴は』
弱音を吐く良の前で、スーパーロボがゆったりと立ち上がる。
それだけではない。
遠くから、また別の支援機が既に向かって来ていた。
如何に倒しても、更に強くなっていく、それは驚異以外何ものでもない。
『スゥーパァー!! チェーンジ!』
掛け声と共に、スーパーロボに増援が取り付いた。
全体的に、更に強化されていく。
もはや、打つべき手が少ない良。
半壊しても尚動く鎧のその中では、良が笑っていた。
『奥の手ってか? それなら、俺にも在るんだぜ!』
ブンと音を立てて、アーマーが両腕を広げる。
次の瞬間、バンと音を立てて手が打ち鳴らされた。
不可視の波動が、良を中心に広がる。
ソレは以前に、知人の少女を助けた最後の手だった。
【異変を消し去る】
つまり、物理法則を無視する事は出来なくなる。
大型のロボともなれば、その操縦席も高い位置にある。
地面に立って反復横飛びをする程度ならば、人は動じない。
が、その幅が何十メートルともなれば、話は違った。
*
「「「「「うわぁああああ!? なんなんだぁ!?」」」」」
スーパーロボの中では、五人があっちこっちに飛び、ぶつかっていた。
原理の不明の力は、良によって消されている。
つまり、スーパーレンジャーはただのタイツを纏った一般人と同義だ。
もしも、彼等がキチンと席に着き、シートベルトを着けていたなら、或いは違っただろう。
が、スーパーロボには操縦者を護るべき安全装置が無い。
で在れば、その中身はミキサーに放り込まれたのと変わらない。
あっちこっち体をぶつけ、終いにはヘルメットの中に嘔吐する。
気絶出来た者は、寧ろ幸いだろう。
無敵のロボの操縦席は、阿鼻叫喚であった。
*
脳震盪でも起こした様に、強化スーパーロボがフラフラと揺れた。
泥酔したかの様に、巨体が揺れる。
揺れが強くなればなるほど、益々中身への被害は甚大であった。
千鳥足でフラつき、バランスを保とうとすれば更に揺れる。
もはや、正義のスーパーロボは巨大な酔っ払いであった。
そんな巨人の前では、鎧を纏う良が居る。
『速く行けって! 俺が立っているうちにな!』
蓄電は切れ、鎧は半壊。
動く事すら容易ではない。 にも関わらず膝を折らない。
それは、機械ではなく魂の成せる技だ。
最後の最後まで、意地を示す為に立っていた。
*
無線の此方側では、佇む女、エイトが居た。
全てを捨てた筈なのに、目尻からは涙が零れ落ちる。
『まだ、残ってたのか』
拭った温もりを握り締め、エイトはタイムマシンへ進む。
枯れた果てた筈の涙が、とめどなく落ちる。
『良……聞こえるかはわからないが、最後に一つ言わせてくれないか』
機械は息を吸い込む意味は無い。
それでも、エイトは深く息を吸い込んだ。
『ただの機械に過ぎない私に、君も良くしてくれた。 ありがとう、友よ』
静かな足取りにて、タイムマシンへと入り込む。
時間を巻き戻し、無くしたモノを取り返す為に。
『君に会えて良かった』
長く響く声。 そして、辺りを光が包んでいた。
*
施設を覆う雲の中に、光球が現れる。
雲は稲妻を纏い荒れ狂い、渦を巻きながら加速していく。
落雷の様な音を響かせ、光は辺りを真っ白へと変えた。
*
在る場所にて、瞬きが起こる。
「……ん?」
ハッと気付く良は、鼻を唸らせた。 何かが起こった様な気がする。
だが、それが何なのかはわからない。
「あれ? お?」
「どうされました?」
辺りを窺う首領に、女幹部アナスタシアが首を傾げた。
「え、あ、いや、俺……此処に居たよね?」
確認の意味を込めて尋ねるが、アナスタシアは片方の眉をヒョイと上げる。
「はい、先程から居ましたけども?」
「あー、そっか、うん、そう……だよな」
何かがおかしい。 それは、何故だか分かる。
にも関わらず、何も起こっていない。
慌てて見てみれば、宴も賑やかである。
ただ、奇妙な違和感だけが、良には在った。
「あれ、おっかしいな」
「どうしたんです?」
「いや、なんか、俺……何かしてた様な気がするんですわ」
首領のやる気の無い声に、アナスタシアはハァと息を吐く。
「大丈夫なんですか? まさか! 以前の戦闘による損傷が!?」
そう言われても、良の体に異常は無い。
ただ、ムーという唸りが聞こえた。
「しゅりょー」
目を細め、じろりと睨んでくる虎女。
その頭を良は慌てて撫でていた。
「あー、ごめんなさい。 ほーら、ナデナデだぞ」
良が撫でると、虎女の喉がゴロゴロと鳴る。
大幹部の頭を撫でながら、良は首を傾げていた。
「あるぇ? 俺……絶対なんかしてたんだよなぁ?」
自分は何か違う事をしていた筈だ。
しかしながら、良はそれが何なのかを知らない。




