絶望! 世界滅亡計画! その9
スーパーレンジャーの囲いから抜け出し、今一度五人と対峙する巨人。
決め手に欠ける良に対して、五人はお互いの顔を見合わせた。
何が起こるにせよ、悪を止める義務感に彼等は駆られる。
「こうなったら、皆! アレを使うぞ!」
「「「「おう!」」」」
レッドを先頭に、五人が縦一列に並ぶ。
「「「「「スーパーキャノン! セット!」」」」」
五人の掛け声。
すると、何処からともなく、巨大な何かが出現した。
五色の光が形を描き、砲台を描いた途端、それは実物として其処に顕在する。
その様子を見て、良は兜の中で笑った。
『あぁ、道理で引っ掛かる訳だわ』
─不味いぞ首領! あれは奴らの最終武器だ! アレを食らったら幾らアクティブアーマーでも保たないぞ!─
焦る通信の声に、良はうーんと鼻を唸らせる。
『なぁ、鎧の前、開けられるか?』
─どうするつもりだ!?─
『良いから、開けてくれ。 考えが在るんだ』
─……わかった─
苦渋の声と共に、巨人の前が開く。
中からは、良がヒョイと降り立った。
無論、スーパーレンジャーも黙っている訳ではない。
派手な音と共に、既に大砲のエネルギーを充填させていたのだ。
「「「「「スーパー………シュート!!」」」」」
五人の声に合わせて、五色の光が大砲から発射される。
『さてさて、と』
絶望的な砲撃に対して、良がするのは軽く手をあげるだけだった。
良にとってみれば、以前に同じ事をされた経験がある。
つまり、敵の正体を見抜いていたのだ。
幽霊の正体見たりと、恐れは消え失せる。
五色の光は、悪の改造人間を消し去る筈。
過去、多くの怪人を屠った筈の光。
そう思った五人が見たモノは、あっという間に消え去る光だった。
「え?」「嘘?」「当たった……のよね?」「うん」「なんで」
焦るスーパーレンジャーに、良は肩を竦めてみせた。
『あー、悪いな? お前らの……えーと、その、なんだか知らんが、得体の知れない力ってのさ、俺には効かねーんだわ』
以前にも、魔法少女と戦った事がある。
現れた五人も、見た目は違うが似たようなモノだと判断した良の推測は間違っては居なかった。
『さて、ネタが上がっちまえばコッチのモンだよな?』
余裕綽々と歩いてくる改造人間。
そんな姿に、五人は焦る。
「こ、このままでは」
焦るレッドは空を見上げた。
晴天は既にすっかりと姿を変えている。
今や、施設の上空には渦を巻いた雲が黒々と集っていた。
「皆、諦めるな! 最後の手段だ!」
この期に及んで、諦める気配の無い五人。
それを見て、良はどうすべきかを悩む。
マトモに戦おうモノなら、相手殺しかねない。
その方が簡単とは言え、良には迷いが在った。 迷いは、隙である。
「今だ! 飛べ! とう!!」
レッドの合図に、五人が跳ぶ。
何事かと上を見上げれば、彼等を運んできた支援機が居た。
『やべー………曇ってて気付かなかった』
そんな良の見ている前で、五人は支援機から放たれる謎の光線によって中へと吸い込まれて行った。
*
如何なる技術を用いて転送されのかは不明だが、五人は支援機の中枢へ。
そして、各々が専用の席へと座る。
「スーパーバード! スーパーロボへ変形!!」
「「「「了解!!」」」」
そんな声と共に、五人が同時に安全装置らしい何かを弄った。
*
外から見ている良は、信じられない光景に驚きが隠せない。
『マジなのか、あんなデッケェのが変形まですんの』
軽く五十メートルは有りそうな支援機が、瞬く間に姿を変える。
機首が上空を向いた途端に、主翼が腕へ、尾翼側は脚へ。
そして、パカッと割れた機首からは、ヤケにゴツい頭が現れる。
その間は、凡そ二秒ほど。
飛行機は、大型の人型兵器に変形を完了していた。
『スーパーロボ!! 推っ参!!』
ドスンと着地するだけでも、地面が地震の様に揺れた。
『おいおいおい、そんなの在りかよ!』
とてもではないが、勝てる気がしない。
何せ見上げる程に相手は大きいのだ。
果たして、相手が異変なのかどうか、判断するのは難しい。
もしも、相手の力を打ち消せなければ、ブチっと踏み潰されて終わるだろう。
慌てて鎧へと戻り、中へ入る。
開いていた部分は閉じられ、巨大なスーパーロボが対峙していた。
1対1とは言え、その大きさは比較するのも馬鹿らしくなる。
『食らえ! スーパーキィック!!』
山彦の様に響くレッドの声。
それに合わせて、大巨人の足が動いた。
派手な割には、ただの蹴りである。
避けようと思えば、避けられるだろう。
しかしながら、このままでは敵のロボに施設を壊される。
『あーもー、やるっきゃねーのかな』
意を決し、良はキックを受け止めた。
鎧の各部が軋み、視界は歪む。
『ぬあああ! 冗談じゃねーぞ!?』
なんとか受け止めたとは言え、大きさの不利は著しい。
そんな良の耳に、雑音が響く。
『首領? 今どこに居るんですか? トイレ長過ぎです!』
聞こえてくるのは、本部に居るであろう博士の声である。
『あぁ、博士か!? 今チョット、立て込んでてねぇ!?』
踏ん張る様に漏れる良の声に、うーんと唸りが届いた。
『立て込んでるって? コッチも大変なんですよ! カンナさんが首領が居ないって大騒ぎなんですから!』
至って呑気な本部の博士に、良は必死である。
『いま、なぁ! デッケーロボットと戦ってんだよ!』
出来るだけ、今の状況を簡潔に伝える。
すると、また雑音が響いた。
『しゅりょー!? あたしを置いて何処へ行ってるんですかぁ!?』
聞こえてくるのは、悲しそうな虎女の声だ。
虎の割には、飼い主を求めて嘆く子猫の様に弱々しい。
だが、今の良には構うだけの余裕が全くない。
『だぁかぁらぁ! デケェロボットと戦って……どわあ!?』
当たり前だが、いつまでも相手も大人しくはしてくれるモノではない。
良が纏う巨人を、更に大きいロボの手が叩いていた。
『くそったれが、こちとら巨大化なんて出来ねぇってのに!?』
蹴られ、叩かれただけ。 なのだが、被害は軽くない。
良の視界には、纏う鎧の状態が具に映される。
『首領!? 今から助けに参りますので!』
そんな声を残して、通信が途絶える。
通信が終わっても、戦いは終わっては居なかった。
是が非でも、女の旅立ちを護る。
『頼むぜ、根性見せてくれ!!』
良の声に、巨人の目がビカッと光った。
大きい事は有利かも知れないが、逆に言えば小回りが利かなくなる。
その点だけに関して言えば、良は有利と言えた。
足元をバタバタと走り回るネズミを人が捕らえられぬ様に、敵のロボットも翻弄される。
『少しだけでも良い! 飛べ!』
主の声に反応し、巨人の背中が開く。
【BOOSTER OVER-DRIVE】
推進材を用いての噴射は、大柄な鎧を空へと飛ばした。
『くそう!? ちょこまかと!?』
ハエを手で追い払おうとする様な動きでロボットも動く。
ただ、良の纏う巨人は、少しだけ速かった。
自分よりも遥かに大きいロボットの顔面に取り付くと、片腕を振り上げる。
『効くか分かんねーけどさ、食らえ!』
鎧の肘から推進材が噴射される。
速度を増した拳が、ロボットの目の辺りに突き刺さった。
『刺さった!! どうだ、この野郎!?』
相手の目を潰した。 そう思った良だが、実は間違っている。
如何にも顔の造形をして居ようとも、それが顔であるとは限らない。
ましてや、相手は機械であり、例え片方の目を潰した所で損傷としては軽微であった。
突き刺さった事が災いする。
ロボットの手が、動けない巨人を強かに叩いた。
『ぐわあああああああああ!?』
ぐるぐると回転しながら落ちていく巨人。
そして、その中身である良は、シェーカーに放り込まれた氷に等しかった。
地面に当たり、跳ねながら転がる巨人。
なんとか止まりはするが、被害は甚大なモノである。
『どうしろってんだよ……こんなモン』
窮鼠猫を噛むとは言え、戦力はその比ではない。
然も、ロボットを操るのは人間である。
『今だぁ! スーパー!! ストォンプ!!』
名前はともかくも、足が持ち上がる。
トドメを刺すためか、ロボットの巨大な足が良を鎧ごと踏みつけた。
グシャンと嫌な音が辺りに響く。
【DANGER!! DANGER!!】
鎧は主に危機を警告音と共に伝えるが、良もそれはわかってはいた。
何せ見える巨大な足が自分を踏みつけている。
『いぎぎ……危ねぇなんて……知ってるよぉ!?』
重圧は、過去に体験した事もない程に重い。
無敵の装甲を纏う良ではあるが、身体が段々潰されて行くのを感じていた。
『どうだ! 正義は勝つんだ! 負けを認めるか!?』
圧倒的な力にて、相手を叩き潰すという快感に、レッドの声は酔っていた。
それが聞こえても、良に為す術が無い。
『ぬぁ……くそ……まさか……俺が潰れるのかよ』
纏う巨人もだが、とうとう良自身の身体も潰れ始める。
一気に潰さない所が、相手の残虐性を示していた。
それでも、良はスーパーロボを睨んでいた。
『どうだ! 悪の怪人め!』
『ざけんな……誰が、泣き入れるかよ!?』
負ける側に回っても尚、良は意地を貫く。
そもそも、今回の目的は相手に打ち勝つ事ではなかった。
そんな良の叫び声は、周りにも聞こえている。
─首領! 今助けるぞ!─
そんな声と共に、施設の一部からニュッと砲台が現れる。
ただの砲弾程度では、巨大なロボットには通じまい。
が、唯一の弱点として、良がロボの目を抉って居た。
砲台が派手に火を噴き、弾が撃ち出される。
寸分の狂いなく、砲弾は穿たれた穴を射抜いていた。
*
装甲の中へと砲を撃ち込まれたからか、巨大な頭か煙を吹き出す。
グラッと揺れたと思った途端、スーパーロボは後ろへと倒れた。
地響き立てながら、倒れる巨体。
その近くでは、重圧から逃れた鎧がまだ原形を留めていた。
解放はされた。 それでも、損傷は著しい。
─首領!? 首領!! 良! 生きているか!?─
聞こえる声に、良は咳き込んだ。
『あぁ、一応……生きてるみたいだよ』
警告音が鳴り響く中。
なんとか、良はそんな返事を絞り出していた。




