絶望! 世界滅亡計画! その7
女の願いに応じた良だが、実のところは不安である。
「そう言えば、手伝いをって云われても、何すりゃいいんだ? 機械なんざ全然駄目なんだけど」
良の声に、女は目を細めてフフと軽く笑う。
「またかよ、なんすか?」
「……いや、ホントに、似てるんだな」
似てると云われても、それが誰なのかすら知らない。
「ま、まぁ、それは良いからさ。 俺は、何をすれば良いんだ?」
再度の問いに、女も顔を真面目なモノへと変える。
スッと片腕上げると、大仰な機械を指差した。
「もし、計画を始めたなら、後戻りは出来ない。 それに、私は此処から動く事も出来なくなる」
「はぁ、それで?」
「だから、君には可能な限り、施設を護って欲しい」
護れと云われた所で、良は腕を組んで首を傾げる。
「えーと? でも、機械動かしたって、別に問題無いんじゃないの? わざわざ誰か来るとは思えないんだけど?」
自分なりの意見を呈する良に、女は首を横へ振る。
「いや、この機械を動かすだけでも、ある程度の事が起きるんだ。 この前、少し揺れただろう?」
云われた事を吟味し、頭を巡らせる。
すると、ポンと在ることが浮かんだ。
「じゃ、この前の揺れは………」
「そう、私が機械をテストの為に動かした。 だから、その影響だよ」
云いながら、女はチラリへ視線を向ける。
「次は、もっと何かが起こるだろう。 どんな影響が出るのか、私でも計算しきってないんだ」
「何かって、どんな?」
流石に不安に成ったのか、良は問う。
それに対して、女は首を横へと振った。
「すまないが、わからない」
「わからないって……おいおい。 随分と無責任な」
不安がる良に、女の顔は真剣だ。
「私の予測では、時間を遡った時点で変わる筈だ。 世界が分裂するという説も在るが、誰も証明していない」
「あー、つまり?」
「今回のタイムトラベルが成功したなら、全てが変わる事になる」
説明を受けても、良は首を傾げる。
「だからさ、どうなんの?」
いまいちピンと来ないという顔の良に、女は眉を寄せた。
困って居るようだが、同時に微笑む。
「ホントに君は……そういう所は良く似ている。 とにかくも、全てが順調に行ったならば、恐らく君は気付かないだろうね」
うーんと唸る良。
「何に気付かないんだ?」
「全てだよ」
女の声に、良はギョッとした。
「全てって、じゃあ……」
「首尾良く時間が改変されたなら、私はこの機械を造る必要が無くなる。 組織に荷担する意味も無くなる。 だから、君は、気付きもしないよ」
「俺は、いや、他の皆はどうなるんだ?」
首領としての心配に、女が唸った。
「どう、と言われてもな。 私が居なくなる。 と言うよりも初めから組織に関わっていない世界に成るだろう。 だから、誰も気付かないよ」
云われた良は、苦く笑った。
「なんかさ、ソレってすっげー寂しい話じゃないか? 俺は、何にも覚えて無いって事に成るんだろ? あんたの事をさ。 他の皆も」
寂しがる声に、女は唇を噛んだ。
「すまない。 それでも、頼めるかい? 首領」
何もかもを投げ打ってでも、過去へ戻ろうとする女に、良は笑う。
「ま、女の子に頼まれたら……嫌って言えなくてね」
そう言うと、良は腕を軽く上げる。
護ってくれと頼まれたからこそ、息を吸い込んだ。
すっかり馴染んだ動作を行い、身体の内側を起こす。
「変…………身!」
敢えて、変身するのは、女に顔を見せたくなかったからだ。
兜が顔を覆えば、表情は面には出ない。
『さてと? どうせなら直ぐ始めるかい? 善は急げって云うだろ?』
精一杯強がる良に、女は、寂しそうに笑った。
「我々は、悪の組織だけどね?」
女の声に、首領は肩を竦めてみせた。
『ま、そうだな』
頷きつつ、良は足をエレベーターへと向ける。
施設を護ることを決めた以上、外へ出る必要が在った。
ふと、在ることを気付いたからか、足が止まる。
振り返り、良は女を見た。
装甲に包まれた身体に、厳めしい兜。
そんな改造人間を前にしても、女は動じない。
『なぁ、俺は、あんたを覚えていてはやれないのか?』
既に一度した質問である。 で在れば、その答えは変わることはない。
良の声に、女は出来る限りの笑みを贈った。
「本当に、君は良い人だよ。 私も、君の記憶から消えるのは寂しいよ」
そう言うと、女は目を閉じ口を閉ざす。
数秒後、閉じられていた目蓋が開かれた。
「だけどね……私が君を……篠原良を憶えておくよ」
向けられるのは、別れのソレである。
機械が完全に動作し、上手く行ったならば、二度と出逢う事はない。
忘れるという事ではなく、初めから何も無かった事へ。
そんな女の声に、良は手を振る。
『間違ってる言葉かも知れないけど、じゃあ……またな!』
再会を望む言葉を残しつつ、良はエレベーターへと入る。
見えなくなる瞬間まで、良と女は互いを見ていた。
*
地下から上がり、施設の土真ん前にて、腰に手を当てる良。
護れと云われても、何から護れば良いのかすら知らされていない。
『さぁてと? 此処を護れってもさ、何すりゃ良いんだ?』
手持ち無沙汰な良の耳に、通信の際の雑音が響いた。
─聞こえるか?─
届く声に、良は頷いた。
『ああ、感度は良好だな』
─なら良い。 君の為に、一つ贈り物を用意して置いたよ─
『うん?』
鼻を唸らせる良の目の前で、施設の一部がゴゴゴと音を立てて開く。
中からは、四メートル程の大型の人型の何かが現れた。
変身後の良にも似ているが、より装甲が強化され、傍目には鋼の巨人を想わせる。
『お? 何じゃこりゃ?』
驚く良の耳に、軽い笑いが響いた。
─まぁ、君を護り、尚且つ強化する為の鎧、とでも考えてくれ─
そんな声が聞こえると同時に、巨人の前が開く。
『マジか? こんなモン乗って大丈夫なのかな』
─大丈夫だよ。 君用に設計してあるんだ。 それに、生身の人間なら危ないかも知れないが、君なら違うだろ?─
聞こえた声に、釈然としないモノを感じつつも、良は巨人へ近付く。
『まぁ、無いよりゃ良いか』
恐る恐る、巨人に身を預ける。
開いていた部分が閉じ、一瞬視界が暗くなった。
だが、直ぐに視界は開ける。
開けるだけでなく、巨人の目を介して良は外を見ていた。
『お? おお? こりゃあ、すげぇ』
良が動けば、巨人はその通りに反応する。
指にしても、自由に動かせた。
『すげーけどさ、こう云うのって普通はこう、レバーとかスイッチとか沢山あるコックピットとかで操縦するんじゃないのか?』
出された疑問に、巨人の中からはウーンと声がした。
─確かに、その手の操作方法も模索したのだが、いきなり出来る保証も無い。 だから、操縦者に追従する方式を選んでみたんだ─
説明に対して、良はホホウと声を漏らすが、直ぐにウンと唸った。
『ちょっと待ってくれ? ソレってもしかして、馬鹿でも操縦出来るようにしたとか云う事じゃないよな?』
質問に、返事が返ってこない。
『おーい? ちょっと? 聞こえてるんだろ?』
─そろそろ起動の準備と必要なエネルギーの充填を開始するよ─
質問をはぐらかされたからか、巨人はガンと音を立てて腕を組んだ。
中身の良に素直従うからか、首を傾げる代わりに腰を少しだけ傾ける。
『なーんかさ、釈然としないんだけど?』
文句を垂れながらも、良は在ることに気付いた。
『あれ? なんか、空が……』
巨人は必要が無いにも関わらず、片手を額に当てて遮光しつつ空を見る。
良の言葉通り、晴れていた筈の空に雲が浮き出し始めた。
『おいおいおい、何が始まってんだ?』
予想すらつかない事態の変化に、良は焦る。
が、焦るのは良だけではないらしい。
─マズいな─
『何が?』
─以前の実験の際は、察知される事を恐れて小規模に留めていたんだ。 だが、今回は違う。 私が直接行くために、大掛かりなんだ─
『それは知ってるよ! 何が不味いんだって』
─来るぞ!─
焦った声と同時に、良の視界にも変化が起こる。
巨人の優れた探知機は、操縦者に危険を知らせていた。
【WARNING MISSILE ALERT】
ビービーとヤケに神経に障る警告音と共に、視界が赤く染まる。
『い、いきなりみさいる!? どっからだよ!?』
操縦者が焦れば、当然の様に巨人も焦った様に動く。
左右へ体を振り、辺りを見ていた。
─安心してくれ! 多少は手助けも出来る!─
女が如何にして施設を操って居るのかを良は知りようもない。
が、施設のあちらこちらが開き、何かを撃ちだしていた。
煙を吹き出しながら、一直線に空に消える。
程なく、遠い空で爆発が起こっているのが見えた。
『なんだってんだ?』
─首領、どうやらマズい連中に此方の動きを気取られたらしい─
いきなりミサイルを撃ってくる時点で、ただ者ではない事は良にも分かる。
目を凝らそうとすれば、巨人はそれに従い視界を確保してくれる。
増幅された良の目は、在るモノを捉えていた。
『なんだ? アレは?』
一見すると、ジェット機にも見えなくもない。
が、その造形は既存の飛行機では有り得ない形をしていた。
然も、その飛行機からは何者かが飛び降りる光景すらも見える。
『お、オイオイ! 何考えてんだ!?』
すわ、投身自殺かと焦る良だが、それは意味の無い心配と言えた。
飛び降りた人数は五人。
その五人が、それぞれ鮮やかな光を放つ。
右から緑、青、赤、黄色、桃色。
虹には二色足りないが、それでも、派手な光は見えていた。
姿を変えたで在ろう五人は、パラシュートも用いずに地面に降り立つ。
「レッド!」「ブルー!」「ピンク!」「イエロー!」「グリーン!」
如何なる原理を用いて無事に着地したのかは不明だ。
そして、五人は構えた。
「「「「「スーパーレンジャー!! 参上!!」」」」」
ビシッとした声と共に、五人がそれぞれポーズを取る。
「とうとうお前達のアジトを見つけたぞ! アイアンヘッドの一味め!!」
鋭く放たれるレッドの声と、怪しげな構えを取る五人組。
それに対して、良は『えぇ、なんだ此奴ら』と漏らしていた。




