絶望! 世界滅亡計画! その4
大幹部から首領へと伝えられた恐るべき計画。
その全貌は未だに明らかではない。
それでも、良はアイアンヘッドを睨んでいた。
「どういう事だ? あんた、前に聞いた時はこう云ったろ? 世界征服なんて興味無いってさ」
隙無く構える良の声に、鉄人は頷く。
『あぁ、間違い無くそう言った。 今もそれは変わらない』
「だったらなんでだ! まさか、今更前の首領に従うってか!?」
返答次第によっては、大幹部と一戦交える覚悟を良は決めた。
憤る首領に対して、アイアンヘッドは動かない。
『先ずは、訳を聞いて欲しい』
「何を聞けってんだ!? 世界を壊すだと……」
其処まで喋った所で、良は此処までの道のりを思い出した。
思い返して見れば、この鉄人は良のスマートフォンに外部から接続した上に、簡単に操った。
単に一個のスマートフォンだけと見れば、それは大事ではないかも知れない。
精々、持ち主である個人が困るだけだ。
が、もしも、アイアンヘッドの力が想像以上である場合は違う。
かつての想像通り、世界を滅亡へと導ける力を持っている可能性も在った。
「あんたまさか、どっかの何たらネットみたいに、人類を滅ぼそうってんじゃ!?」
良の焦る声に、大幹部からの反応は、苦笑いであった。
『いや、それこそまさかではないか? もしも、私が人類を滅ぼすつもりなら、わざわざ首領を呼ぶとでも?』
言葉だけでは意味を為さない。
魔法少女であれば、話は違うが、この大幹部には違う力が在る。
『もし、君の云う通りにしようとすれば、今すぐにでも出来る』
「なんだと!?」
変身しようとする良を、鉄人は片手を伸ばして制した。
『出来ると言っただけだ。 するとは言ってはいない』
宥める声に、良は両手を下ろす。
「じゃあ、訳ってなんだ?」
『言葉で話すよりも、是非とも君に見て欲しいモノがある』
そう言うと、アイアンヘッドは立ち上がる。
『此方へ』
テーブルを離れて、歩く幹部に、良は渋々ながらも続く事を決めた。
もし、この大幹部の目的が危ないのであれば、阻止せねば成らない。
覚悟を決める様に、良は拳を強く握り締めていた。
*
施設の中の奥深く。 エレベーターで更に奥へ。
本部に似た造りだが、此方の方が品良く造られている。
だが、それを眺める余裕は良には無かった。
今隣に立つ鉄人が、如何なる悪の計画を建てているのか、それを見定める。
程なく、チーンと音を立ててエレベーターが止まった。
ドアが開かれ、大幹部と首領は並んで中へ。
入った途端、良は目を見開いた。
「な、なんだこりゃあ!?」
人生に置いて、見たこともない様な大きな機械。
あちらこちらに接続されたコードが巣のように這う。
いったい、どれだけの金がそそぎ込まれただろう。
ともかくも、良はアイアンヘッドを睨んだ。
「やい! こんなモン造ってどうしようってんだ!? それ……に?」
ともかくも、思い付く限りをぶつけようとした良だが、固まる。
なんと、アイアンヘッドの頭が縦に割れだしていた。
頭だけではなく、身体もガチャガチャと音を立てながら縦に割れる。
「おいおいおい、ちょちょ!?」
いったい全体何が起こっているのか。
そんな戸惑う首領の前に、アイアンヘッドから中身が出て来た。
二メートルは有りそうな大仰な鉄人から出て来たのは、良と同じくらいの身長の女性だった。
まるで、シャワーかサウナから出て来た様に髪を振って見せる。
「ふぅ、どうも息が詰まるよ。 まぁ、私は息をしてないんだがな」
言葉遣いは、アイアンヘッドのままである。
だが、聞こえる声はだいぶ違った。
「え? えーと? え?」
大幹部だと思われていた鉄人だが、中身は違うらしい。
そんな事実に、良は慌てる。
ワタワタと慌てる良に、鉄人から抜け出した女性は困った様な顔を見せた。
「そう驚かないで欲しい。 見た目はそれなりに自信が在るんだが」
「いや、自信とかそうじゃなくて……って、あんた誰だ!?」
何故此処に来たのか、ソレすらも良の頭から飛んでしまっている。
ソレほどに、今見ている光景が信じられなかった。
「誰と云われてもな、先程まで話していただろう?」
「いや、でも」
焦る良に、女性は首を傾げ、両手を腰で組む。
「そんなに変か? 首領も変身するだろう? ブレードタイガーもな。 それに、アナスタシアも、だから、私も一応本来の姿を隠して置いたんだ」
一瞬聞こえた名前に、良はウンと唸るが、今はそれどころではない。
「まぁ、まぁいいか。 あ! そんな事よりも! アレは何なんだ!? 地球破壊爆弾か!?」
機械に疎い良からすれば、幹部が見せた機械は何なのかはわからない。
とにもかくにも、怪しげな装置の正体を探る。
そして、もしも装置が危険なモノならば、破壊するつもりであった。
良からの質問に、女性は目を機械へとやる。
「アレか。 ハドロン衝突型加速装置だ。 改良はしてあるがね」
ポンとそう言われた良は、腕を組んで鼻を唸らせる。
「う? ハドロン……衝突、え? 何?」
改造人間とは言え、機械に詳しい訳ではない。
チンプンカンプンだと戸惑う良に、女性は微笑む。
その笑みは、何かを懐かしむ様であった。
「アレは、分かり易く言えば……タイムマシンだよ」
意外な程に、機械の正体を明かす女性に、良は目を見開く。
「たいむましーん? 冗談だろ?」
訝しむ良の声に、首は横へ振られた。
「いいや、本当に本物だよ」
そう言いながら、女性は機械を眺める。
「構想は既に在ったのだが、随分と長い時が掛かったよ。 それでも、ようやく此処まで来た」
感慨に耽る女性だが、まだ良の疑念は晴れては居ない。
それどころか、より深まっても居た。
「で? そのタイムマシンで何をするつもりだ? まさか、過去に戻って誰かを殺っちまおうって云うんじゃないのか?」
うろ覚えながらも、良は過去に得た知識を披露する。
すると、女性は一瞬キョトンとした。
だが、直ぐに破顔すると、大仰に笑い、笑われた良は、反対にムッとしてしまうほどだ。
「おい、そんなに笑わなくても良いだろ」
苛立つ声に、女性は腹を手で押さえていた。
出ても居ない涙を手で拭う様すら見せる
「……あぁ、すまない。 でも、久し振りに笑えたよ」
「はいはい、そうですか」
笑われた事に、如何にも怒って居ますと示す良。
ソレを見てか、女性は寂しそうに微笑んだ。
「君は、映画が好きみたいだね。 でも、私は別に過去に戻って誰かを殺そうとか、人類を滅ぼそうなんて想ってないんだ」
「だったら、どうして世界を滅亡させるなんて云ったんだ?」
問われたからか、女性の目は床を見る。
「もしも、私が過去に戻って何かをしたとしよう。 そうすれば、例え小さくても影響は避けられない筈だ」
苦しげな声に、良は在ることを思い出す。
「それって、アレか? バタフライ何チャラだろ?」
女性は首を縦に振る。
「そう、バタフライエフェクトだよ。 だから、今の世界は壊れる事になる。 もし、幸せな生活を送っている人が居れば、もしかしたら私のやろうとしている事のせいでそれが壊れるかも知れないんだ」
聞かされた言葉を、良は吟味した。
目の前の女が何をしようとしているのかは未だに不明だ。
だが、過去改変の影響は想像出来る。
蝶が飛んだだけでも、どこかで竜巻が起こるという仮説。
果たして、それがどれほどの影響を出すのかは未知数であった。
「なぁ、なんでだ? 今の世の中、そんなに楽園ってもんじゃないさ。 だけど、一生懸命生きてる人だった沢山居るだろ? そんな人達を全部巻き込むつもりなのか? 其処までして何をしたいんだ?」
悪の組織の首領として、一応は世界の平和を目指して居る良。
そんな彼からすれば、世界を壊そうとは思えない。
良の問いに、女性は顔を上げる。 真摯な目が良の目を見ていた。
「昔、君に良く似た人が居たんだ。 良い人だった」
語られるのは、過去の人物の事だろう。
が、良が引っかかったのは相手の【だった】という過去形だ。
「だったって……じゃあ、その人は?」
「死んだよ」
躊躇う事もなく、女は良の質問に答えてくれた。
聞かされた答えは、軽いものではない。
「え? そりゃあ……」
答えるにしても、軽い気持ちで言えず、良は良い淀む。
「タイムマシンまで造ってるのは、その人を助けたいから、か?」
恐る恐る尋ねると、女は力強く頷く。
「そうだ。 例えソレが、今ある世界を引き換えにするとしてもね」
強い声には、強い決意を感じさせる。
だが、良もはいそうですねとは言えない。
「大事な人だったってのは分かるんだ。 でもさ、それだって、一人の為に世界を犠牲にすんのかよ?」
今の良は、一人ではなく組織の首領であった。
独り身ではなく、部下が居る。
「非道い事だとは分かっている。 それでも、手伝って欲しい」
「なんだって俺なんだ? 他には居ないのかよ」
戸惑う良に、女が近付く。 触れ合う寸前にて、女は止まった。
「失礼ながらも、君の経歴、今までの行いを見ていた」
そう言われるが、良は不思議とは思わない。
相手の女がどの様な力を持っているのかは不明だが、機械を操れるのであれば、それぐらいは出来るとわかる。
コンピューターから、星を回る人工衛星。
果てはその辺のカメラに至るまで、星は機械に溢れていた。
「捨て身で他人を助け、時には敵ですら助ける君だからこそ、頼みたい」
懇願された良は、目を細め鼻を唸らせていた。




