絶望! 世界滅亡計画! その3
キチンとヘルメットを被り、手袋をする。
そして、マシーンへと跨がる首領。
「じゃ、まぁ、とりあえずっと」
早速とばかりに、キックペダルを蹴り、エンジンを起こす。
小気味良く、専用マシンは主の呼び掛けへ応えた。
「おー、案外素直な奴だな」
発進の準備が整ったからか、基地の一部が開閉する。
外から差し込む光に、マシンが光った。
アクセルをクイクイと軽く弄ってやれば、素直に応答するエンジン。
「おっけーおっけー、いけそうだな」
軽い感想を漏らしつつも、良は見送りに来てくれた博士へ手を振った.
「じゃ、ちょっと行って来ますんで、後宜しく!」
バルンという軽いエンジン音を残し、走り出す。
そんな首領へ、博士は「行ってらっしゃいませ」と見送った。
*
基地を離れて、一路目的地へと向かう良。
意外な程に快適に走るマシーンにも、不満は無かった。
宴会を途中で抜け出してしまったという事は若干心苦しくも在るが、抜け出した理由も在った。
大幹部がベタベタと張り付いて来るのは悪くはない。
元々其処まで好かれたことも無ければ、新鮮な経験と言えた。
それでも基地を出た一番の理由は、酔えないという点だろう。
構成員に酒を貰い、飲む。
だが、全くと云って良いほどに酔えない。
まるで水か茶でも飲んでいる様で楽しめなかった。
下戸の人間で在れば、少量か数滴でも気持ち悪く成るほどに酔う。
が、良の場合は、何もないのだ。
口に含む際、鼻に香りが抜ける際、喉を通り抜ける時。
ある程度はアルコールだと認識出来る。
が、食道を過ぎた辺りから、何も無い。
改造人間の飲食は、所詮は人間への擬態に過ぎないという事実。
その感覚に耐えきれず、良は宴会を離れていた。
「えーと、もうだいぶ走ったよな?」
気分を入れ替える為に、自分に問う。
走るマシンを道路の端へと留め、スマートフォンの画面を点した。
道に迷わぬ様、文明の利器に頼る。
そうしようとした途端、画面に異変が起こった。
見たことも無い様に、ザラザラと砂嵐が表示され、良は焦る。
「お? えぇ、ちょ、何々? いきなりぶっ壊れたか!?」
変なウイルスにでも感染したのかと焦る。
余り電子機器に詳しい方でもなく、寧ろ疎い良は、画面をポンポンと叩いて見た。
すると、画面に変化が起こる。
先程まで現れていた砂嵐が一気に消えてしまった。
『精密機器をそう叩くものではないよ』
何処からともなく聞こえた声に、良はバッとマシンから離れて身構える。
「なんだ!? どっからだ!?」
戦いに慣れてきたからか、良は辺りを隙無く窺う。
が、改造人間の優れた目を持ってしても、見えない。
「オイコラ! 誰だ!? どっかの回しもんか!? 姿見せろ!」
いざという時は変身する為に構える。
そんな良が持つスマートフォンに、変化が起こる。
先程までは真っ黒だった画面に、奇妙な顔らしきモノが映し出された。
『やぁ、首領』
音が聞こえてくる方へ、良は目を動かす。
其処で、ようやく誰が喋って居るのかを悟った。
「あ? なんで、え?」
スマートフォンが喋るという事だけならば、不思議でもない。
専用のアプリケーションを入れれば、言葉も話すだろう。
但し、持ち主に無断で勝手に話し出すと言うのでは違ってくる。
画面に映る怪しい顔は、確かな存在を示す様に動いた。
『呼び出したのは私だからね、案内しようか?』
ナビゲーションとはだいぶ違う声に、良はムッとした。
「あんた……アイアンヘッドか?」
良の問いに、画面の顔は縦に揺れる。
『そうだ。 君が此方へ向かったというのは衛星経由で知ったが、迷って貰っても困るのでね、失礼かも知れないが、こうして参上させて貰った』
未知なる幹部の声に、良は驚きが隠せない。
改造人間や魔法少女とは戦った事も在るが、また別の何か。
通常では考えられない事をしてみせる未知の相手。
但し、敵対的という訳ではない。 ならばと、良も構えを解いていた。
「ま、どうやったなんて知らねーけど、案内頼めます?」
良が頼むと、画面の顔は怪訝なモノへと変わる。
『変なことを尋ねるが、驚かないのか?』
「あん?」
問われた事に、良はうーんと鼻を鳴らした。
「いや、まぁ、ちっとはね。 でもほら、もう魔法だの悪の組織だの色々見てるからさ」
軽い声でそう言うと、画面の顔は納得した様に縦に揺れた。
『……そうか』
「ほらソレよりも、案内の方を」
訝しみながらも、良が尋ねると、画面の顔は笑う様に歪む。
『勿論だ。 首領が迷わぬように丁寧に案内しよう』
「あ、あざーす」
礼を返しつつも、良はマシンへと戻る。
内心は驚くが、足は自然とギアを入れていた。
以前に、幹部であるアイアンヘッドとは会っている。
然も今回はわざわざ良が名指しで呼び出された。
その真意を探るべく、良はアクセルを握った。
*
良を乗せたマシンは、在る場所へと辿り着く。
其処は、外界とは金網で仕切られていた。
【危険! 関係者以外立入禁止!】
分かり易い看板に目を向けつつ、良はマシンを走らせる。
「で? 入り口は何処なんだ?」
独り言の様にも見えるが、実際には良は話していた。
『もう直ぐだ。 百メートル程で入り口が在るよ』
上着のポケットからは、ナビゲーション擬きの声。
案内されるままに、良は施設の入り口らしい場所へ。
一応は入り口らし門が在るが、人が居ない。
「おーい、誰も居ねーぞ? 飛び越えろってんなら……」
『そんな必要は無いよ』
聞こえてくる声が、まるで呪文である様に門が開く。
誰もいない筈なのだが、迎えられる。
「ははぁ、無人ってもの考えもんだな」
殺風景な光景に辟易しつつも、良はマシンを敷地の中へと進めた。
少し走れば分かるが、敷地の中も殺風景である。
一応の擬態の為か、観葉植物や整えられた芝生も見える。
しかしながら、人が居ない。
時折、何か動くモノが在っても、それは自動動いて居るらしい芝刈り機のみ。
寂しくも無駄に広い敷地。
其処を、首領を乗せたマシンが駆け抜けていた。
程なく、敷地の中に唯一マトモに在る建物の前にマシンが止まる。
今度は、ゆったりと降り、ヘルメットを脱いだ。
「さてさてと? 此処で良いのかな?」
『あぁ、其処から入ってくれ。 中には案内を用意しておく』
アイアンヘッドの声に、良は渋々ながらも、施設へと足を向けた。
*
自動ドアを潜り、中へと入る。 やはりと云うべきか、誰も居ない。
「えぇ……此処も誰も居ないのか」
外観には綺麗な施設であり、中もそうだ。
が、わざわざ受け付けカウンターまで用意されて居るのにも関わらず、人は居ない。
「あー、すんませーん!! 着いたんですけどー!!」
あっちこっち探すのが面倒くさいのか、良は声を出す。
静かな施設の中に、良の声がこだました。
音という流れる振動が消える。
すると、またしんと静まり帰ってしまう。
「おいおいおい、案内はどうしたんだろ」
せっかく来たにも関わらず、応対すら無い。
だが、直ぐに良は何かに気付いた。
良く耳を澄ませれば、何かが聞こえる。
それは、ゴツンゴツンと硬いモノと硬い床がぶつかる音だった。
程なく、音の正体が現れる。
ソレは、相も変わらず人型ながらも人ではない姿。
『ようこそ、良く来てくれた』
野太い声に、鉄人という異名そのままの大幹部、アイアンヘッドである。
「あー、ども」
とりあえずと、軽く頭をぺこりと下げる。
良がそうすると、鉄人は目を細めた。
『せっかく首領に来て頂いたんだ。 茶の一服も出したい』
見た目の割には案外紳士的な大幹部に、良は肩の力が抜ける。
以前にも会っては居たが、ブレードタイガー程に強がる素振りもない。
「へ? あぁ、どうも」
『さ、此方へ。 先ずは座って話せる所へ行こう』
サッとマントを翻す幹部。 良はその後に続いた。
*
座って話せる場所。
そう紹介された其処は、傍目には小洒落た料理店という風情であった。
もしも、この施設が稼働し、敷地が公園などとして公開されていれば、さぞや賑わうであろう。
が、そんな広い場所には、二人しか居ない。
白い布が掛けられたテーブルには、赤い花の一輪挿し。
そして、わざわざ手に入れたであろうフレンチプレスにて、大幹部から首領へと紅茶が提供されていた。
『どうぞ』
「どうも」
軽く言葉を交わしつつ、良は湯気を立てるカップを見た。
チラリと窺う良に、アイアンヘッドは笑う。
『ご心配は無用だ。 毒などは入れていない』
そう言うと、鉄人は自分の分のカップを持ち上げる。
大きな体格であるからか、カップはヤケに小さく映った。
ともかくも、良もカップを手に取ると、啜る。
普段から余り紅茶を飲む事はないが、それが美味いという事はわかった。
「あー、これ、美味いっすね」
場の重い空気を払おうと、軽く言葉を投げ掛ける。
すると、鉄人はカップをソーサーへと戻した。
『あぁ、ダージリンのセカンドフラッシュだよ』
ポンと返されても、良にはチンプンカンプンである。
「えーと、で、俺を呼んだ理由は、なんすか?」
特に親しい間でもない。
見える大幹部が、以前の首領とどんな仲なのかも良が知る由もない。
で在れば、呼ばれた理由を確かめる。
良の声に、大幹部の目は開かれた。
『長話は嫌いか? うん、では、早速本題に入ろう』
「はぁ、どうぞ」
『首領、良ければ、私の計画に賛同し、協力して欲しい』
「協力っすか? まぁ、どんな計画なんで?」
ただ手伝いを頼まれても、出来るモノではない。
内容を確認する良に、鉄人は重い口を開いた。
『世界を、壊す事になる計画だ』
「何だって!?」
響く幹部の声に、良は椅子を蹴飛ばして立ち上がっていた。




