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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
絶望! 世界滅亡計画!
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絶望! 世界滅亡計画! その2


 基地が揺れた事はともかくも、首領は無事である。

 久し振りに、良は組織の面々を前に椅子に腰掛けていた。


「「首領万歳!」」


 とりあえずなのか、お決まりのポーズを取る構成員達。


 何故組織が集まったのか、理由は幾つか在る。

 支部の構成員達に犠牲は出たものの、生存者は生きた事を喜び、本部の者達は仲間の無事に安堵する。


 更に言えば、組織のタンコブであった蜂型改造人間が倒されたという事実もまた、構成員達を大いに喜ばせた。


 その祝いとして、ささやかな宴が催されたのが、今回の集まりの理由である。


 会の上座には、首領である良が鎮座する。

 最も、その首領は実に気まずそうな顔をしていた。


 その理由は勿論在る。 

 

 相も変わらずの怪しい衣装を纏うアナスタシア。

 水着かどうかの寸前という衣装は、良が目のやり場に困る程だ。


 博士にしても、長い特注の白衣に大きめな眼鏡。

 ただ、普段よりも表情は柔らかい。


 そして、良が困っている理由だが、それは幹部の一人にある。


 虎とは、大型の肉食獣だが、系統は猫に属するネコ科の動物である。  

 それ故か、組織に帰還したカンナは、まるで自分が首領のネコである様に振る舞うのだった。


 良が座る椅子の横にて、腰掛けているのだが、ソレだけではない。


「しゅりょう」


 まるでおねだりの様な虎女の声に、良は渋々その頭を撫でてやる。

 如何なる原理かは不明だが、虎女の喉はゴロゴロと鳴った。


 大幹部のあるまじき醜態はともかくも、アナスタシアが咳を払う。


「んっんぅ!! 皆! 首領のお陰でこうして組織は安泰だ! 中には尊き犠牲に成った者も居る」


 女幹部の声に、構成員達が声を潜めた。

 場が静かに成ると、虎女のゴロゴロが響くが、それを咎める者は居ない。


 アナスタシアのこめかみに青筋が浮かぶが、直ぐに顔を戻す。


「とにかく! 先ずは皆の無事を祝おう!」

 

 半ばやけっぱちの声に合わせて、大部屋にカートが運ばれる。

 ピチピチタイツにエプロン、マスクの上にシェフ帽子という異様だが、周りも同じ様な格好なので気にする者は居ない。


「さ、行き渡りましては……尊き仲間に、乾杯!」

「「乾杯!」」


 女幹部の音頭に、構成員達は一斉に行き渡ったコップを掲げた。

 

 そんな光景に、良は興味津々でもある。

 いったい、自分の部下達はどんな顔を見せるのか。


 が、時に期待は裏切られるモノだ。

 

 構成員達は一斉にストローを取り出すと、マスクに空いた小さな穴から飲み物をズスッと飲み始めてしまう。


「……えぇ、そうやって飲むの?」 


 首領の期待は、裏切られた。 とはいえ、宴会は終わらない。


「さあ、皆! 今日は互いを労い英気を養おう! 首領へ、乾杯!」


 アナスタシアの声に、再びコップが掲げられる。


「「首領! 乾杯!」」

 

 楽しそうな構成員達の声に、良は内心【なんか違うな】と感じていた。

 

 宴会が進む中、良の元へ構成員の一人が駆けてくる。

 既に何人からも【どうぞ、首領!】とお酌を受けて居たので、良からすると遠慮すべきか迷った。


「首領!」

「はいはい、なんすか?」

 

 首領と呼ばれても、相も変わらず首領らしくない良。

 それでも、構成員は丁寧に何かを差し出した。


 出されるのは、薄っぺらな茶封筒。


「えーと? 誰から?」


 何処からどう見てもただの封筒に、良は持ってきた構成員を見た。 

 見られた構成員は、ビシッとポーズを取る。


「は! アイアンヘッド様から、直接首領へとの事です!」

「はぁ、どうも。 あっちで宴会してるから、良かったら」


 宴への参加を進めると、構成員はバッと頭を下げた。


「は! 光栄で在ります!」


 パタパタと駆けて宴会へ混じる構成員。 

 そんな部下の背中を見送りながら、良は封筒の封を切る。

 

 中には、丁寧に畳まれた紙が入っていた。


「んーと、何々?」


 幹部からわざわざ自分へ贈られて来たという。

 が、中身を見ても、良は首を傾げるしかない。


 首を傾げる姿は、カンナの興味を引いたらしい。


「首領? どうされまして?」

「え? あー、いや、なんか用が在るみたいです」


 良の目には、少ない言葉しか見えない。


【ご足労ながら、至急来られたし アイアンヘッド】


 まるで電報が如き短い文に、良は戸惑う。


「ふぅん」

  

 尋ねたカンナではあるが、特に問題が無いと判断したのか、興味が失せた様に頭を良の膝に預けていた。 


 まるで気ままな猫の様な虎女に苦く笑いながらも、良は紙を見る。

 

 まだ一度しか会っていないが、幹部という部下が自分を呼んでいるという。

 それは、良の胸の内をくすぐった。

 

    *


「トイレに行って来ます」


 そんな言い訳を残し、大部屋を出る良。 

 こっそりと、基地の出入り口であるエレベーターへと向かう。


 宴会を催したお陰か、基地の中は静かであった。

 そんな空気に、良は鼻を鳴らした。


「良いのかねぇ、悪の組織なのにさ」


 実際には良という新しい首領が今の組織の空気を作っているのだが、往々にして人は自分がした事には気付かないモノだ。

 良にしても、こっそりと出ようとして居た。


 そんな時、良の背後から「首領」と声が掛かった。

 

 ギクリと感じ、慌てて振り返る。  

 声を掛けた主を見て、良は胸をなで下ろしていた。


「はかせぇ、びっくりしたよ」


 安堵する首領に、博士は近づく。 

 身長の差故に、良は見下ろす形だ。


「何か?」

「トイレは、コッチじゃないですよ?」

「え? あ、そうだっけ? いや、まだ慣れてなくて」

 

 分かり易い言い訳に、博士は少し目を細める。

 

「ホントは、何処へ行くんですか?」


 そんな声に、良は意外だと驚くがそれは間違いだ。

 良の身体を誰よりも熟知して居るのは博士である。


 問われた良は、隠す事でもないからか、先程受け取った紙を見せた。


「なんかさ、至急って書いてあるし……とりあえずどうしようかなって」


 良の言葉に、博士は細めていた目を開く。

 

「あぁ、なるほど」

「うん、で、行っても良いかな?」


 良は尋ねるが、実際にはその必要は無い。

 組織の支配者である以上は【こうしたい】と言えばそれは命令となる。


 以前の首領に比べると、些か貫禄が無い。

 その声に、博士は何故だか微笑んで居た。

 

 悪の組織の手先としては、絶対出せないであろう柔らかい笑み。


「でも、歩きで行く気ですかぁ?」

「え? まぁいざと成れば」

 

 組織のバンを勝手に使う事も出来るのだが、なんとなく気が引ける。

 最悪、徒歩で行こうという良に、博士はフフンと笑った。


「こんな事も在ろうかも、準備して置いたモノが在るんですよ」

「なんだって? ホント?」


 若干嬉しそうな首領に、博士は「此方へ」と案内を始めた。

 

 基地に疎い良は博士の後ろへ続く。

 そんな良だが、ある期待を抱いていた。


 自分が負かした蜂型改造人間の青年も、バイクを持っていた。

 つまり、自分にも何か在るのではないかという期待が膨らむ。


 博士が「此処です」と案内したのは、組織の車両が置いてある格納庫。 

 其処には、様々な車が用意されていた。


 前に良が乗せられた箱型バン。 

 誰のなのかは不明だが、良く手入れをされているセダン。

 他にも軽自動車からスポーツカー。

 果ては偽装や攪乱を行う為なのか、パトカー擬きまでもある。

 

 それらを過ぎ、博士の足が止まった。

 

 其処に在るのは、思わせ振りなカバーを被せられた何か。

 如何に隠されて居るとはいえ、膨らみで大凡の中身は想像が出来る。


「前もって、ご用意をしておきました」


 自信たっぷりといった博士は、銀色のカバーへと手を掛ける。

 いよいよ、良の期待も沸き立つ。


 自分にも、いよいよ専用のマシンが与えられるのだろうか、と。


「なんだよ博士、勿体ぶらず見せてくれ!」


 まるで誕生日プレゼントを貰う寸前の良。

 そんな期待に満ちた声に、博士は眼鏡をキラリと輝かせた。


 バッと一気に剥がされるカバー。

 

 そして、博士が用意したという【首領専用マシン】が姿を見せる。


「ん?」

「さぁ、コレが貴方の脚となるモノです!」 


 意気揚々と紹介をする博士。

 だが、良の目にはなんとも言えないモノが映っていた。


 有り体に言えば【原動機付き自転車】という言葉が正しいだろう。

 

 古来より愛され、未だに愛好家も多いという著名なマシーン。 

 燃費も良く、操作性も良く、歴史も長い。

 専らは新聞配達か、出前の運搬でも使われるアレである。


 些か想像と違う姿に、良は指で示した。

 

「えーと、コレで、間違いないんだよね?」


 訝しむ首領に、博士はえっへんと厚くない胸を張った。


「そうです! 急いで用意しましので、ちょっと地味かも知れませんが」


 聞こえる声と見えるモノに、良はウーンと鼻を唸らせる。 

 想像に置いては、もっと格好良いモノを想像していた良である。

 

 良は、見える光景に鼻を唸らせた。

 無論の事、その辺のマシンを掻払って来た訳でないのだろう。

 至る所まで磨き上げられ、ボディの一部には組織のエンブレムがこっそりと光を放っていた。


「………えっとさ、でもコレ、50じゃない?」


 とりあえずは当たり障りが無いであろう、マシーンの排気量を問う。

 すると、今度は博士が首を傾げた。


「えぇ、そうですよ?」

「そーですよって……コレ」

「だって、首領免許持ってましたっけ?」


 博士の指摘に、良はムムッと唸る。

 

 実際の所、良は自動車の運転免許を一応は持っては居た。

 が、中型大型というバイクの免許は持っていない。


「な、無いけどさ」

「ですよね? そこでまぁ、コレにしました!」

  

 悪の組織の科学者を名乗る割りには、やけに法律に律儀な博士。

 対して、良も其処まで傲慢でもない。

 

 どうせなら、格好良さを重視したくもあるが、わざわざ用意してくれたモノにケチを付けるほど狭量ではなかった。


 フッと肩の力を抜いてから、良は博士の頭に手を置く。

 なんとなくだが、癖に成っていた行為。


「あんがとね、博士」

「あ……はい、どうも」


 軽い言葉と共に、博士は頭を撫でられる。

 それに対して、博士の目はヤケに忙しく泳いだ。


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