表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の組織、はじめました  作者: enforcer
戦慄!虎女!
23/112

戦慄!虎女! その9


 攻撃を敢えて受ける。 

 それは、通常でならば自殺行為に他ならない。


 が、良は博士の言葉を思い出し、それを信じていた。


 限界を超えた集中力故か、視界に変化が起こる。

 今までも多少は胴体視力が向上を見せたが、死に際だという感覚が良の神経を加速させていた。


 並みの人間では、神経が切れ兼ねない暴挙。

 だが、改造された身体はそれを可能にしてくれる。


 大振りな限界の切っ先が、良の胸板に当たる。

 当たるのだが、食い込まない。


 激しい力に因って削られた金属が火花を散らす。

 それを見てから、良は身体を傾けた。


 斜めに成ることで、切っ先が滑る。 その先は右腕。

 もしも、良の右腕に当たればどうなるかは分からない。

 

 装甲に護られていない部位ならば、斬りとばされてもおかしくはなかった。


 が、斬り飛ばされるモノが無ければ関係が無い。

 装甲を滑った切っ先は、空を切るしかなかった。


 青年の顔が、驚愕に歪む。 その隙を、良は見逃しては居ない。

 残された左手が、青年の肩を捕まえていた。


「な!? くそ、放せ!」

『誰が放すか!?』


 青年の力も強いが、良のそれも負けては居ない。

 相手の衣服が丈夫なのも幸いし、良は青年を地面へ引き倒していた。


「うぐ!?」

 

 強かに背中を打ち付けた青年の手を、装甲に包まれた足が武器ごと踏みつける。 


 倒れた青年を、改造人間が見下ろしていた。


『さぁてと……好き放題やったくれたじゃないか、え?』


 散々攻撃を受けた側として、良の苛立ちも在る。

 如何にして、この青年を折檻してやろうかとも考えていた。


 在る意味、絶望的な光景だろう。


 勝ち誇った様に立つ悪の組織の改造人間。

 そして倒れる正義の味方。


 だが青年は踏まれて居るにも関わらず、不適な笑みを浮かべていた。


 ソレを見て、良が首を傾げる。


『随分と余裕だな? もう負けだろ? 降伏したらどうだ?』


 出来れば殺すという真似は避けたい。

 で在れば、ブレードタイガーと戦った時と同様に相手に負けを認めさせる。


 そんな良の考えは、相手に取っては都合の良いモノだった。

 

「やっぱりさ、あんた悪党だろ?」

『あん? 負け惜しみかよ』

「いや、みーんな同じ様な事をするんだな……ってさ」

 

 青年の言葉の真意を汲み取れず、良は唸る。


 敵を見下ろす為に下を向いていた事は、実は隙であった。

 不適な相手の顔に集中する事は、周りが見えていない事に繋がる。 


 だからこそ、良は青年がこっそりと動いて居る気付けなかった。

 ピンと高い音の後、青年が何かを放る。


 慌てて右手を上げて払おうとしたが、それをすべき手が無い。

 

『……が!?』


 派手な閃光と爆音が、良の視界と聴覚を潰していた。 

 拡張された分、その効果は大きい。


 踏みつけが緩んだ隙に、青年は体をグルッと回して戒めから抜け出す。

 死に物狂いで捕まえた筈の敵は、いとも容易く逃げてしまった。


『……っ……くっそ』


 目眩を堪えながら、脚で踏ん張る良の目には、既に立ち上がった敵が見えていた。

 

 不意打ち気味に捕まえた以上、同じ手が通用するかは分からない。

 それ以上に、良を苛立たせるのは、青年の余裕の笑みである。


「悪党ってのは皆変わらないな? 勝ちを確信したところで、長話を始める。 どうせなら、勝ってからやれば良いだろ?」

『……余計なお世話だよ』


 説教じみた声に、良は悔しさを隠せない。

 兜が表情を隠してはくれるが、声までは無理だった。


 青年は、持っていた武器を投げ捨てる。  

 大振りな剣は、ガランと音を立てて転がった。


 唯一の得物を捨てた相手を疑う良。

  

 なかなか攻めて来ようとしない良に、青年は独特の構えを取っていた。


『何のつもりだ、この野郎!?』

「駄目押しって奴さ」 


 其処で、良は目を疑う。

 構成員は青年を【異能力者】だと決め付けていた。

 それを聴いた良もまた、同じである。


 だが先入観は時に目を曇らせ、物事の本質を覆い隠してしまう。

 

 一見は生身でも、力は出せる者が居るのだ。

 独特の演舞を披露しながら、青年が構えを取った。


「変……身!」


 掛け声と共に、青年の体に変化が起こる。

 

 身体を覆い始める光る繊維は、固まりながら形を為す。

 相手の変貌を見ながら、良は自分の落ち度を痛感していた。


 もしも、青年が本当に川村愛の様な異能力者であれば、触った段階で相手に変化が起こった筈である。

 生身の人間ならば、手を踏みつけられ余裕では居られない。


 その筈が、青年は余裕綽々とすらして居た。

 今更ながらに、その事に気付いても遅い。


 良の見ている前で、青年は違う姿と変わっていたのだ。


 赤いスズメバチを想わせる相貌に、蟹の様な鎧。

 其処に現れたのは、良ともカンナとも違う別の改造人間であった。


『おいおい、驚いたのか?』


 確かに、驚きは在る。 

 だが、良は敢えて半歩だけでも足を前へと出した。


『ああ、ちっとはな! でもよ、これでようやく対等って所だな』

 

 吠える良だが、それはただの虚勢である事は本人が一番分かっていた。

 片腕を失い、それだけではなく、撃たれ続けた影響は避けられない。


 劣勢であるという事は、覆せない事実である。


『対等? それは、あんたの勘違いさ』


 蜂型改造人間の青年は、拳を軽く上げた。

 ジャキンという音を伴い、拳からは針が突き出す。


『どうやら、あんたは凄い硬いみたいだからな? でも、隙間はどうかな?』 


 相手の腕に内蔵された武器を見せ付けられ、良は兜の中で顔をしかめていた。

 異変に対応する力は在るが、他が無い。

 

 この時ばかりは、良は内心前首領と博士を恨む。


『くそが、こっちは丸腰だってのによ、汚ぇぞ! 武器なんてよ!』

 

 もはや恥も投げ捨て相手を罵る。 罵られた蜂は、首を傾げていた。


『汚い? 在るんなら出せば良いだろ?』

 

 出せと言われても、出せる武器は内蔵されては居なかった。

 良に残されているのは、片腕と脚だけ。

 

『うるせぇや』


 無い物ねだりをしても、意味は無い。


 仕方なしに、良は残された腕で構えた。 呼応する様に、蜂も構える。


『最後に聞くぜ? 一緒にやらないか?』


 魅力的な申し出に、良は深く息を吸い込む。

 この場にて、負けを認めれば或いは楽かもしれない。


 それでも、それだけは出来ない相談であった。

 今までの人生は、勝ちも負けもない、ただ平穏なだけ。


 灰色な時に比べれば、今の時間は黒かもしれないが鮮やかですら在る。

 良は、それを背負っていた。

 

『悪いな、コレでも首領なんでね。 はい負けましたなんて、子分の見ている前で言えねぇよ』


 首領としての覚悟を見せる。

 それに対して、蜂は『ああ、そうかい』とだけ答えた。


 変身したからか、その動きは速い。 

 以前に立ち会ったブレードタイガー並みである。

 

 違いを出すならば、相手の武器は剣ではなく針だという事だ。


 フェンシングの様な動きで間合いを詰めてくる蜂。

 突き出されれる針は、一見すると最初の剣よりも頼りなく見えた。

 

 だが、数回弾いた段階で、良はその怖さを悟る。

 

 大振りな剣は、見た目通りの破壊力を持つだろう。

 鉄骨ですら切断してみせる様な威容。

 ソレは同時に、大きさ故の欠点も拭い去れない。


 振る速度はそう速くはなく、見えない程ではない。


 対して、今迫る針に良は非常に苦慮していた。

 針自体は弾けば簡単に折れると想ったが、柔軟にしなり折れない。 

 それだけでなく、細いからこそ素早い突きが繰り出せる。


 両手ならいざ知らず、片腕の良にとっては最悪の一言であった。


 何とか一本の猛攻を防ごうとすれば、もう一本が刺さる。

 上手く装甲に当たれば貫通はしない。

 が、隙間に入り込んだ場合は違った。

 

 細い先が入り込み、中身を抉る。


『この、野郎!?』 


 受けだけしていても、押し切られる。

 何とか形勢を変えようとした良だが、相手にとっては絶好の機会であった。


『其処だ!』


 蜂が繰り出す針は、良の腕を突き刺し止める。

 がら空きに成った胴体に、もう一本の針が突き立つ。

 鋭い針は、良の背中から突き出していた。


『終わりだ』


 勝ちを確信した蜂が、兜を寄せる。

 落ちていた筈の良の頭が持ち上がった。


『逆だよ』

『なんだ、負け惜しみか?』


 勝ちを疑わない蜂だが、彼の針は腕から直接生えている。

 つまり、手から放す事は出来ない。


『抜けない!?』

『そうさ、俺が抑えてるから……』


 声を掛けつつ、首を後ろへ反らす良。

 腹の奥から痛みが伝わるが、それは無視した。


 振りかぶった頭を、全身の力で前へと振る。

 捕まっている蜂は良の頭突きを避けられなかった。


 硬い装甲同士だが、僅かな違いも在る。

 蜂が何時改造されたにせよ、良はもっと後にされている。

 装甲に用いられたらスターライトは、破壊不能とすら云われる程の頑強だ。

 

 対して、打ち付けられる側はそうは行かない。

 

『う、ぐ……馬鹿な』

『馬鹿はテメェだ、長話始めやがってこの野郎』


 続け様にゴンゴンとぶつかる兜。     

 何度と数える事すら忘れ、ぶつけていく。


『そら! もう一発食らえ!』 


 最後の力を振り絞り、兜をぶつける。 

 良の意志が勝ったのか、蜂の兜に亀裂が走った。 


 亀裂は伸び、裂け目となる。

 ブシュッと音を立て、赤い液体が僅かに噴き出す。

 

 飛び散ったソレは、奇しくも良の身体を蜂と同じ赤に染めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ