表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の組織、はじめました  作者: enforcer
戦慄!虎女!
22/112

戦慄!虎女! その8


 今まで、其処に在った筈の腕が無い。

 それに対して、良は妙な感覚を味わっていた。


『あー……いてぇ』


 痛みは在るのだが、それは非常に曖昧なモノだった。

 並みの人間ならば今頃は半狂乱に成るか、転げ回って居るだろう。

 もしくは痛みさ絶望に耐えきれず気絶しているかも知れない。


 それでも、良は意識を保ったまま、ジッと見ていた。


 腕の一つも無くなれば、其処からは血が吹き出す筈だ。

 だが、見えているのは血ではない。


 切れたで在ろう筋肉の組織と、内部骨格の一部。

 僅かに漏れ出す液体。


 それらが、篠原良は人間ではないという事を示していた。


『わかっちゃ居たけどさ、こう見せられるとね』

 

 このまま倒れたい衝動に、良は駆られる。

 戦うとしても、相手は誰なのかもわからない。


 事態を飲め込めず、茫然自失。

 そんな良を、飛んできた弾が現実に無理やり引き戻した。

 

『痛……くそ……なんでだ』


 自分が負傷し撃たれる事よりも、その意味を良は考えていた。


 片腕を失った改造人間の隙を突かんと敵は動く。

 当たり前だが、敵が負傷したというのであれば、それは絶好の攻撃の機会だろう。


 遠くか飛んでくる弾を受けながら、良は見ていた。

 名も知らず、相手が誰なのかもわからない。 

 

 お互いがそうなのに、戦う。


 膝を着きそうに成るが、残った腕で体を庇う。


 もはや絶体絶命かというその時。

 

 良の後方から火砲が火を噴き、放たれたロケットが煙の線を書いていた。


 視線の先で、爆発が起こる。

 殆どは外れるが中には吹き飛ばされたで在ろう姿も在った。


「首領! 援護します! お早く!」


 良が稼いだ時間を生かして、構成員達が反撃に出たのであった。

 ソレを聞いて、良も慌てて辺りを探す。


 探すのは、千切れ飛んだ腕。 幸か不幸か、ソレは見つかった。

 砂埃や砂利にまみれたソレを、拾い上げる。

 

 手で腕を持つと言う事を、良は信じたくなかった。


   *


 組織の援護によって、辛くも遮蔽物へと身を隠す。

 其処で、良は目を見開いていた。


 兜が顔を覆っているせいで、良の顔は周りには見えてはいない。 

 もし見えていたなら、驚愕の表情が見えた筈だ。


 小競り合いをしていたのは知っている。


 その証拠に、遮蔽物の裏には負傷者が大勢居た。

 仲間に寄り添う者も在れば、動かないで在ろう者の側でがっくりとうなだれている者も居る。


 呆然とする良に、構成員が近づいた。  


「首領! ご無事ですか!?」


 構成員に心配された良は、ハッとしていた。

 

『あ、あぁ、俺は良いよ。 他の奴を見てやってくれ』

「しかし……」 


 構成員の目線は、千切れた腕に向いていた。

 それに気づいた良は、残った手を軽く振る。


『気にするな。 まだ生きてるよ』

「は、承知致しました」


 首領に云われれば、構成員は逆らおうとはしない。

 部下の背中を見送りながらも、良身体を起こす。

  

 ソッと、遮蔽物から頭を出した。


 普通の人間ならば、狙撃を警戒し出来る行動ではない。

 が、改造人間ならではの事だ。


『向こうも手酷くやられてるのか』


 殺し合いをしているにも関わらず、良はそう漏らす。

 何の為にこんな事をしているのか。


 報復と云われればそのままだろう。

 が、果たして向こう側の兵員はそれをどれだけ知っているのか。

 殆どは【命令されたから】と推測する。


『黙って従ってるだけってか? それで生きてるって言えるのかね』


 全く無意味な戦いに、一つしかない命を投じる。 

 その意義が、良は理解出来なかった。


 暫くの間、組織と進行側とでは膠着状態が続く。


 お互いに、攻め手に欠けていた。


 戦況を覆すには、切欠か何かが要る。


 そんな中、敵方の方から堂々と歩いてくる者が居た。


 まとう衣服は一見すると普通だが、所々が派手な装飾が為されている。

 更に目立つのは、身体に不釣り合いな大仰な武器だ。

 伊達気取って持ち歩くには不向きな大きさの剣。


 銃弾飛び交う戦場に赴くには、その姿は奇異である。

 

『なんだ、ありゃ?』


 余りに堂々と歩いてくる姿に、思わず声を漏らす良。

 その隣では、構成員が肩を震わせる。


『おい? 大丈夫か?』

「まずいです、アレは………異能力者ですよ!」


 焦る構成員の声に、良は『なるほど』と声を漏らす。


『向こうも、奥の手を出してきたって訳か? じゃあ、俺が出るしかないな』


 そう言うと、良は遮蔽物から身を乗り出す。


「し、首領! 無茶です!」

 

 心配する部下に、良は振り返る事無く手を軽く振った。


   *


 戦場のド真ん中にて、相対する二人。


 片方は如何にも【正義の味方】といった出で立ちの青年。

 対するのは、片腕が千切れたままの改造人間である。


 睨み合う中、青年の方が先に口を開いた。  

 片目を窄め、眉を上げる。


「ブレードタイガーじゃないな? あんた?」


 投げ掛けられる声に、良は無理に笑った。


『ああ、チョイと事情が在ってね。 ま、代打って所さ』


 良の声を、青年は訝しむ様に唸った。 


「ふぅん? でも、あんたも改造人間だよな? 見りゃわかるけど」

『そうだ』

「組織に忠誠を尽くすってのか? そんな様に成っても」


 腕の事を云われてるのは良も分かる。

 肩を持ち上げる事は出来るが、肘から先が無い。


『いや、俺は別に組織なんかに拘ってないぜ?』

「じゃあ、なんでだ?」

『お?』

「あんたも改造されたんだろ? 奴らが憎くはないのか?」

 

 問われた事に今度は良が唸った。

 憎いかと問われれば、全く凝りが無い事もない。

 が、それは既に飲み込んでいた。


『いきなりだったからな。 ま、それも今更だろ?』

「だったらさ、組織を潰すのを手伝ってくれないか?」


 突然の勧誘スカウトに、兜が少し傾く。


「奴らは悪の組織なんだ。 それに、人殺しだ。 そんな奴らをほっとけないだろ?」


 青年の云っている事は在る意味正論ではある。

 もしも、良が全く事情を知らないのであれば、或いは誘いを受けたかも知れない。


 だが、良はその組織の首領であった。

 

『んー、まぁ……組織は今、改変中なんだよな』

「へぇ、そう」


 問われた青年は、武器を肩に担いだ。

 振られる武器が風を切る音、肩に当たる音から、相当な重量であるのが分かる。


 相手の得物を確認しつつも、良は肩を竦めて見せた。


『実はさ、組織の首領は俺が既に倒しちゃったんだよね』


 青年の形の良い眉が、ピクッと揺れた。


『でもさ、だからっていきなり皆クビーじゃ困るだろ?』

「だから? 見逃せ、とでも?」


 良は兜を縦に振る。


『今すぐは、そう変わらないかも知れない。 でも、時間をくれよ』


 懇願を込めて頼む。

 良の言葉に、青年は目を閉じてウンウンと首を揺すった。


 閉じられていた目がカッと開かれ、武器が振られる。

 ブォンと鈍い風切り音を伴うソレを、良は避けていた。


『不意打ちとか、正義の味方のやる事かい?』


 パッと距離を取る良に、青年は武器を構え直す。


「交渉は決裂しただろ? 時間稼ぎなんざ無駄だ」


 呑気な雰囲気は消え去り、殺気を放つ。

 ソレを受けて、良も身構えた。


 相手が異変ならば、消せる。

 ただ、一つ忘れている事もある。


 かつて魔法少女を撃退した際に、良は両手を用いた。

 が、今の良の片腕は無くなっている。

 

 つまり、異変に対して対処が出来ないという事に気付いてしまった。


『……やっべえ』


 気付いても、事態は変わらない。

 ぼそりと吐いた良の声は聞こえずとも、青年が飛び出していた。


「行くぜ!!」


 わざわざ声を掛けながら、青年は武器を振るう。

 異能力者という異名は伊達ではないのか、その速度は凄まじい。


 舌打ち混じりに、良が剣を腕で受ける。


 100キロを軽く越える改造人間を、青年は弾き飛ばした。

 

 飛ばされた良も、信じられない衝撃に戸惑う。

 装甲のお陰で腕を斬られてはいない。

 

 が、凄まじい事に代わりはなかった。

 地面を抉りながら、何とか着地する。


『……くそ、冗談じゃねぇぞ、こんなバケモン相手しろってか』


 生身にしか見えないが、改造人間並みの膂力。

 正に、怪物といって相違ない。


 今更ながらに、良は勧誘を断った事を少しだ後悔していた。

 だが、まだ望みが無い訳ではない。


 以前に博士に説明を受けた際。

 良の身体には【異変】を弾く効果が在ると教えられている。


 何とか相手に振れさえすれば、勝つ可能性は残されていた。 


『首領なんて、やるもんじゃねぇ、なあ!!』


 自分の境遇を呪いながらも、良は向かってくる青年を睨む。

 赤々と光る目は、まだ勝ちを捨ててはいない。


 首領としての自分が倒れれば、残された構成員が皆殺しに成るのは明白だろう。


 良く成り始めた組織の為にも、倒れる訳には行かない。


 片腕にも関わらず、良は青年へ向かった。


   *


 組織の改造人間と正義の味方の戦いは、ほぼ一方的な様相を呈する。

 圧倒的な武力の差は、如何に改造されていても覆すのは容易ではない。


「どうした!? それでも怪人かよ!?」


 掛けられる挑発に、良は悪態を返す余裕が無い。

 振られる武器を弾き、避けるだけでも精一杯であった。


 青年の攻撃に晒されながらも、良は機を窺う。


 其処で、在ることを閃いた。


 敢えて立ち尽くし、胴体をさらけ出す。 

 戦いに置いては、余りに無防備な体勢。

 

 流石の青年も、それを訝しむ。


「何のつもりだ? 降参ってか?」

『いんや、そんなつもりは無いな』


 身体を的にしながら、強がる改造人間。

 それを挑発と受け取った青年。


「そうかい、じゃあ!!」


 吠えると同時に、正義の味方は剣を構えると一直線に突き進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ