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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
戦慄!虎女!
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戦慄!虎女! その6


 首領を出撃させる。

 それだけでも事は大事なのだが、問題は一つではなかった。


 最初こそ、良は徒歩で行けると考えていた。

 自分は改造人間なのだから、東京大阪間ぐらいならば行けるだろう、と。


 が、物理的に無理であった。


 それは単純に、今の基地と件の基地との距離に在る。

 地図を見てみれば分かるが、軽く10000キロ以上も離れて居た。

 

 車は勿論、ジェット飛行機でもおいそれと行ける距離ではない。


「ぬぅぅううああぁぁぁ……どうしたらぁぁぁ」


 今の状況に、アナスタシアは益々唸る。

 仮に飛行機で直行するにせよ、とてもではなく間に合わない。

 手を拱いて居れば居るほど、組織が危うくなってしまう。

 

「こうなれば! 自衛隊か、米軍から戦闘機をパクろうか? あぁ、でも、航続距離に無理があるし……うぅぅ」  


 妙案が出ない事に苛立つ女幹部。

 眉間にシワが寄っている彼女には、近寄り難い雰囲気が在った。


 構成員は勿論、良ですら声を掛けるのも躊躇われる。


 貴重な時間だけが消費されていく。

 誰もがそう思った所で、部屋に姿を現した者が居た。


「お話は聞かせて貰いました!」


 バッと白衣を翻す姿は、小柄ながらも一応の雰囲気を放つ。


「私に考えが在ります!」


 そんな博士の声に、良と構成員は勿論、アナスタシアも「おぉ!」と声を上げた。


「おぉ、博士! して、どんな妙案が!?」

 

 時間が惜しいのか、先を促すアナスタシア。

 それに応える様に、博士の眼鏡がキラリと光る。

 

 一体全体どの様な技術で光らせているのかは不明だ。


「コレをご覧くださいませ!」


 白衣から取り出されるのは一枚のコピー用紙。

 其処には、博士の手書きなのか絵と文字が記されていた。


「あ、じゃあ見せてくれないか?」


 怖ず怖ずと近づき、計画書を受け取る良。

 しげしげと紙に目を通すが、良の顔は渋かった。


「博士、相変わらず絵が解りづらいんだけど?」

 

 良の言葉通り、イラストは雑だ。

 鉛筆らしき棒に、同じく棒人間が括り付けられている。


 首領の指摘に、博士はコホンと咳を払った。


「今は時間が惜しいのです!」

「ね、ちょっと」

 

 良が声を掛けるが、博士は取り合わない。


「今すぐにでも、首領のご用意を!」

「おーい」


 結局、博士は上司を無視していた。


   *


 基地の中を移動する悪の軍団。

 その先頭を行くのは、博士である。


 その後ろを良とアナスタシア、さらには構成員達が後続する。

 端から見れば、行進だろう。

 

 そんな軍団が辿り着いたのは、地下基地に作られた巨大な格納庫サイロ。 

 其処には、ロケットと呼ぶには些か小さいモノがポツンと在った。

 

「博士! ソレはいったい!?」


 アナスタシアの驚いた声に、博士はフフンと笑う。


「こんな事も在ろうかと! 常に準備を怠っては居ません!」


 足を肩幅に開き、白衣をバッと広げる博士。

 派手な博士の動作に、構成員達からはオオと声が上がる。


 ただ、良だけは微妙な顔をしていた。


「こんなモンばっかり作ってるから予算がねぇんじゃねぇのか?」


 思わず、思った事が口を滑り出る。

 盛り上がりつつ在った空気が、一気に冷める。


 自身の空気を読まない発言に、良は焦った。


「あー、すんません」


 場を白けさせたからか、首領は詫びる。


 云われた博士にしても、唇をギュッと閉じて泣き出しそうな顔をして居たが、直ぐに顔を元に戻していた。


「と、とにかく! 首領!」

「え? はい」

「乗り込んでくださいませ!」

「えぇ」


 見え隠れする博士の怒り。

 その声は、とっとと行っちまえ、とも聞こえた。


   *


 操縦席の様なモノを期待した良だが、現実は非情である。

 ロケットの中間部には、空間が設けられていた。


 其処は、文字通りただ中身が無いだけなのだ。

 そして、その中身として、変身した首領が納められる。


 如何に改造人間とは言え、そのままでは危ないとの判断だ。

 とは言え、そのまま押し込められた事に変わりは無い。

 

 荷物にされた様な気分の良は、ウームと唸った。

 あぐらにて座り込み、腕を組む。


 過去に見たことがある宇宙飛行士達とは扱いに差が在り過ぎた。


『で? コレでどうすりゃ良いんだ?』


 狭い故か、声は反響して響く。

 声に呼応する様に、良に通信が入った。


『もう直ぐ燃料注入が終わります! 後は、現地まで二十分ほどかと』


 聞こえてくる博士の声に、首領は首を傾げた。

 変身して居るゆえに顔は見えないが、何とも滑稽な姿でもある。


『行けばわかるか……なぁ、博士』


 直接顔を合わせずとも、話は出来る。

 ロケット調整の為に外に居る博士には、声が聞こえていた。

 

『はい、首領?』

『この……ロケット? ホントに大丈夫?』


 訝しむ首領の耳に、ムゥと唸りが聞こえた。


『大丈夫です! 少しは信じてください!』


 言葉は丁寧ながらも、博士の怒りは音で見えていた。


 狭い筒の中で、首領がやれやれと肩を竦めて首を振る。

 ふと止まり、顔を上げた。


『そういや、ブレードタイガー……いや、カンナさんにさ、ごめんって云っといて』


 伝言を頼むが、返事は直ぐに無い。

 それでも僅かな雑音は聞こえる。


『……なんで謝るんですか? 悪いのはあの虎ですよね?』 


 そう言う博士の声は、僅かな苛立ちが混じる。

 ソレを聴いて、良は苦く笑った。


『まぁ、そうなんだけどね。 つまらない拘りっていうのかな』


 兜の中で、良が笑う。

 

『自分で云ってください! 発射、十秒前です! ご用意を!』

『ご用意っても、あーい』


 用意と云われた良だが、座るべきシートはおろか締めるべきシートベルトも無い。

 精々が、壁に手を着いて体を安定させるぐらいだ。


『9……8……7……』


 淡々とした声に、ザリっと雑音。


『首領!! 御不在の間、お任せください!』


 聞こえてくるアナスタシアの声に、良は頷く。


『はーい、お願いしま~す! 行って来まーす!』


 呑気は返事は、ロケットの外まで響いた。


『……3……2……1……発射!』


 カウントダウンが終わり、ロケットが火を噴いた。


   * 

 

 突如として、山の中腹辺りがゴゴゴと派手な音を立てて開く。

 偽装された蓋が開いて直ぐ後。


 組織の首領を詰め込んだ一本のロケットが空へ舞った。 

 僅かな光と大量の煙を吐き出しながら、一直線に登る。


 そんな物体の中では、生身の人間ではひとたまりもない。

 だが、詰め込まれているのは改造人間であった。


 但し、如何に改造されているとは言え、簡単な話ではない。


 ロケットが派手に飛んでいく間も、寝ては居られない。


『うぅおおお……こりゃあキツいぜ』


 全身にのし掛かる重圧に、良は声を漏らす。

 果たして、自分は何処に居るのかも分からない。

 空を飛んでいると言われても、激しい振動と音で何がなにやらであった。


 此処に来て、後悔を感じる。

  

 言い出してしまったのは自分だが、よくよく考えれば別の怪人も居るだろう。

 また、他の部下に頼むという選択肢も在った。


『首領なら、命令しても良かったかなぁ』 


 今更ながらと、独りで愚痴を漏らす良。

  

 そんなこんなを考えていると、良は在ることに気付く。


『……ん?』


 身体に重さが無い。 端的に言えば浮いていた。


『お? 宇宙かな?』


 無重力な体験に、新鮮さを感じた良だが、直ぐに重圧が戻った。

 然も、今度は明確に落ちていく感覚も混じる。

 

 もしも周りが見えていれば、或いは恐怖も薄れるかも知れないが、悲しいかな良の目には壁しか見えていない。


『おぉおおおお! どうなってんだぁ!?』


 何もわからず、声を上げる。

 すると、耳に雑音が入ってくる。


『……ょう……首領! 聞こえてますか!?』

 

 飛んでからは聞こえてなかった通信が入り、良も少しは安堵した。

 ただ、落ちていく感覚は馴染めそうもない。


『聞こえてるよぅ!! 今何処なんだ!?』


 雑音に負けじと叫ぶ首領。


『目標までは後少しです! 頑張ってください!』

『云われなくても頑張ってまーす!?』


 激しい振動に加えて落下による浮遊感。 

 

 それらに耐えていると、ふと衝撃が良を襲った。


『うおお!? なんだなんだ!?』

『パラシュートが無事に開いた様です! もう少しで着陸ですよ!』


 着陸と云われても、やはり何も見えない。


『何か無いの? こう、現地の状況とか』


 とにかく急ぎの旅で在った。

 その為、必要な事は殆どが省かれている。


 少しでも情報を集めんとする首領。


『現在、我が組織と敵との小競り合いが始まってしまっている模様です』


 そんな博士の声に、良はムッと唸る。


『えぁ、マジかぁ、で、どうすりゃ良いかな?』


 勢いに任せて此処まで来てしまった。

 が、何をすべきかが無い。


 だが、戦いともなれば話は違ってくる。

 今までもそれなりには戦った事がある良も、殺し合いの経験は無い。


 なかなか返事は返って来なかった。

 それでも『首領のお心のままに』という応答が来る。


 聞こえた声に、良は『わかったよ、ありがとな』と応える。


 次の瞬間、凄まじい衝撃が良を襲った。


   *


 ごくごく当たり前の事だろう。

 銃弾飛び交う戦場に置いて、ノコノコと怪しい何かがパラシュートでゆったりと降下してくる。


 それを見たならば、むざむざ放置している者は兵士とは呼べない。

 

 降下中の首領入りの筒を、誰かが迎撃したのだ。

 

 パラシュートは燃え、筒は派手に地面に落ちる。

 誰もが、中身は壊れたと想うだろう。


 が、ガコンと大きな音と共に、筒の一部が弾け飛んだ。


『ゴラァ!! いきなり不意打ちかます奴が在るかボケ!?』


 筒の中から、怒声と共に怪しい怪人が現れたのだった。

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