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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
恐怖!悪の軍団!
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恐怖!悪の軍団! その2


 図らずも、悪の組織の首領を倒してしまった改造人間、篠原良。

 だが、悪が滅びた訳ではない。

  

 組織その物は消えては居ないのだ。

 

「あれ? お、おーい? だいじょうぶですかー!?」


 爆砕してしまった首領からはもはや答えは返ってこない。

 ただ黙々と煙を吹くのみ。


 其処で、良は渋々と周りに目を向ける。


「あー、すみませーん! コレ、どうします? なんか、壊れちゃったみたいですけど?」


 困惑する良だが、実のところ周りの者達も困っていた。


 悪の組織に置いて、首領とは頭であり絶対の存在である。


 が、強靭は蛇ですら、頭部を潰されては生きては居られない。

 良がした事は、正にそれであった。


 毒を持った大蛇の頭を、叩き潰す。


 頭を失ってしまった者達は、元の頭を倒した良を見た。

 何十人もが、良へと目を向ける。


「えー……と? な、何だよ!? やるってのか!?」


 まさか、このまま集団リンチでも始まるのかと、良は焦る。

 如何に改造されたとしても、まだ何も知らないのだ。

 組織と戦うには、些か分が悪い。


 次の瞬間、集団の一人が跪いた。


「……貴方こそ、新しい首領!」助けを求めるが如き声。

  

 それは、周りに伝播していく。


「おお、新首領様!」

「我等をお導きください!」

「私達に新しい目的をください!」


 その場に居た組織の構成員達は、勝手に良を【首領】と呼ぶ。


 では、呼ばれた側はと言えば、ただ困惑していた。


「えぇ~……ちょ、参ったな」


 元々の性格故か、頼まれると嫌と言えない良。


 こうして、知らず知らずの内に、篠原良は勝手に首領にされていた。


   *

 

「此方です! 首領!」


 早速とばかりに、篠原良が呼ばれたのは広い会議室である。

 組織に置いて、首領の声は絶対の意味を持つ。


 首領である良が【とりあえず色々教えて】と言えば、それは叶うのだ。


「さ、首領様! お席へ!」


 そう良を案内するのは、派手な格好の女性だった。

 ピチピチタイツの構成員とは、一線を隠す異様。

 正に見た目は【悪の女幹部】と形容するに相応しい。

  

 ただ、良にとっては【痴女なのかな?】という感想しかなかった。


「あーはいはい」


 其処には、無駄に豪華な椅子が用意されていた。


 装飾が過多に施され、著しく趣味が悪い。

 座り心地云々よりはただ見た目だけが優先されたデザイン。

 然も、椅子の最上段にはあの爬虫類の様なエンブレムが残っている。


 前首領を倒した良からすると、どうにも居心地が良くはない。

 だが、女幹部は椅子を手で指し示す。


「さ、首領!」

「……あー、どうも」 

 

 首領に抜擢された、とは言え本人にその自覚は無い。


 何せ、いきなりの事である。

 理解など追い付く筈がなかった。

 休日のんびりしていたら、悪の組織にさらわれ、勝手に改造を受けさせられた後、気付いたら首領に収まっている。


 正に夢の方が現実的という状況であった。


「はぁ、じゃあまぁ」


 仕方なく椅子に腰掛け、辺りを見渡す。 

 正に壮観であった。


 部屋自体の広さもさながら、何よりも困るのは構成員達だろう。


 まるで学校の校庭に整列させられた生徒達の如く、ピシッと居並ぶ。

 然も、全員が良へ顔を向けていた。


 今までの人生の中に置いても、注目された経験など良には無い。


「……あー、皆さん、こんにちは、こんばんはかな?」


 時間が分からない為、とりあえず挨拶を送ってみる。

 

 すると、構成員達は全員が片足を上げた。

 上げられたら足が床を叩き、バシッと音を立てる。


『首領! 万歳! ウロボロス万歳!』


 組織の構成員達は、大声で新首領である良と、組織に対する忠誠を示す。

 が、当の首領である良は、別の事を考えていた。


 首領が誰かに付いてはどうでも良く、組織の名前にある。


 口にこそ出さないが【ダセェ】と良は思った。


「もうちょっと気の利いた名前じゃないのかよ……」

 

 良からすれば、もっと凝った名前を期待していた。

 だが、実際に聞いたのはトカゲの怪物を称するソレ。


 だからといって、今更ポンと良い名が思い浮かばなかった。


「静かに!!」


 良の脇に控える偉そうな女幹部が、声を張り上げる。

 どうやら、並みの構成員よりも少しは上なのだろう。

 事実、その衣装は少し凝ったデザインであり、水着に見えなくもない。


「皆! 今から、首領より新しい目的が発表される! 静聴せよ!」


 実に大仰な女幹部の声。

 それを聞いて、良は「はい?」と狼狽えた。


「さ、首領様! 皆に、我々に新しい目的をお与えください!」


 女幹部は、ここぞとばかりにキラキラとした目を向けてくる。


「えぇ……」


 いきなりのムチャクチャな話に、良は焦った。

 当たり前ではあるが、悪の組織の目的など知ったことではない。

 と言うよりも、そんな事を急に問われても出て来ない。


 正に無茶ぶりかつ丸投げである。


「あー……えーと……じゃ」


 新首領の声に、静まり返った構成員も落ち着かない。 

 余りに静まり返ったせいか、唾をゴクリと飲み込む音ですら聞こえそうだ。


 そんな組織の構成員達から目を向けられ、良は迷った。

 例えるならば、いきなり訳の分からない舞台にあげられ、その場で隠し芸を披露せよ云われたようなモノだからだ。


 腕を組み、鼻を唸らせる良。 数秒間はたっぷりと悩む。


 その時、天啓か、閃きか、良の中に一陣の光が走った。


「あー、皆さん。 コレからは……せ、世界の平和を目指しましょう!」


 咄嗟の思い付きである。

 予め用意されていた【目的】など、良には無かった。


 当然ながら、新首領が打ち出した目的は、構成員達を驚かせるモノだ。


 そもそもが悪の組織を自称する集団に【平和】を説く。

 それに果たして意味が在るのか。


 整列こそして居る構成員達だが、誰もが驚きを隠せない。


「……いま、首領が云ったのって………」

「いや、でも、うちら……」


 どよどよとした囁きが、構成員達に広がる。

 それは、言い出しっぺである首領の良にも伝わっていた。


「あー、えと……」


 良からすれば、こんな事に付き合うつもりは無かった。

 どうせなら、組織その物を解体してしまえ、とすら思う。


 何とかお茶を濁し、悪の組織を解散させる。

 そんな良の願いを嘲笑うが如く、女幹部が前に出た。


「静かに!!」


 片手とを振り上げつつ、声を張る。

 刃物の様に鋭い一言にて、構成員を黙らせた。

 流石や酔狂で伊達で変な格好をして居る訳ではないらしい。


 驚き戸惑う良ですら、女幹部に目を向けていた。


「貴様ら! 首領の深いお言葉が理解出来んのか!?」


 怒声にも等しい声は、構成員達も驚き、良も首を傾げる。


「よいか! 平和とは、秩序が保たれ、争いが無い事を云うのだ!」


 突如として、女幹部の演説が始まった。


「つまり、我々が力によってこの世を制覇し、全てを我等が手中に納め、平和に導くという事だ! 世界征服の暁には、我等が新世界を造るのだ!」


 女幹部の演説。

 それを受けた構成員達は、全員がお決まりのポーズを取った。


「流石に首領!! なんと深いお考えを!!」

「愚かな我々をお許しください!」

「今後も私達を導いてください!」


 構成員達は、我先にと首領への賛辞を贈る。

 

 そんな部下の様に、女幹部は満足げであった。

 片手を挙げ、マントを翻す。


「首領!! 万歳!!」


 高々と上げられた声に、構成員達も続く。 

 しかしながら、当の首領である良は、困っていた。


 女幹部は殆ど勝手に目的をでっち上げている。

 ただ、その内容は以前の【世界征服】と大差が無い。


「いや、あの、俺……別に……えぇ……参ったな」


 本気で悩む新しい首領。


 ハッキリ言えば、良には野望が無い。

 そもそもそんなものとは無縁の生活を送って来た。


 少ない給料、恵まれない立場。

 それらが、良から欲望を程よく削ぎ落とし、所謂【悟り世代】の代表でもある。

 

 だからこそ、急に悪の首領にされたところで、それが現れる筈もない。

 

「「首領! 万歳! 首領! 万歳!」」


 ノリノリな構成員達と違い、悪の首領は、ただ途方に暮れるしかなかった。


   *


 構成員達への面通しが終われば、解放されると想っていた篠原良。 

 だが、悲しいかな新首領は多忙であった。


「さ、首領! 遅ればせながら幹部とも会合を願います!」

「あぁ、はい」


 次にコッチだと案内されたのは、また別の部屋。

 先程の広い場所に比べると、いささか狭く、正に会議室といった風情。

 ただ、相も変わらず内装に付いては趣味が悪い。

 蛇か蜥蜴かを模した壁紙は、眼に優しくなかった。


「首領、現在四天王は外に出ています。 ですので、今居る幹部達をご紹介致します!」


 そんな声に、良は「どうも」としか言えない。

 いきなり事続きで、何が何やらである。


 そんな時、会議室に何人か姿を現す。


 どうやら、構成員達の中でも選り抜きなのか少しデザインが違うピチピチタイツを纏った数人。


 更には、ヤケに俯き気味で構成員に隠れる様な姿もあった。


「首領! かの者達はあなたの手足となり働くでしょう! 勿論、私アナスタシアもです!」


 部下の紹介を含め、自分の紹介も済ませる女幹部。

 しかしながら、それをされたところで、良にとっては嬉しいことでもない。


「あー、皆さん、宜し……く?」


 首領と呼ばれるには貫禄不足な良である。

 ただ、コソコソとしている姿は見えた。


「えーと、其方の方は?」


 気になった良がアナスタシアに問う。

 首領に問われれば、部下は答えない訳には行かないのだ。


「は! 彼方は我が組織の改造部門の長です! おい! 何さっきからコソコソして居る! 挨拶をしないか!」


 鋭い指示に、タイツの構成員はスッと退いた。

 すると、隠れていた人物が良にも見える。 


「ん?」

「………ど、どうも」

 

 ヤケに恐る恐るといった挨拶はともかくも、良は、そんな人物に見覚えが在る。


「……あんた、少し前に会ったよね?」


 改造されたからか、本人が思う以上に記憶が鮮明な良。

 俯き気味な女性は、良に声を掛けた人物であった。

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