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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
戦慄!虎女!
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戦慄!虎女! その5


 怒りが冷めれば、それとは別の感情が湧いてくる。

 勢いに任せてやってしまった事に、良は実に困っていた。


 してしまった後に、それに気付く。


 ついさっきまでは大仰な態度を見せていた筈の虎女が、まるで子猫の様に身を丸め顔を覆って居る。

 ギャアギャアと喚くでもなく、時折漏れる嗚咽。


 それは、良に著しい罪悪感を与えていた。


「あぁ、参ったな」


 どうしたものかと悩むが、それが分からない。

 ウーン呻きつつも、良はハッと思い付いた。


「あの、アナスタシアさん。 ちょっと……」


 バツが悪そうな首領の声に、女幹部は自分の立場を思い出す。


「あ、はい!」


 普段の厳めしい態度ではない。  

 アナスタシアはカンナへと駆け寄ると、ソッと手を掛けた。  


 部下に任せた形の良は、敢えて目を反らし、背を向ける。

 負かしたとは言え、その相手が女であり、ましてや泣いている姿を見るのは忍びなかった。


 二人の女幹部が居なくなった部屋。

 其処でパチパチという音が聞こえる。


 音は、今の今まで一言も発せずに居た幹部の一人であった。

 一本角の壮年の男性。


「いやはや、良いモノを見せて頂いた」 

  

 良は、思わず其方へ振り向く。


「あー、確か、ソードマスター……さん?」

 

 紹介の折に聞かされたそのままで問う。

 すると、男は苦く笑った。


「ただのもうろくジジイだよ。 そんな大仰な名前で呼ばれる程の者じゃないさ」


 謙遜めいた声に、良は思わず頭を掻いた。


「あぁ、はい」

 

 首領ながらも、首領らしくない良。

 悪の頭目の割には腰の低い青年に、男は笑った。

 

「あの虎娘な、鼻っ柱は強いんだが、あんな風に泣くと少し可愛く見えるものだな。 なぁ、首領」


 問われた良はと言えば、複雑な想いであった。

 ブレードタイガーことカンナの顔立ちや身体つきは見ている。  

 世間一般で言えば、美人の部類といえるだろう。


 が、良は【そうですね】とは口に出せなかった。


 向こうから仕掛けられたとはいえ、結果の後味は宜しくない。

 もしも、良が残虐な性格をして居たならば、或いは勝ち誇っただろう。


「はい、まぁ」


 壮年の質問に対して、良の答えは曖昧なモノだった。

 否定もせず、肯定もしない。

  

 それは、そんな些細事よりも別の事を悩むからだ。 

 語らずも、それは男にも伝わる。


「そう暗く成るものではないぞ、首領」

「え? だって俺……」


 女の子を泣かせてしまいました。 良はそれが言えなかった。

 在るのは爽快感ではなく、別の重苦しさ。


 悩む首領とは反対に、男は軽く笑う。


「自分が凄い事をしたとは気づいてないのか?」


 ポンと云われた言葉に、良は目を丸くした。

 男は構わず言葉を続ける。


「そうだろう? 何故なら、殺せた筈だ。 その方が容易い。 あの娘は弱くはないが、相手との相性は最悪だった。 だから、もしも首領がその気なら、小娘は死体となって転がってただろう。 何故殺さなかった?」

 

 云われた良は、ウーンと鼻を唸らせる。

 確かに、本気で怒った際には【殺す】という一念が在ったのは間違いない。

 

 ただ、虎女を捕まえた所で、良は慌てて違う方法を選んでいた。


 本気でならば、ブレードタイガーの胴体と下半身を引き千切り、投げ捨てる事も出来ただろう。


 良は、敢えてそうはしなかった。


「どうしてだ?」


 なかなか答えない良に、男は答えを促す。

 吐いていた息を、深く吸い込む良。


「なんて云うか、寝覚め、悪くなりそうで」


 今度は、男が目を丸くする。


「そんな理由でか?」


 驚かれたからか、良は顔を渋くする。


「いや、猫にちょっとじゃれつかれたからって、蹴飛ばしたり殴ったりなんて、俺には……」


 良が答えると、男は豪快に笑う。

 今までは影に徹して筈が、それを払拭する様であった。


「ち、ちょ、そんなに笑わなくても」 

 

 顔をしかめる青年に、男は手を軽く振る。


「すまんな首領。 気を悪くしないでくれ。 ただ、組織の大幹部を相手に猫如きとは、いやはや、もしかしたら、君は前の首領よりも大物なのかも知れないな」


 そう言うと、男は笑いながら部屋を出て行く。

 思った以上に広い背中に、良は恨めしそうな視線を送っていた。


   *


 首領と幹部の戦いのせいで部屋は荒れ放題である。

 流石にそのままという訳にも行かず、とりあえず片付けを始める良。


 幸いな事に、忠実なる構成員達は嫌がる事なく手伝ってくれていた。


「なんか、すんません」

 

 全員がピチピチタイツの上にマスクで誰が誰やら分からない。

 それでも、とりあえず良は詫びた。


 それに対して、構成員達は作業を止めるとビシッとポーズを決める。


「は! 恐縮で在ります!」


 仰々しい返事には辟易するが、良は安堵もして居る。

 派手な戦いをしてしまった以上、下手をすれば被害が出るのは避けられない。

 

 幸いな事に、死傷者は居らず、被害は会議室の設備だけであった。


 掃除をしながら、良は考える。

 自分は、泣かせてしまった女にどう詫びるべきだろうか、と。

 

 無論、喧嘩をふっ掛けて来たのはカンナである。

 で在れば、良は首領として降りかかる火の粉を払ったに過ぎない。


 なればこそ詫びるべきは向こうにある。

 が、良は悩んでいた。


「あ~あ、参ったなぁ」


 重い瓦礫も、なんのそので運べる。 

 が、そんな強い力も、解決策を与えてくれない。


 そうこうして居る内に、アナスタシアが戻ってきた。


「首領、お待たせしました!」


 相も変わらずの態度の姿に、良は顔を上げた。


「あ、お疲れ様です」


 まるで職場の同僚といった首領に、アナスタシアはがっくりと肩を落とす。


「しゅりょう………もう少しで良いですので、らしくなさってくださいませ」

 

 悲しげな声に、良は益々苦虫噛み潰した様な顔を見せる。


「らしくしろってもなぁ……あ!」


 思い悩みながらも、良は慌ててアナスタシアを見た。


「そうそう、えーと……カンナ……さんは?」


 自分に襲い掛かった造反者にすら【さん付け】してしまう良。

 悪の組織の首領としては、人が良すぎる青年である。

 

 らしくない上司に、アナスタシアは唸りながらも少しだけ笑った。


「大丈夫ですよ。 あれでも一応は怪人ですからね。 お尻叩かれたぐらいじゃ死にはしません」


 そう言う声は、何故だか少しだけ明るい。

 ソレよりも、良は虎女が無事だと云うことにホッとして居た。


「悪いんですけど、少し手伝って貰えます? ほら、片付けないと」


 掃除の手伝いを願う首領に、女幹部はまたしても顔をしかめた。


「掃除など、部下に命じれば良いではないですかぁ……」


 云いながらも、アナスタシアはハッとした。

 

 本来ならば、首領という者は基本的に傲岸不遜である。

 権力をたてに、一方的に子分へ指示を下す。

  

 それは、正に支配者と言えた。


 以前なら、アナスタシアもそれを疑問に思った事は無い。

  

 自分はただ、組織に忠実で在れば良く、手駒として働くだけ。

 迷うことも無く、悩むこともない。


 何故ならば、ただ指示に従って生きれば良かった。


 それが、首領が交代した途端に組織がカラッと変わってしまう。

 いきなりやる事が増えて、アナスタシアは胃に穴が開くのではないかと悩んだ事もある。

 

 だが、それ以上に、居心地の良さも感じ始めていた。


「はいはい、お手伝いを致しますです」


 如何にも仕方ないという態度で答える。

 それに対して、良は「すんません、あざっす」と軽く答えた。


 悪の組織とは名ばかりで、もはや別の企業なのではないか。 

 アナスタシアがそう考えた時、ドタバタと音がする。


 それに対して、良とアナスタシアは二人揃って顔をあげていた。


「首領! アナスタシア様! 大変です!」 


 構成員の大声に、アナスタシアが動く。

 持ち上げていた瓦礫を放り出し、マントを翻す。


「……ぐぁ!?」

 

 アナスタシアが投げ捨てた瓦礫が、良のつま先に落ちたのは偶然だろう。


「何事だ! 騒々しい!」


 つま先を抱えて転がる首領を見向きもしない女幹部である。

 そんな彼女の前に、構成員は跪いた。


「現在、国外の別基地に襲撃が行われようとしています! ご指示を!」

「なぁにぃ!? いったいどういう事なのだ!」


 焦る構成員に、憤る女幹部。 そして、つま先を抱えて転がる首領。


 実に混沌な光景だが、誰も首領には目を向けない。


「それが、ブレードタイガー様が始末した者が居りまして」

「なんだと? それで、どうした?」

「基地への襲撃は、その報復かと」


 国内の事が専門のアナスタシアからすれば、国外の事に関しては関知して居なかった。

 そもそもそういった指令を出して居たのは、以前の首領である。

 

 だが、その首領を良が倒してしまった。


 頭目が居なくなれば、組織の統率者が居なくなる。

 つまり、その間に起こった事は女幹部では知りようがない。


 アナスタシアは、忌々しさに舌打ちを漏らした。


「……ええい!? ブレードタイガーは何をして居るか!?」


 怒り故か、アナスタシアの頭からはある程度の事がすっぽ抜けていた。

 それに対して、構成員がチラリと頭を上げる。


「ブレードタイガー様は、今、ここ本部で収容中です」


 部下の声に、アナスタシアは頭を抱えた。


「くっそう!? このままでは!?」

 

 焦りの余り、言葉が若干荒い。

 何とかしようと唸るアナスタシアの肩に、ポンと感触が在った。


「なんだぁ!?」


 思案中に邪魔をされ、益々怒りが止まらないアナスタシア。

 ただ、肩を叩いたで在ろう人物を見て、赤かった顔を青くする。


「あー、お取り込み中すみませんが……」


 気まずい顔の良に、女幹部はサッと膝を着いた。


「申し訳ありません首領! 焦ったとは言え、御無礼を!」

 

 瓦礫をぶつけた時点で失礼も何も無いだろうと、良は思うが、口には出さない。

 ともかくも、跪いた女幹部に目を向けた。


「あー、良ければ……俺、行こうか?」


 首領の声に、場の全員が顔を向けていた。


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