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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
戦慄!虎女!
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戦慄!虎女! その1


 辛くも魔法少女との戦いを収めた篠原良。


 その際、魔法少女を使役する謎の巨悪とも対峙する。 

 だが、良は其処で改造人間としての秘められた力を解き放った。


 壮大なる悪の計画を実行中であろう謎の存在。

 それは、宇宙の闇に霧散した。


 なるべくなら穏便にという首領の思惑通り、被害は少なく済んだ。

 ホッと胸を撫で下ろす良。


 しかし、それは一つの戦いが終わったに過ぎない。


 篠原良の知らない所では、また別の悪の計画が着々と進行していた。

 何故そうなのかと言えば、良はそんな計画が実行中である事を知らなかったのだ。


   *


 往々にして、世の中とは金で物事が運ぶ。 


 神の許しは幾ら喜捨したか、地獄の沙汰も金次第。

 組織の運営にしても、当たり前だが、予算が無くては始まらない。


 其処は、某国の高級ホテル最上階。

 警備は万全だが、色分けがされていた。


 半分は喪服並みに真っ黒な背広姿な警備員。

 対して、もう半分はピチピチタイツの構成員。


 双方は睨み合う形で警備を担当している。

 サングラスとマスクによって、お互いの視線は窺えない。

 ただ、とてもではないが友好的な間には見えないだろう。 


 そして、そんな怪しい者達に警備されている部屋では、秘密結社と悪の組織による商談が着々と進んでいた。


 会の場所は、とある国の超高級ホテルの最上階。

 一般人ではおいそれと泊まれる部屋ではないが、その分、人に聞かれたくない話をするのには最善といえた。


 広い部屋の割には、二人しか居ない。


 大仰なローテーブルを挟んで座る男女。

 男は仕立ての良い背広姿ながらも、恰幅の良さは隠れていない。

 対面に座るのは、淡い色のスーツを纏う妙齢。


「今回は、わざわざこのような場を作って頂きありがとうございます」


 先ずはと、赤く塗られた唇から漏れるのは、猫撫で声。

 それを聞いた対面に座る男は、何とも言えない笑みを浮かべていた。


「いや、此方こそ」


 偉そうにしては居ても、その声には裏が隠し切れて居なかった。

 器用に目玉を動かし、対面の女性を舐める様に観察する。


 男は態度は、お世辞にも宜しくはない。

 だが女性は気にせず微笑を顔にたたえていた。


「実りある会談お陰で、私達も其方も有益と成るでしょう。 では」


 女性は、コレで終わりだとばかりに立ち上がる。

 ソレを見た男は、目を丸くした。


「あ、お、おい! ちょっと待ってくれ!」

「はい? まだ何か?」


 サッサと帰ろうとしてしまう女に、男も立ち上がる。

 

 確かに商談は済ませた。  

 自らの資産の一部を組織へと提供する。

 

 在る意味、どこかの企業への投資の様なモノだろう。

 ただ、男は慈善でそんな事をしたわけではない。


 相手側の組織からも、わざとらしく美しい女を寄越したという時点で、男は別の目的も在った。

 

 訝しむ女へと駆け寄ると、男は細い腕を掴む。


 掴まれた際、女の目が僅かに金色に光った。

 だが欲に溺れた者にはそんな些細なモノは見えては居ない。


「困ります。 私はただ、話をしに来ただけですよ」


 女と一応は組織の使者としての面目も在った。

 これから先も男を利用する以上、あまり無碍にするべきではないと自制する。


 とはいえ、そんな女の都合など、男には関係がない。


 今までの人生に置いて、彼の自由に成らなかった事など無かった。

 他者を蹴り落とし、弱者を踏みつけて来た。

 誰にも見下される事無く、常に上に立つ。


 であれば、高が小娘如きに舐められては沽券に関わる。


「そんなカマトトぶるな。 君だって、わざわざそんなお洒落して此処に来たんだ、ソレくらいの事は分かるだろう?」

  

 男には自分が出資者スポンサーであるという自覚もある。

 そう言うと、男は女へ手を伸ばす。


 今までどれだけの人数を手に掛けたのか、憶えてはない。 

 後々でゴタゴタ文句を云われた所で、全ては金の力でどうにでも成る。

 事実、そうしてきた。


 そして今もまた、男は女を組織からの土産だと信じて疑っていない。

 

 全てを上手くやってきた男だが、一つだけ見落としていた。

 彼は権力という凄まじい力を持っては居る。


「別に小間使いをする必要は無いだろう? どうせなら君だって贅沢がしたいだろうに?」


 余裕から、唇をペロリと舐める男。

 ただソレは、あくまでも軍団を使役するという事に他ならない。 

 男個人だけで云えば、彼は超人でもなかった。


 手が女に届くかどうかという刹那、鋭い音が響く。

 

「ん?」金属が擦れる様な音に、男は鼻を唸らせた。


 欲に濁った目が、在るモノを捉える。

 それは、自分の手から突き出す金属だ。


「は?」


 見ているモノが信じられず、男は焦る。

 目で辿れば、金属は服を突き破り女の体から延びていた。


 商談の時には見せなかった顔。

 

「この、下種ゲスが」 


 女は忌々しげにそう言うと、指先で男を後ろへと押す。

 

 男も勿論倒れまいとするが、身体は云うこと聞いてくれない。

 上等なカーペットが男を受け止めるが、余り意味は無かった。


 思い出したかの様に、鋭い痛みが走る。


「は、ひぃ! 痛い! なんだ!」

  

 何故か動けない事に、男は焦る。

 対して、そうしたであろう犯人の女は、持参のハンカチで身体から伸びる棘を丁寧に拭っていた。


「……あー、汚い、このまま納めたら移るじゃないの」


 伸びる棘が、シャキンという金属音を伴い女の中へと消える。

 服には穴が開いたままだが、女は気にせずハンカチをポイと捨てた。


「なに? ちょっと穴が空いただけでしょ?」

「な、あな? くそ! うう」


 女は未だに正体不明だ。

 男は慌てて部下を呼ぼうとする。

 だが、何をするにしても身体が動かないのでは意味が無い。


 なんとか動こうと足掻く男だが、それは身体揺するだけに等しい。

 見苦しい動きを見せる男の周りを、女はゆったりと回り始めた。


「騒いだって無駄。 あんたがわざわざこんな防音の効いた部屋にしたんでしょ? どうせならもっと安い部屋にしとけば良かったのにね?」


 余裕綽々といった女だが、視線は男から放さない。


「まったくもう……どうしてかなぁ? 商談だけ済ませれば良いはずなのに、わざわざそっちから殺され来るなんてね」


 溜め息吐きながら、女はわざとらしく困り顔を続ける。


「あたしはさ、首領から予算確保を頼まれただけ。 でもね、あんたを殺すな、とも云われてないから」


 女の声に、男はハッとなった。

 痛みは在るが、まだ生き残る機会が見えた気がする。


「か、金か! 金ならやる! 幾らでもだ!」


 なりふり構って居られない。 

 少しずつとは言え、男の身体に穿たれた穴からは血が滴っている。

 このままでは、失血死は免れない

 

 金で命が買えるならばと、男は必死だ。

 その必死さは、女にも届いたらしい。


 訝しむ様な顔から、如何にも事務的な笑みを覗かせる。


「あら、じゃあ、暗証番号とか諸々お願い出来ますぅ? ほら、最近は電子決済なんて便利なモノが出来ますから」


 そう言われた男は、文明の進歩を呪った。

 

 以前の世界に置いては、いちいち銀行に行って手続きを交わし、ああだこうだと面倒くさい手間が必要である。

 が、速度と手間を省く事を選んだ結果、簡単に巨額の金が動く。


 時には、株の取引の僅か数分で全財産を溶かす者も居るほどだ。

 

 恨めしい睨む視線を無視し、女は持参のタブレットを男へと見せる。


「はい、おめめと指の指紋お願いね?」


 角膜認証も、指紋認証も、素晴らしい技術ではある。

 が、単純な暴力の前には意味が無かった。

 

 時間にすれば、30分と経っていない。 

 それでも、凄まじい大金が動く。


 実際には数字に過ぎないのだが、問題ではない。

 タブレットの画面を確認した女は、静かに頷く。


「うん、確かに、毎度あり」


 数字を確認女の声に、男は脂汗をかきながらも息を吐いた。

 自分は助かるのだ、と。


 そんな安堵の息を、女は聞き逃さない。

 金色の瞳が、ジロリと男の方を向いた。


「あんたさ、もしかしたら……助かった、とか思ってる?」


 不意に出された声に、男は目を丸くする。


「ふ、ふざけるな! 金なら渡しただろ!」


 男からすれば、女の声は理不尽にしか聞こえない。


 自分は必要なサービスを受け取る為に代金を支払った。

 であれば、それに応じるのは当然だ、と。

 

 此処で男は忘れているが、女は何らかのサービスを提供する仕事をしていない。

 その証拠に、女の顔は見る見るうちに恐ろしいモノへと変わった。


 威嚇する様な厳めしさは無い。

 その代わりに、物陰から淡々と獲物を狙う虎の様な目線。


「お金は渡した、だから助けろ? じゃあ聞いてあげるけど、あんたが死んで困る人が居るの?」


 質問に対して、男は必死に頭を巡らせる。


「わ、私には家族も居る! 頼む!」

 

 死に物狂いの命乞い。

 

 それに対する女の反応は「ふぅん?」という鼻の唸りであった。

 女はタブレットの画面を男に見える様に近づけた。


「コレに映ってるのはスッゴい数字だよね? でもさ、そんな高が数字を稼ぐ為に、どれだけの人を犠牲にしたの?」

 

 語り掛けながら、女の体に変化が起こった。


 金色の髪と白い肌に黒い縞模様が浮かび上がり、目の輝きが増す。

 着ていた衣服は裂け、一瞬肢体が露わに成るが、直ぐに装甲に覆われた。


 ただの女だと思っていた男は、有り得ない光景に息すらも忘れて見入る。


「ね? 教えてくれない? あんたは散々人を嬲ってぶっ殺して来たんでしょ? で、あんたを殺したらどうなるの?」

 

 今や、人ではなくなった女の姿に、男は怯えた。


「家族が悲しむ? 自分だけは助けろ? それってさ、虫が良すぎない?」


 振り上げられたら腕からは、冷たい水に濡れた様に輝く刃が飛び出す。


 世界を裏から支配している者達は少ない。

 男もその一人だが、単純な刃を避ける術は持ち合わせて居なかった。


   *


 暫く後、堅く閉ざされていた筈のドアが開かれる。

 其処から出て来たのは、シーツを身体に巻いた女一人。

 湯上がりなのか、妙に艶めかしい。


 部屋の前では、ピチピチタイツの構成員が待機していた。


「待たせてごめんなさい。 そっちは?」


 女の柔らかい声に、構成員はビシッとポーズを決める。


「は! 此方も片付けの途中であります!」


 報告する構成員の後ろでは、彼の同僚が黒背広の身体を引きずる。


 構成員の声に、女はウンと頷いた。

 何のことはなく、彼女の正体は悪の組織の幹部であり、篠原良と同じ改造虎だった。


 満足げに頷く女に、別の構成員が駆け寄った。


「ブレードタイガー様! 組織からの連絡です」


 呼ばれた名に、女はハァと息を吐く。


「で、なに?」

「本部のアナスタシア様より、緊急の幹部会が召集されました!」

 

 構成員の声に、女は力無く肩を竦める。


「もう、一仕事終わったばかりなのに。 遊びに行く暇も無いんだから」


 悪を為した、その割には、女の声は実に軽かった。

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