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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
怪奇!魔法少女来襲!
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怪奇!魔法少女来襲! その10


 改造人間に成った以上、力は無尽蔵だと良は思い込んでいた。

 事実としては、空腹を覚えず、渇きも感じない。


 どんな運動をしようとも、全く問題無い筈だった。

 その筈が、身動きもろくに取れずに居る。


「くっそ……なんだ、参ったな」


 何とか起き上がろうとしても、動けない。

 実のところ、不味い事態であった。


 変身こそ解けはしたが、アイの仲間であるイオリとウヅキは其処に居る。

 つまりは、その気になれば動けない良を襲えた。


 ただ、当の少女達はと言えば、ただ困惑する。


 変身云々はともかくも、アイは意識が無い。

 変化しかけたのが幸いか、彼女の体に傷は見えない。

 

 仲間へ駆け寄る二人。


「ちょっと! アイ?」

「身体は、なんとも無いみたいだけど」


 心配そうな声をかき乱す様に、辺りから音が響く。

 少女達の窮地に駆けつけたのは、悪の組織であった。


「よぅし! 包囲した!!」


 響く声を、良は知っていた。

 怪しげな魔法少女の力が失われたからか、組織の構成員達が少女達を取り囲む。


 構成員とは別に、女幹部アナスタシアが良を助け起こす。


「ご無事ですか? 首領」


 本気で心配そうな良は、苦く笑う。 


「んー……動けないだけかな」

「博士に聞きましたところ、バッテリー切れ、だそうです」


 アナスタシアの説明に、良は悩む。

 腹が減ったとか、疲労困憊という事ではなく、バッテリー切れだという。

 つまりは、自分が人間ではない事の証明であった。


「はぁ、参るね」


 上半身だけでも起こされれば、うつ伏せよりも周りが見渡せる。

 そして、良は「お?」と呻いた。


 端から見れば、実に宜しくない光景だろう。 


 怯える女子高生達を、悪の組織が取り囲む。正に、絶体絶命といった状況。 


 とは言え、ソレを良は見過ごしては居ない。


「おーい、皆さん!」


 動けないとしても、声は出せた。

 良の一声に、構成員達はビシッと姿勢を正す。


「「「は! 首領!」」」


 組織の頭目から声が掛けられれば、無視は許されないのだ。


「まぁまぁ、そんなシャチホコ張るなよ。 ソレよりも、其処のお嬢さん達を、丁重に送ってやってくれよ? 夜も遅いし、誰かに襲われたら困るだろ」


 良の一声には、少女達も驚いていた。

 実際の所、篠原良は確かに怪しい組織の首領らしい。


「お嬢さん達も、今日見たこと聞いたことは忘れるんだぜ? お互いにな」


 その首領は、あまり悪党という感じが無かった。


   *


 少女達は構成員達に任せれば良い。

 どちらにしても、変身出来ない少女など害は無いだろう。

  

 そんな彼女達とは別に、良は組織の基地へ戻されていた。


 初めての時同様に、怪しげな台に寝かされている良。

 ただ、今度は改造を受ける訳ではない。


 単なる診察と言えた。


 大の字で仰向けの良は、何とか首を横へと向ける。 

 体の方は未だに自由が利かない。

 

 そんな首領を、白衣を纏う博士が見ていた。

 台の周りには機械が在り、彼女はソレを見ている。

 ピーピーカチカチと喧しい音に、良は辟易していた。


「な、博士?」


 良は軽い気持ちで声を掛けたが、受け取る側は意表を突かれたらしい。


「は、はひ!? しゅりょう!」


 持っていたクリップボードをガタンと落としつつも、博士はビシッと不動の姿勢を取っていた。

 可愛くも見えるが、予想外の反応リアクションに良はフゥと息を吐く。


「あのね、そんなに驚かなくても良いでしょ?」

「は、すみません」

「バッテリー切れって聞いたけど、充電すれば動けるの?」

「はい」


 自分で云っておきながらも、良は呻いた。

 充電と簡単に云うが、その方法がわからない。

 下手をすれば、身体の何処かの穴に電極を刺されるのかと怯える。


「えーでもさ、どうすんだ? まさか……何処かにコード刺すとか?」


 恐る恐る、良は充電の方法を探る。

 対して、博士は首を横へと振った。


「いえ、首領のお身体の中にはフリーエネルギーの炉が搭載されています。 余程のムチャをしない限りは、ほぼ無尽蔵の筈ですよ。 まぁ、いざと云うときは必要でしょうが」


 色々な単語を並べられたが、良はチンプンカンプンである。

 それでも、身体の何処かにブスリと刺されるのは御免であった。


「んー………コードは無しとして、とにかく、寝てりゃ動ける?」

「はい。 今は蓄電を全て放出しただけですので」

「そっか、じゃ、休ませて貰うかな」

「すみません」


 別に博士は詫びる必要は無い。

 見ている分には、彼女は以前の組織の癖が抜けてはいない様だ。


「そんなに謝らなくても良いからさ」

「……でも」


 博士が云い淀む理由は良にも分かった。

 なぜならば、如何に命令されとはいえ、改造人間したのは彼女である。

 が、それは今更であった。


「ん? 首領の命令だぞ?」

 

 からかう良の声に、博士は、何とも言えない顔を覗かせた。

 寂しさや悲しさ、同時に微笑む。


「首領……って、変わってますよね?」

「え? そう?」

「一つだけ、聞いても宜しいですか?」

「あー、はいはい。 でもスリーサイズは測ってないな」


 茶化す事を止めなかったからか、博士の顔からは影が薄れる。

 そうすると、年相応の彼女が見えた。


「どうしてです? 何故、あの子達を助けたんですか?」


 それが誰を指しているのかは、良にも分かる。

 

「どうしてって、云われても、駄目か?」 


 前の組織が、どの様な形態を取っていたのか、それを良は知らなかった。

 悪を自称しては居るが、活動内容は芳しくはない。 

 どれもこれも、世界征服を成し遂げる内容ではなかった。

 

 だが、今の組織の長は良である。


 目的地は見えては居るが、道筋すら見えていない。

 在る意味では、五里霧中というものだろう。


「俺はさ、皆の前で世界平和って云っちゃったじゃん?」

「はい、そうですね」 

 

 頷く博士に、良は天井を見上げた。 

 

「でもさ、平和にするっても、まだまだぜーんぜん何にも決まってないのよね」

  

 元々首領としての自覚など良にはない。

 女幹部はそれに困っていたが、博士はそうでもなかった。


 彼女はどちらかかと云えば、余り外に関わる部署ではない。

 あくまでも、上からの指示で動くだけ。

 

 その筈だっだが、良が来てからと云うもの、変わっていた。

 一方的な指示はなく、寧ろ助ける事もある。

 それは、博士に取っては新鮮な感覚と言えた。


「だからさ、とりあえず知り合いの女の子ぐらいなら、助けてあげたかったんだよ」

  

 悪党とは思えない良の人の良さ。

 間近で見ている博士は、自ずと笑っていた。


「良いと思います、それで」


 以前ならば、意見をしようとしたところで却下された。

 それどころか、勝手な意見は言語道断である。

 だが、今の首領は口を挟んだ所で怒る様子はない。


「頑張ってください、首領」


 何故だか、博士は良を応援したくなる。

 怖い支配者ではなく、ついて行くべき指導者を称えていた。


 誉められて良も悪い気はしない。

 同時に、ふと在ることを思い出す。


「あ、そう言えばさ、俺なんかよくわかんねーのぶっ飛ばしたじゃん? アレ、なんだ?」


 良は、確かに怪しげな何かを吹き飛ばした。  

 本人からすれば、手を打ち鳴らしただけでもある。


 問われた博士は、うーんと唸る。


「なんとお伝えすれば良いのか……以前の首領がまだ居た時です。 その時に、在るモノを埋め込め、と」


 以前の首領を良はろくに知らない。

 なんだかわからないが、偉そうだという感想しか覚えては居なかった。


「ふぅん、まぁ、それも俺がぶっ飛ばしちゃったんだよね」


 やはりと云うべきか、前首領もまた、図らずも良が打ち倒していた。

 

「まま博士、それは置いておいてさ、結局は何を埋め込んだんだ?」

  

 何にせよ、訳の分からないモノを身体の中に在るのは釈然としない。

 説明を求める良に、博士は苦く笑った。


「あの、ですね……なんと云えばよいのか」


 しどろもどろの答え。 ソレには良も悪寒が走る。


「ま、まさか……また分からないんじゃ?」


 狼狽える良に、博士は「すみません、そのまさかです」と詫びた。  


 博士の声に、良は息を吐く。

 どうせならあれやこれやと指示を出したで在ろう首領を問い詰めたくもある。


 しかしながら、その首領は、良が既に倒してしまっていた。


   *


 後日、良は在る場所来ていた。

 其処は以前に訪れたファミリーレストランである。


 本来食事を必要としない改造人間には用の無い場所なのだが、呼び出しが在れば別だ。


「うーん、まだかな?」


 自前の腕時計を見ながら、良は呻く。

 一応連絡にて約束は在るが、本当に相手が来るのかは半信半疑であった。


 それでも背後に気配を感じた良はハッと振り向く。


「あ、えーと」

「……こんにちは」


 気まずい再会。 良を呼び出したのは、制服姿の川村愛であった。 


「と、とりあえず、立ち話もなんだから」

「はい」


 良の声に、愛は神妙な面持ちのまま、静かに頷いた。 


 特に言葉を交わすことなく、二人は前と同じ席へ座る。

 以前にも、同じ様な席を共にしたのだが、今回は空気が違う。


 一旦は川村愛と敵対してしまった。

 最も、良にはその気は無く、寧ろ知人の無事を安堵すらして居る。


 怨敵にして、命の恩人である改造人間。 

 そんな青年に少女は何とも言えない顔を浮かべていた。


 困っている様でもあるが、同時に安心している様な複雑な顔。


 何とも言えない顔を見せる少女に、良は、手持ち無沙汰に店員を呼んでいた。

 暫く後、店員が来てくれる。


「はい、お決まりですか?」

「あ、はいはい、えーと……俺はホットコーヒーで、川村さんは?」 


 数秒間、何かを考え込む愛だが、ふと顔を上げた。


「……紅茶をお願いします」

  

 以前の彼女とは違い、今の彼女はヤケに頼りなかった。


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