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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
怪奇!魔法少女来襲!
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怪奇!魔法少女来襲! その8


 魔法少女達は、ケロッとしている悪の改造人間に面食らっていた。


 一応、衣服などには埃などが付着し、汚れは見える。

 が、それは損傷と呼ぶには程遠かった。


 衣服に付いた砂ぼこりを叩き落としつつ、良は顔をしかめる。


「あーあ、風呂入らないと、後は洗濯もか」


 少女達の渾身の技を受けた割には、どこ吹く風の良。

 痛い痛くないの云々以前に、傷一つ負っては居ない。


 その様に、赤のイオリと黄のウヅキが怖じ気が湧いた。


「嘘……そんな?」

「なに、アレ? どうなってんの?」


 如何なる怪物ですら、少女達は力を合わせて打ち倒した。

 にも関わらず、丸腰の青年一人が倒せない。


 その事実は、少女達を肝胆から震えさせた。

【勝てない】という事は、恐怖を生む。

 逃げ出したくなる心の震えに、ただ一人、アイがギッと歯を軋ませた。


 強く閉じられていた筈の口が、カッと開く。


「当たってなかっただけでしょうが!」

 

 都合の良い解釈をして、自分を鼓舞する。

 確実に当たった筈だが、敢えて攻撃が外れた事にしてしまう。

 事実として、無傷青年の周りは抉られた様に穿たれていた。


 怒る少女に、良は寂しげな顔を見せる。


「お、おいおい……もう良いだろ?」


 相も変わらず戦おうとしない良に、アイの瞳が窄む。

 地面を凹ます程の勢いで、青い少女は前へと飛び出した。


 自分に突進して来る少女に、良は悩んだ。


 彼女が如何に異能を振るおうが、それは問題ではない。

 問題なのは、理不尽な敵意を向けられる事だった。 

 特に怨まれたり、殴られる謂われは無い。

 二人は、食事をして笑いあった筈だ。


 にも関わらず、憤る少女は良へ襲い掛かっていた。


「うああ!!」


 技の名前など云わず、喉が裂けんばかりに叫ぶ。


 そうすれば、アイの意志に魔法が呼応した。

 全身の周りを光球が覆い、それは標的目掛けて飛ぶ。


 光の弾は、まるで一つ一つが意志を持つかの様に良へ向かうのだが、そのどれが当たっても、意味が無い。

 当たって居るように見えはするのだが、実際には霧散していた。

 

 その様に、アイは益々憤る。


「なんで!? まだまだ!!」


 自分を鼓舞し、更なる技を繰り出す。 が、意味は無い。


 あれやこれやと様々な魔法が良へ向かう。

 何処から出したのか大量の刃物を模した光の矢。

 極太の光の大砲。 全方位から襲い来る光弾。

 

 その一つ一つは、確かに過去には少女に勝利を齎した筈だ。


 それでも、効果が無い。


 飛び道具では駄目だと悟ったからか、アイは間合いを詰める。


 怒りに身を任せる少女が握れば、頼りない杖は武器へと変わる。

 一瞬にして、小振りな杖は光り輝く10メートルは在ろうかという剣へ変わった。


「ぃい、やあぁ!」


 肺から空気を吐き出す気合い。 それに伴い、大振りな剣が振られる。


 が、良は動かない。

 相手が如何に派手な技を用いた所で、それが【魔法の力】である以上何の意味も無いと既に知っていた。


 その証拠に、振られた筈の剣は良に食い込むどころか、当たった場所から散っていく。

 

 振り抜いた形ではあるが、意味は無い。

 削り飛ばされた剣先にしても、粒子として散っていく。


 有り得ない光景に、少女の顔には驚愕が浮かんだ。


「な、なんで!? どうして!?」

「無駄だってわかったろ? もう止めろって」


 相も変わらず優しい声を投げ掛ける良に、アイは悔しげに顔を歪ませた。 

 少女とは言え、彼女の中にも自負はある。


 今までも、化け物と対峙しても逃げ出さず、倒して来た。

 

 その自負が、アイに【逃げる】という事を許さない。


「うぅ、うぁああ!!」


 追い詰められた時、生き物は二つの反応を示す。


 命惜しさに逃げ出すのか、死に物狂いで反抗に打って出るか。

 アイは後者であった。 


 今までの勝利を、彼女は手放せなかった。


 武器が通じないとわかったからか、杖を放り出し、殴り掛かる。

 もはや魔法少女である自覚など無い。


 ただ、自分の中の何かを護らんと挑む。


 繰り出された小さな拳を、良は避けなかった。

 少女の拳が青年の頬を強く叩き、ベチッと音が響く。


「……いって」


 アイに叩かれた良は、初めて呻いた。

 実際には、咄嗟に出た反応でしかない。


 痛みなど対したモノではないのだ。

 ただ、本来ならば友人とも思える者に殴られる。

 それが、良の心に、痛みを与えていた。


「当たった!?」

 

 それでも、少女の顔に歪んだ笑みが浮かぶ。

 当たらなかった攻撃が、遂には通ったのだ、と。


「やぁ!」


 掛け声というよりも、叫びに等しい声。

 それと共に、アイは両手と両足を繰り出す。

 

 全く通じなかった筈の化け物に、勝機を見出す。

 しかしながら、それは正しくない。


 確かに、当たっては居る。 当たる度にピシパシと軽い音も響く。

 が、痛みが無ければそれはダメージとは呼べないだろう。

 

 見知った筈の少女から、一方的に殴り、蹴られる。

 如何に効かないとしても、良は辛かった。


「……そりゃあないぜ」


 友達だと思えた人が、自分へ襲い掛かってくる。

 その恐怖に、良は思わず手で払うことしてしまった。

  

 繰り出された右の拳を、左手で払い、更に左の追撃も、同じく払う。

 少女が顔を狙った蹴りも、右手で払う。


 良の一連の動作は、あたかも何かの演舞の様であった。

 そしてそれは、偶然にも良の身体を起こす。


「お?」急に、青年の全身が発光した。 

 

 目を眩ませる程ではないが、相手を怯ませるには十分。

 アイが一歩引いた時、良は図らずも変身を行っていたのだ。


「おっと? お、おお!?」


 全身が裂ける様な感覚と共に、青年は変わっていく。


 両腕両脚から湧き出す様に装甲に覆われ、胴体が一瞬にして変わる。

 最後に、良の顔を覆い隠すかの様に、変身が完了した。


『あ? あれ? 出来たぞ?』


 変身が完了した途端、当の本人ですら驚く。

 

 そして勿論、対峙する少女達にも、それは見えていた。

 中でも、一番驚いたのはアイだろう。

 

 ただの作業服姿の青年が、全く違う異様へと変貌したのだ。

 爬虫類を想わせる意匠の兜に、鱗の鎧を纏った様な全身。


 それは、少女が想像していた華々しい姿ではない。

 例えるならば、毒々しい大蛇であった。


「そんな……」

 

 ようやく攻撃が通ったと思った少女は、絶望感に浸る。

 殴り蹴りが通じると思い込んだのだが、事実は違っていた。


 良を殴って居た拳は痺れ、痛みを訴える。

 足にしても、骨が悲鳴をあげていた。


【これ以上は無理だ】と。


 攻めていた筈の少女の方が、正に疲労困憊である。

 魔法少女に成って以来、疲れたと思った事がない。


 急に身体の疲労を思い出した少女は、震えた。

 

 震えるアイを、異様な兜が見下ろす。


 元々の禍々しい見た目もさることながら、何よりも恐ろしいのは、兜から覗く赤い光だろう。

 二つのそれは、毒蛇の目と云っても相応しい。


 傷を負った少女を怯えさせるには、十分だった。


 が、実際には改造人間ですら困っている。

 如何に凶悪な外見に変身したとはいえ、中身は良のままなのだ。


【どうしたもんなかなぁ?】


 そんな事を良が悩むと、ザリザリと耳の中が鳴った。

 

『首領! 変身出来たんですか!?』聞き覚えの在る声。


『ん? 博士か?』


 何かの機器を用いた訳でもないのに、博士の声は聞こえてくる。

  

『はい! 首領が変身したことによって、様々な機能が使用可能オンラインに成りました! この通信もその一つですね!』


 顔は見えないが、博士の声は弾んでいた。

 どうやら、興奮しているらしい。


 だが、良はそうも悠長にして居られない事情が在った。

 まだ少女は前に居るからだ。


『博士、用なら手短に頼むよ。 まだ終わってないんだ』

 

 良の声に、通信の向こうからドタバタと音がした。

 見えては居ないが、相当に慌てているらしい。


『あ、そうですね! ともかくも、首領のお力全てが使えます!』


 弾む声に、良の内心も弾んだ。

 変身したのは初めてながらも、心なしか力が湧いてくる気がする。


『そりゃあ凄い、で、何が出来るんだ?』

『いえ、ですから、安全装置が解除されたので、今まで以上の力が出せます!』

 

 荒い鼻息まで聞こえて来るような声。 

 

 ただし、それを吟味する限り【力が出ます】としか云われていない。

 つまりは、手から光線出せるとも、異様に伸びますとも、身体の何処からか武器が飛び出しますとは云われていないのだ。


『それってさ、もしかしたら……ほんとに力が出るだけかな?』

『えぇと、そうですが?』


 何を当たり前の事を、そう言わんばかりの博士。

 それに対して、異様な兜が力が抜けたかの様に地面を向いた。


『なんだよぅ、それじゃあ前と変わんねーだろう?』


 特に目新しい必殺技も無い事に気付いたからか、良は愚痴る。

 それは、周りにも響いた。

 如何にもやる気の無い怪人に、アイはハッと成る。

 

 視線が反れた、それはそのまま、相手の隙を現す。


「……今だ!」


 相手の隙に乗じて、魔法少女が飛び出す。 その勢いは速い。

 如何に変身したとは言え、不意を突かれた良。


 少女の拳が、強かに怪人の兜を捉えた。

 小さくだが、確実にグシャリという音が鳴る。


 それは、兜が凹んだ音ではない。

 高速にて、硬いものを殴ってしまった少女の拳が上げた悲鳴だ。


「……え?」


 殴った当の本人ですら、信じられないという顔を浮かべる。

 勿論、殴られた本人ですら、慌てた。

 

 男のそれに比べても柔い拳は裂け、骨が砕けた。

 本来ならば、魔法に護られている筈の手も、それが機能しなければ意味が無い。 


 僅かの時間の後、猛烈な痛みが少女を襲う。


 攻めている側の少女の口からは、悲鳴が上がった。

 痛みとは、体の発する悲鳴でもある。


 つまりは、言葉で【痛い】と言える段階ではそれはまだ余裕と言えた。


 それを超えたならば、もはやそんな余裕は消し飛ぶ。

 痛みを訴える様に、アイは折れた拳を守る様に抱え、呻いた。


「ぃ……ぎぃ……」

『お、おい?』


 一方的に殴られたとは言え、良に痛みは無い。

 寧ろ、痛がる少女の姿に、胸の内が苦しく感じる。

 

 装甲に覆われた手を、良は思わず知人の少女へと延ばしていた。

 何か危害を加えたい訳ではない。


 激痛に苦しむ知人の少女を案じただけだ。 


 それと同時に、激痛に苛まれる少女も、在ることを想っていた。


 裏切られた事への復讐を果たすべく、戦いを挑んだ。

 だが、全ては徒労である。

 精々が地面を抉り、木を削いだと、自然破壊しかして居ない。 

 其処までしても、相手の改造人間には傷一つ負わせられなかった。


【自分は無力なのか?】


 絶望感が、少女の中を占め始める。

 そんなアイは、自身へ近付く気配を感じ取っていた。


 ズシャリと、重い足が地面を踏み締める。

 見える足に、少女が恐る恐る顔を上げた。


 すると、暗い中でも鈍く光る赤い光と目が合う。

  

 痛みも在るが、見える恐ろしさには、アイの歯がカチカチと鳴った。

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