凶悪!! 惑星滅菌計画!! その7
組織の頭脳である、通称博士。 本名は高橋リサ。
そんな彼女だが、元々の性格故か、常に一歩引く性格と言えた。
もしも、自分が先頭に立ちそうなら、敢えて其処から一歩下がる。
それであれば、他の誰かが前にでる事に成るからだ。
そんな臆病な少女に、女は【君がやれ】と言う。
「いや、だったら、良さん呼んで来ますけど?」
慌てたからか、博士の声は早口であり、尚且つ震えが混じっていた。
何をするにせよ、自ら主役を張るという事の経験が無い。
そんな博士の声に、女は首を横へと振った。
『高橋リサ。 聴いて居なかったのか? 私でも無理だが、恐らくは篠原良でも結果は変わらないと想うぞ?』
踏ん切りが付かない少女の腕に嵌まる腕輪を、女は指差す。
『君が身に着けているソレも、人間だからこそ動かせたんだろう?』
そう指摘された博士は、チラリと腕の輪を見た。
見た目の割には着け心地は悪くなく、寧ろしっくりとすら感じる。
事実、博士はその腕輪に助けられていた。
が、いきなり性格を変えろと云われても、それはおいそれと変えられるモノではない。
「だったら……他の人を」
『時間が無いんだ。 それに、君以外に機械が得意な者は居るのか?』
女の声は、組織を良く知っているからこそのソレであった。
部外者とは本来、内情を知らない筈である。
ましてや、悪の組織に詳しいという事も自体問題だろう。
だが、事この場に置いては、誰もそんな小さな事を気に掛けて居なかった。
怖じ気づく友人の背を、愛がバチンと少し強めに叩く。
活を入れる様に。
「ほぉら、女は度胸ってね。 大丈夫だよ、私も居るし」
そんな友人の声に、博士はグッと息を吸い込んだ。
今までも、可能な限り前に出る事は避けていた。
それでも、今はそんな贅沢を言える時ではない事も理解出来る。
自分がやらねば、誰がやるんだ、と。
博士はそんな声が聞こえた気がした。
今までの高橋リサには、女幹部アナスタシアの様な凛々しさや、虎女カンナの様な勇猛果敢さも無かった。
だが、新たな首領と過ごす内に、僅かずつとはいえ変わりつつ在る。
意を決した博士は、カッと目を開くと、掛けている眼鏡をクイと上げた。
「大丈夫です! 何せこの私、高橋リサ! 悪の組織の博士ですから!」
一体全体誰に対してそう宣言して居るのか、それは博士にしかわからない。
しかし、決意を秘めた声に嘘は無いらしく、その足取りは意外な程に強い。
そんな少女の意を受けてか、女は壁の一部を指差した。
『では、高橋リサ。 この辺りに手を当ててくれ』
女の声に、博士は目を凝らす。
よくよく見てみれば、壁には窪みが在った。
それは、人の手の形にも似ているが、少し違う。
何と、壁の窪みの手には、指が三本しかなかった。
人の手の如く、親指、人差し指、中指、薬指、小指と五本ではない。
親指の大きさは人のそれと大差は無いが、他の二本の指は、指を同士をくっつけた様に太く見える。
それだけを見ても分かる事もあった。
今博士達が居るロボットにせよ、身に着けている腕輪にせよ、ソレを造ったのは人間ではないのだ、と。
が、造った何者かがどの様な意図を持ってそうしたのかを問う事は出来ない。
それでも、誰かが残してくれたという事を理解し、博士は窪みへと手を押し当てた。
窪みの周りが、僅かに光る。
それは目が眩む様な強い光ではなく、ホタルの様な淡い光であった。
「えっと、あの……わ!?」
光るだけなのか、そう尋ねようとした所、壁の一部が開く。
開けた其処には、変てこな台が見えた。
単なる台座でもなく、何かを置ける様になっている。
「あの、これ」
博士が台を指さすと、女が頷く。
『うん。 見た目がどうであれ、ソレがいわゆる差込口という所だろう。 無論、あくまでも仮説だがね』
女の説明に、博士は持参したモノを用意する。
ソレは、首領専用マシーンから取り外した部品。
頭脳とも呼べる部位であった。
何の説明も無い以上、どの様な置き方をすれば良いのかもわからない。
それでも、博士は手の中のソレを見る。
淡く光る球体は、まるで命が残っている様にも見えた。
「お願い……皆の、良さんの為に」
外部入力を絶たれている以上、マシンに博士の声は届いて居ないかも知れない。
それでも、意志を預けるつもりでそう言った。
スッと手を伸ばし、台座へとマシンの頭脳を置く。
置いた時点では、何も起こらない。
が、博士が腕を引いた途端、反応が在った。
台座から何やらツタの様なモノが這い出し、部位を覆ってしまう。
ただ、如何に包まれたとしても、その中の光は失せなかった。
それどころか、輝きは強さを増していく。
開いた壁が一気に閉じられ、操縦室の中にまで灯りが点った。
*
博士と愛、そして女が居る場所からはロボットの全景は見えない。
が、外に居る者達は別だ。
巨大な身体が一瞬震え、ロボットの目がギンと輝く。
何と、今まで無駄な置物としか見えなかったソレが、動き始めていた。
そうなれば、外で作業中の組織の面々は面食らう。
バタバタとロボットから離れ、誰もが巨人を見ていた。
「なんだなんだ! どうしたってんだ!? 何事だ!?」
いきなり騒ぎに成れば、作業中でも気付く。
それは、新たな食事の仕込み中の良も例外ではない。
片手に大きなしゃもじを持ったまま、駆けつけた首領。
良が見たのは、急に動き始めてしまったロボットである。
「おー、ホントに動くのか……って」
良が息を飲んだが、ソレには理由が在った。
ロボットが急に腕を上げると、それを見ている様な仕草を取る。
まるで、いきなり誰かが入り込んだ様な動きであった。
─なに!? どうなってるんですかぁ!! コレ!?─
巨人の口の辺りからは、増幅された博士の声が漏れていた。
武骨なロボットが、少女の声で喋るというのも不自然だが、それ以上におかしいのは、その所作に在る。
所謂、機械機械とした動きは無く、寧ろ、急に博士が巨大化した様な印象。
ロボットを見ている誰もが、そんな事を感じていた。
そんな空気の中、巨大な顔が足元の良を捉える。
実に滑らかな動きではあるが、威圧感は凄まじい。
─あ! 良さん! 私! どうしちゃったんですか!?─
見た目こそ【アレ】だが、どうやら中身が博士なのは伝わってくる。
奇妙な話だが、巨人は本気で困っているのだろう。
「どうなってるってさ……そら、俺が聞きたいよ」
とりあえずと、腰に手を当て良はそう言う。
当たり前の話だが、如何に組織の首領とは言え、巨人にどうしろと問われた所で答えようが無い。
「一応、博士……なんだよな?」確認を込めて良が尋ねる。
すると、ロボットはグインと音を立てて頭を動かした。
動きから察すると、頷いて居るらしい。
─そうですよ? なんか、変ですけど─
最も、巨人の顔は固定されているのか、無表情のままである。
そんな顔に見られて居ると想うと、威圧感を感じるが、ソレから博士の声が漏れているというのも、異様であった。
「あー、なんだ、とりあえずは、動かせたって事で良いんだろ?」
良の声は、ロボットにも聞こえているらしい。
問われたからか、巨人は自分を確認する様に動き出す。
─動かせたって云うか、動いてるって云うか─
本人からすれば、見えている手足を確認しただけなのだろう。
が、博士にそんなつもりが無くとも、ロボットの肘が基地の壁にめり込んだ。
それは、基地全体が揺れる程の衝撃であった。
当人がいつもの体の大きさのつもりであっても、巨大化して居るとなると話は違う。
数センチのつもりが、数メートル単位まで拡大される。
─あ! やば!─
肘に何かが当たった、という事はわかったのか、ロボットは更に動く。
グンと腕を動かし、壁から肘を離したまでは良かった。
ただ、その勢いのままに今度は拳の先が壁に当たる。
グワッシャンという派手な音を立てて、壁から破片が散った。
そうなると、足元の者達にとってはたまらない。
何せ巨人からすれば小石でも、下の者達にとっては瓦礫である。
「た、退避ぃ! 全員避難しろ!?」
バタバタと走る構成員を逃がしつつ、下に陣取るアナスタシアが目を剥いた。
幹部として、部下の危機と在っては黙って居る訳には行かない。
「くぉらぁ!? 博士、きさまぁ! 我々を殺す気かぁ!?」
女幹部に続く様、虎女も怒りを隠さない。
「ちょっとコラ!? いい加減にしなよ!? あんた、後で承知しないからね!?」
虎女からしても、味方に殺されたとあっては困る。
二人の幹部から響く怒声に、巨大な顔が其方を窺った。
僅かに漏れ出る音からすると、呻いて居るらしい。
─うぅ……いえ、決してその様なつもりは、無いんですけど─
博士からしても、悪気は無いのだろう。
ただ、急に巨大な身体と力を持ってしまい、戸惑いを隠せないのは伝わる。
そんなロボットへと駆け寄る良は、両手を口に添えた。
「そっちに誰か居るんだろ! なんとかしてくれ! このままじゃ俺達が伸しイカに成っちまう!!」
厳密に言えば、中身は見えていない。
それでも、良は居るであろう者へと声を掛けていた。
*
外で良が叫ぶ中。
ロボットの送受室では、博士がハッと成る。
「え? あれ?」
体を動かさない様、なるべく目だけを動かす。
すると、博士の視界は自分のモノへと戻って居た。
チラリと窺うと、愛と女がなんとも言えない顔で博士を見ている。
「あの、もう、動いても大丈夫でしょうか……」
先程までの所行を考えると、下手に動こうとは思えない博士。
そんな問いに、先ずはと愛が口を開いた。
「びっくりしたよ、ホントに……急にグイグイ動くんだもん」
ロボットを動かして居た間、博士の目線は自分のモノではなく、ロボットのソレを介したモノであった。
目だけでなく、耳や手足までも。
が、今違う。
変な体勢のままで固まる博士に、女が苦く笑った。
『とりあえずは、成功……かな?』
「勘弁してよ。 降りたら、怒られるよぉ?」
冗談のつもりなのだろうが、愛と博士には笑えない話である。
下手をすれば、組織の者達に被害が出ていたのだから。
ただ、博士がロボットに宿したモノは、煌々と其処で光っていた。
まるで、主の無事を安堵している様に。




