凶悪!! 惑星滅菌計画!! その5
悪の組織が一致団結し、一丸となって作業を進める。
結果から言えば、その成果は目覚ましモノがあった。
のらりくらりと仕事をすれば、何日必要に成るかわからない所を、凄まじい速度でこなしていく。
とは言え、改造人間はともかくも、生身の構成員達はそうも行かない。
頑張ればそれだけ燃料を消費してしまう。
こうなると、本人の意志とは別に腹の虫がグゥと鳴き出していた。
「おっと」
1人の構成員が、慌てて腹を抑える。
皆が踏ん張って居るのに、自分だけ弱音を吐けない。
が、其処はソレ、まるで連鎖反応が如く、誰もが疲労や空腹を感じ出していた頃。
「ん? 何か、匂いが……」
また別の構成員が、何かに気づく。
金属臭や製材が放つ臭いとは違う、そそられる匂い。
こうなると、誰もが其方へ足が向いてしまった。
ぞろぞろと集まる構成員達だが、彼等は目を疑う。
「あ、いらっしゃーい!」「いらっしゃいませー!」
傍目には、何処からか紛れ込んだらしい屋台に見えなくもない。
それを運営するのは、組織の首領と客分の魔法少女であった。
悪の組織の頭目が、オタマを片手に構えている姿。
その隣では、何処から仕入れたのか三角巾を頭に巻き付ける少女。
それは、構成員達にとってみれば正に奇っ怪な光景であった。
「し、首領! どうされました!」
余りの出来事に、1人の構成員がたまらず信じられないという声を漏らす。
それに対して、良はと言えば大鍋の蓋をカパッと取っていた。
蓋が取られた途端に、もうもうと上がるのは味噌の香りを纏う湯気である。
「どうって云われてもなぁ、いやほら、一応はさ、レトルトとかレーション? みたいのも在ったんだけど、どうせなら、暖かいモノが良いかなって」
首領なりの気配りなのだが、実のところ構成員達にしてみれば複雑である。
組織の長が、わざわざ部下の為に食事を用意するという事自体、異例である事は明白であった。
驚きに動けない構成員達を見て、良の隣に立つ少女は口に手を添える。
「あ、すみませーん! 並んでくださーい!」
そうした経験は無いが、愛はアルバイトの店員さんの如く声を発した。
統率力に優れる構成員達は、愛の指示に自ずと列を成す。
先ずはとばかりに、最初の1人に大きめな紙コップに注がれた豚汁と、握り飯が支給された。
握り飯の大きさが不揃いなのはご愛嬌だろう。
「ど、どうも……」
まさか首領から食事が提供されるとは思って居ない構成員からすると、どう反応すれば良いかに困るものである。
対して、屋台の大将風の良は苦く笑った。
「まぁ、とにかく、次のひとー」
そうして、構成員達に食事が振る舞われたのだった。
少し後。
各々が休憩がてら食事を取り始める構成員達。
頭を覆うマスクを取り去り、食べ始める。
戦闘による緊張と、苦労続きに休み無しで動き回っていた彼等にとってみれば、暖かい食事は何よりもご馳走に思えた。
例えソレが、豚汁と握り飯だけだとしても、ソレが豪華なのかを問う野暮な者はこの場には居ない。
早速とばかりに、握り飯にかぶりつく。
強めの塩が、飯の甘さをより強く感じさせてくれる。
疲労した身体にとって、塩は有り難くもあった。
グイグイと飯を噛み締めた所へ、熱い汁を口に含めば、鼻に抜けるのは懐かしい香り。
豚肉、ゴボウ、ジャガイモ、ニンジン、ダイコン。
スープの中に溶け込んだ素材の栄養が、口に染み渡る様な感覚。
久し振りマトモな食事が喉を通り抜けていく。
その感覚に、構成員は思わずハァと息を吐いていた。
誰もが、言葉を失いホッと出来る瞬間。
そんな構成員達に、遠くから声が掛かる。
「お代わりも在りますから~!」
その声に誰もが反応したのは云うまでもなかった。
*
たっぷり用意したと思って居た良だが、意外な程に減りは速い。
余るかと思ったが、途中から怪人達迄もが貰いに来たからか、残量はあまり潤沢とは言えなかった。
鍋の中を見て、愛が目を丸くする。
「わぁ、私の分在るかなぁ」
人一倍大食漢な少女からすると、自分の分を確保していなかったのは失敗であった。
「大丈夫だよ」
そう言うと、良は二人分の用意を始める。
そんな良の行動に、愛も一息つけるかと考える。
が、差し出されたのは二人分の食事が乗ったトレイであった。
「えーと?」
「上の方に居るから気付いてないんだろうけどさ、悪いけど、持って行ってやってくれないか?」
そう言うと、良は上を指差す。
指差す先は、巨大ロボットの胸の辺りであった。
良が云わんとして居る事を察した愛は、渋々トレイを受け取る。
「もう、女の子使い走りにするんですかぁ?」
露骨にムスッとする少女に、良は苦く笑った。
「悪いとは分かってるけど、次の分の支度も在るからさ」
良からしても、調理の苦手な愛に下拵えをしろとは言い辛い。
で在れば、出来る事を頼んで居る。
「はぁーい、了解で~す」
少女のソレは、如何にも仕方ないという返事であった。
*
目まぐるしい作業の中、ロボットの中枢部を担当するのは、二人。
博士と、未だに名乗ろうとしない女であった。
ロボットの操縦席と思しき其処は、実際には未知の場所だろう。
普通の操縦席ともなれば、あちらこちらに様々な計器が並び、機体を操作する為のスイッチで溢れている筈だ。
が、この操縦席はと言えば、寧ろ何も無い。
強いて在るのは、立ったまま使う机の様なモノが五つだけだ。
とてもではないが、【コクピット】とは言えない。
そんな中で、博士は機器を通して調べを進める。
「一応、通電はしてるみたいです」
そんな博士の声に、女も頷いた。
『うん。 後は、何とか動いてくれる事を祈ろう』
女がポンと出した声に、博士は振り向く。
「でも、コレでホントに操縦席なんですか?」
技術屋である博士からすると、今見えている場所が操縦席とは思えない。
何せ、レバーの一つも無いのだ。
何処かにボタンやらスイッチの類いの一つも見えない。
それを不穏に思う少女に、女は笑う。
『君の疑問も最もだろう。 今時の自動車でさえ、運転席の周りにはアレコレと色々ある』
「でも、何も無いですのね? ここは」
博士の素朴な疑問に、女は苦く笑った。
『この手の場所は操縦席の筈。 なのになぜ何も無いのか、それは実は簡単なんだ』
「どういう意味です?」
頭脳で組織に仕えていた博士からすると、わからない事をそのままにはして置けない。
出来る事なら理解したい。
問われた女は、博士に優しく微笑む。
『コレは、友からの受け売りだがね。 言葉は悪いが、馬鹿でも操縦出来る様にしてあるのさ』
見た目の割にはざっくばらんなのか、砕けた意見を女は述べた。
それを聴いた博士は、直ぐに意味を悟る。
世界に置いて、乗り物と呼ばれるモノは数多く在る。
地上を走るモノ、海の上や下を進むモノ、空を飛ぶモノ。
荷物や人を運び、時には何かを壊す。
種類や用途は多岐に渡るが、それら全てに操作が必要だった。
機械にどの様な動作をさせるのかにせよ、複雑で在ることに変わりはない。
おいそれと操縦する事は難しい。
だからこそ、自動車やバイクにも免許が必要なのだ。
それらに対して、博士が弄っているロボットにはソレが無い。
何かを動かすスイッチや、何処かを操作するハンドルの類いは一切か排除されていた。
モノは違うが、ふと博士が思い付いたのは【竹馬】である。
一切合切の操作全てが、操縦士の体に委ねられる。
ああでもないこうでもないという、難しい理屈は削ぎ落とされて無い。
要すれば、感覚さえ掴めば動かせる仕組みなのだ、と。
「では、このロボットは……鎧の様なモノだと?」
博士の率直な意見に、女な目を丸くしながらも頷く。
『流石は高橋リサ。 全くもってその通りだよ。 ロボットと考えると、あれやこれやの操作が要るが、鎧は違う』
そう言うと、女は片腕を持ち上げると曲げて見せた。
肩から伸びる細い腕は、滑らかに動く。
『着ている者に逆らわず、されるがままに付いて来る。 その通りだろう』
そんな声に、博士は女がまるで見えない鎧を纏っている様に見えていた。
ただ、ふと博士は何かに気付く。
「あの、ところで……」
『うん? なんだ』
「何処かで、会ったこと在りません?」
博士の問いに、女は目を細めた。 答えを口に出すならば【YES】である。
が、その事を博士は知らない。
『会っては居ただろう? アナスタシアの世話も、君には手伝って貰っている』
「いえ、ソレもですが、もっと前ですよ。 なんて云うか、ずっと……むかし?」
体感的に、そんな気がするだけなのだが、その理由がわからない。
よくよく知らない筈なのに、よくよく知っているという違和感。
「何処かで、会ってますよね?」そう言いながら、首を傾げる博士。
答えを渋る女。 そんな彼女へ、博士が更に声を掛けようとする。
其処へと、別の者が入り込んで来た。
「はーい、出前をお持ちしましたー」
そう言う愛に、博士と女の目が向けられる。
一気に四つの目が向いたからか、愛の目も泳いだ。
「あれ? もしかしたら、お邪魔でした?」
気まずそうな愛の声に、女は軽く笑うも首を横へ振る。
在る意味、急な食事の出前は、女に取っても渡りに船と言えた。
『いや、そんな事はないよ川村愛。 高橋リサに振る舞ってやってくれ』
「はーい」
若干機械的な印象を受ける声だが、ソレを深く考えない愛は、博士に持参したトレイを見せる。
「はいリサ。 篠原さんから持ってけって云われたから」
「良さんから……ありがと」
篠原という一点に注目する博士に、愛は笑う。
但し、少女の目は笑っては居ない。
「あのね、私も手伝ってるからね?」
「えぇ、わかってますよ? どうかしましたか?」
具体的に何かを言い合っている訳ではない二人。
そんな少女達に、女はやれやれと肩を竦めていた。




