消える日常7
お兄さんの悲痛な声が聞こえてきた時、目から涙がこぼれました。
でも、泣いている場合ではありません。すぐに気を持ち直し、再び役目に集中します。
無事であることを、ただただ信じて……。
定期的に、火の魔術を空へ撃ち上げる。
言うだけなら簡単……いえ。人によっては、本当に簡単なことだと思います。
それでも、しがない一般人の私にとっては、かなりの神経を使う作業です。
火は、小さすぎれば目印になりません。
けれども大きすぎれば、どんどん魔力を失っていきます。私は魔術士と呼ばれるような人たちとは違うので、底をつくのも早いです。
いつかのお兄さんみたいに、魔力欠乏で倒れるわけにはいきません。
だから、集中が必要なんです。
大きすぎず、小さすぎず。普段は何気なく使う程度の魔術を、人生一神経をすり減らしながら使っていきます。
それから、この間に、絶対やらなければならないことがあります……。
それは、お兄さんに頼まれていることとは別で、私の心の問題です。
魔物が来る。
もしかしたら、魔物を視界に入れることになるかもしれない。
急にそんなことになれば、私は絶対動けません。想像しただけでわかります。
巨大な塊。身体に響く鈍い音。赤黒い水溜り。十年前の記憶が身体を蝕んでいきます。
でも、気構えする時間があるんです。これで動けないのでは、お兄さんに申し訳が立ちません。
どれだけ怖くても、身体が震えても、無理やりにでも動く心の準備をするんです……私!
『いくぞおおおおおおらああああああ!』
お兄さんからの合図が来ました!
無事……無事だったんです!
ですがこれは、気を休める暇がないということでもあります。
合図を止めて、お父さんたちと合流しましょう。
向こうの準備は終わっているでしょうか。何事もなく、作戦通りにいきますように……。




