表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/69

消える日常5

 私とアンシアさんは、お兄さんと別れて駆け出しました。

 いいえ、私は……アンシアさんにつられて、なんとか動けたと言った方が正しいかもしれません。


 まずはアンシアさんの店に寄って、手頃な布を確保。両手に抱えて再び走ります。

 行き先は、当然村の中ではありません。

 山へと入り、今度は私が先導して、案内しながら向かったのは……。


「お父さん! お父さん起きてますか!?」


 それは、他でもない自分の家。ここは村から離れていて、魔物を誘導する先として最適な場所だったんです。

 それから、工房に籠りがちなお父さんが、気づいてない可能性も高かったですからね。


「…………どうした」


 ほら。起きてはいましたが案の定、空に浮かぶ悪夢の報せに気づいていません。

 でも私の様子と、それから一緒に居るアンシアさんのことを見て、ただごとではないとすぐに察してくれたみたいです。普段ならこんなふうに、一言返すことすらあんまりしてくれませんからね。


「……今すぐに、荷物をまとめる必要があります」


 ここまで走ってきた勢いのおかげか、それともその間に覚悟か決まったのか。

 私はすぐに、説明することができました。


 魔物が来るかもしれないこと。

 それを、ここへ誘導する作戦。

 迎え撃つための準備やあれこれ……。


 とにかく時間との勝負です。アンシアさんも、既に作業に取り掛かっています。布を縫い合わせ、簡単な袋を作っているんです。


「だからお父さん、急なことですがお願いします。金属の粉とか、用意できますよね?」

「……」


 ああもう!

 こんな時まで無言ですか!?


「お父さ」

「待て」

「っ……」


 お父さんは、何か考えているみたいでした。


 でも、時間が無いのに……。私は私で、次にやることが待っているんです。


 やきもきしたまま、私は少し待ちました。


「その通りにはできんな」


  そこまで時間が経たないうちに、お父さんは口を開いてくれたのですが……返事は色よいものではありませんでした。


「……な、ちょ」


 これははっきり言って、予想外の反応でした。

 お父さんなら、きっと助けてくれると思ったのに。

 協力してくれなくても、勝手にやるだけの話ではあります。でもただでさえ時間はぎりぎりです。間に合うかがどんどん怪しくなります。

 だってお兄さんは、もう魔物のやってくる方角へ向かってしまったんです。

 こっちの準備が間に合わなければ、お兄さんは確実に……。


「ならいいです。とにかく私はやります」

「その通りにしても、魔物は倒せねえ」


 押し問答の時間が惜しいと、動き始めた私でしたが……止まるしかありませんでした。


「……何がまずいんですか?」


 お兄さん自身が、もともと言っていました。

 自分は戦闘は専門外。今回の作戦は、商売と違って間違いがあってもおかしくないって。

 それでもアンシアさんのおばあさんや、村のみんなのため、村を救うために、持っている知識でできる限り考えてくれただけなんです。

 だから何か綻びがあるなら、対処しないといけません。

 お兄さんになんとかして伝えるか、こっちでどうにかできることなのか……。


「……担いででも逃げてやろうと思ったんだがな」

「え」

「いやいい。仕方ねえ」

「は、はい……」


 今の、私を担いで逃げようとしてたってことですよね。よくわかりませんが、お兄さんが危うく危ういところだったみたいです。

 ずっと目を合わせていましたが、何か思うところでもあったのでしょうか。


「まず、この家ごと爆破しても魔物は殺せねえ」

「……あっ、えっ? で、でも何か、すごい爆発が狭い空間でみたいなことを、お兄さんが!」

「俺も鍛治士だ。金属片の取り扱いについては心得てる」

「お兄さんの言ったみたいに、爆発は起きないんですか……?」

「ここは森の中だからな。乾いた荒野ならわかるが」

「……私にはよくわかりませんが、とにかく無理ということですね」


 まさか、ここまで根本的な問題があるとは思いませんでした。


 お兄さんの作戦は、魔物をここへ誘い込み、爆破するというものです。

 それなのに爆破できないのでは、ここで魔物に……やられるだけになってしまいます。


 どうしたら……。

 ここには魔物と戦えるほどに、魔術が得意な人なんて居ません。

 ……アンシアさん?

 いえ、さすがにそれは無理でしょう。


 考えたところで、思い浮かぶはずもなく……。

 私はなさけないことに、お父さんを見つめることしかできませんでした。

 ……ですが、そんな私に、お父さんは応えてくれたんです。


「……そこはどうにかしてやる」

「……はい?」

「小僧はもう行っちまったんだろ」

「あ……ありがとうお父さん!」

「……もういけ」

「……はいっ」


 ああはい。

 今のは、もう爆破の準備は任せて、私は自分の役目を果たしに、行っていいということですね。

 こんな時まで口数が足りないんですから。わかるからまあいいですけど。

 ……でもさすが、お父さんです。

 あ、ですが最後に一つ……。


「お父さん、アンシアさんを怖がらせちゃだめですよ!」

「……」

「……」


 はい。二人して無言です。

 そしてアンシアさんの方は、案の定少し萎縮してしまっているように見えます。


「そういうところですよ! 今アンシアさんが袋を作ってくれてますからあと」

「わかった。わかった」

「マリーさ……だい、じょぶ、なので……」

「……それでいいんです。では」


 私は今度こそ、次の行動を始めました。

 とはいえ移動は、家の外に出るだけです。すぐにでも始めるとしましょう。


 無駄使いは一切できません。

 魔力を節約して……できるだけ長い時間、できるだけ多くの回数を……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ