10年後の出会い
あれからもう、10年になりますか……。
――名も無き村に住む少女、マリーは、山の中を歩いていた。
向かう先は、この村唯一の特徴である神樹が立つ場所……。
しばらくの間は、近づこうとすら思えなかった。
怖くて……ただ怖くて。身体が震えちゃって。
でも、神樹様――メルクリウ様のある場所は、お母さんと笑った思い出のある場所でもあるから……。
だから、今ではまた定期的に行くようにしてる。
できることなら、私は幸せですって、報告できるような状況だったらよかったんだけどなあ。
村から少し離れた、静かでどこか温かい場所。
あの時、お父さんを助けてくれたやさしい光のことは、今でもちゃんと覚えてる。
ここには本当に、神様がいらっしゃるのかもしれない。
あの事件以来、私たちを助けたせいで力を使い果たしたのか、ここを満たし続けていた淡い光は無くなってしまったけど……。
それでもここは、私にとって大切で、そして神聖な場……所…………。
……は?
私はこの瞬間、おそらくこれまでの人生で一番呆けた顔をしていたことでしょう。
「な……な゛あ……っ」
しばらく呆然と立ち尽くした後、ふと気づいた私は、やっと警戒を始めました。本当は、すぐに警戒するべきでした。
なぜなのか。そんなのは一目瞭然です。
ここは山奥の村のさらに奥ですよ?
その上ここは神聖で、なんというか神聖な神聖……ああもうっ。とにかく色々おかしすぎます……。
どうして……どうしてそんな神樹様の根元でっ、男の人が寝ているんです……かっ。
それも、“全裸”で!
不審者ですか? 変態ですか?
もしくは両方ですか??
それとも、他国のスパイとか……。
でも、ここは辺境で何もない村ですし、王族や貴族が住んでいるわけでもない。
それに、ここに近い他国と言ったら魔族領です。この人は人間みたいですし……。
「……はぁ」
本当に、これほど感情が揺れたのはいつぶりでしょうか。
これ、どうするの?
このままにはしておけない。
でも危ない人かもしれない。少なくとも、舐められるわけにはいきません。
でもでも直視するのはちょっと……ああもうなんなんですか何なんですかっ。
……決めました。強気……強気で上からいきましょう。
この世は弱肉強食。弱いと思われたら終わりなんですっ。
「ちょっとあなた、起きなさい」
「……」
不審な男は、目を覚ます様子がありません。
「そこのあなた! 起きなさいったら!」
「…………」
結構な大声を出したというのに、それでも起きる気配がありません。
「起きなさい起きなさい起きなさいったらあ!」
「…………ぅ」
「!?」
反射的に飛び退き、身構える。
今度こそ目を覚ました……かと思いきや、やっぱり男の人は寝たままです。
あれ? というかこの人……。
極力見ないようにしていたから気づくのが遅れました。
この人の身体は真っ青です。これは寝ているのではなく、倒れているのでは……。
「……仕方ありませんね。普段以上の身体強化は疲れてしまいますが……」
服すら着ていないのですから、武器を隠し持っていたりもしないでしょう。
私は不審人物を背負い、歩いて山道を引き返し始めました。
うう、男の人の身体が……大きくて……感触……。
……でもこの人、やっぱり体温がとても低いです。
不便な場所にある家ですが、近くに住んでいてよかった。