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――ああ、俺は羨ましい。
“上木 翔”は、村への尽力を続けている。
たとえ歓迎されてはいなくても、ケアが不十分であっても、ああしている限りは、案外大丈夫なものだ。
不満や引っ掛かりで済む程度の感情なら、きっかけさえない限り、そうそう表面化はしない。
…………。
ゆくゆくは、すべての住人から受け入れられる日も来るかもしれない。
信頼してもらえる日が来るかもしれない。
最近、そんな態度を見せてくれるようになったマリーやアンシアのように。
順調に商売を発展させれば、そんな日がやってくるはずだと信じている。
俺にはそれが、とてつもなく羨ましい。
なぜそんなことを信じられるのだろう。
いや、答えはわかってる。
てごたえがあって、このまま何事も無ければ大丈夫であると、具体的な採算が描けているからだ。
つまり、信じている。
いろいろなものを。
何一つとして、信じられるものなど無くて、今そうであるというだけなのに――。
……どうして俺は、こうなんだろうな。
俺以外の人間が、同じように見えている上でああして生活しているのか、それともやはり見えていないのか。それは未だにわからない。
他人の心中というものは、理解できない貴重な存在だ。
……さて、ここまで眺めていて、やはりおかしいことは多い。
目に映った事象というのは、その通りただ見えている範囲の出来事で。それが成り立つのであれば、流れが、周辺の事象が、必ず存在しているものだ。
少なくとも、この世の前提を信じるなら。
あらゆるものは、当然ではない。何もかもが、思っていた形とは違うかもしれない。
絶対に変わらないはずの、正しい真実と思っているものがあるのなら。
それはただ、“今、そうだとされている”というだけだ。
この世界の法則は、思っている通りのものか?
この村の市場は、この世界の経済は、本当に成り立つ形になっているか?
独自の文化。魔術の文化。文化の差異があるからと、それで本当に済ませられるか?
遅い。足りない。
本来なら、もっと先を見て、次の選択肢を試すべき時は過ぎているのに。
……この夢も、そうだ。
今なら、最初に比べれば絞られてきた。
この、金髪の青年が立ち向かい、無に飲まれて死に行く映像。
それを毎晩見せられ続ける意味。
可能性が高いのは、おそらく……。
この世に、信じられる絶対のものなんてない。
だから……未来があるとも限らないんだよ。




