理由はわからない2
結局、ソウさんにも一緒に相談を受けてもらった。
これでなんとか、一安心……ほんとうはこんなんじゃだめだけど。
「――とまあ最近こんな感じなんですけど、マリーに何かしてあげられたら、と思いまして」
「「……」」
「それが無くても、普段からお世話になりっぱなしでしたし、恩返しのアイデアを相談したいんですよ」
翔さんは、マリーさんに機嫌を直してほしいみたい。
でもそれなら……ううん、違ってるかもしれないし。
「いや、話は分かったんだけどねニイちゃん。本気で言ってんのかい?」
「え、もちろん本気ですよ」
「あの、わたしは、よく、わからない、です。すみません……」
「あ、そうだよね。アンシアはまだまだこういうの分からないよね。でもその代わり、マリーと一番歳が近いから、何が嬉しいか教えてもらえたらなって思ったんだ」
わたしが貰って、うれしい物……。
急に言われてもわからないし、そもそもそんなのが参考になるのか不安になる。
そうしてわたしが困り始めてる間にも、お話しは進んでいく。
「べつにあたしたちに聞かなくても、ニイちゃんの思う通りにしたらいいだろう。その歳で、女性に送り物一つしたこと無いのかい?」
「女性へのプレゼントなら、まあ世間で無難とされてる物を送ったことくらいあります。でも、姪っ子とかいなかったんで、勝手が少し違うのかなと思って……」
「姪っ子ってねえニイちゃん……」
「わたしと、同じ……ぬいぐるみ、さん、とか?」
「あ、それ実は考えたんだよ。でも、今回機嫌を損ねた理由を考えると、少し子どもっぽ過ぎるかなと思ってね」
「そう、ですか……」
なんとか頭が追いついたから答えてみたけど、やっぱり見当違いだった。
そう上手くはいかないよね……。
「はあ……こればっかりは、ニイちゃんの見る目が変わらないと、どうしようもないしね。あたしはもう行くよ」
「え、ソウさん行っちゃうんですか」
「ニイちゃんは難しく考えすぎなんだよ。子ども扱いされたのが原因だって思ってるんなら、自分との歳の差なんて気にせず、ただ女性として扱ってやればいいだろう」
「あ、なるほど……」
それに比べて、ソウさんはすぐに解決しちゃった。
でもそんなソウさんは、これ以上助けてはくれないみたい。
「でも、女性、への、プレゼントって、何がいいん、でしょう……?」
「うーん、そうだな……」
わたしも……わたしだって少しくらい。
「わたし、何か、手伝える?」
「うん、じゃあ……もしよかったらお願いしたいんだけどね。廃棄の布とかってあったりする?」
「はいき、ですか」
「うん。生地物をこうして屋外で扱ってると、出てくるでしょ? それを使って……もしよかったら、また縫い物でもしようよ」
「……は、はいっ」
何でもいいからおてつだいを……そう思ってたんだけど、これだとまた構ってもらってるだけのような?
思った通り、翔さんと、縫い物するのは楽しくて。
「うん、上手上手!」
「あり、がと……ございます」
本当はぜんぜんそんなことないのに。
わたしは明らかに不器用で、なかなか針が進まない。
それなのに翔さんは、嫌な顔一つせず待っててくれて。むしろ、気遣って声を掛けてくれる。
マリーさんの気持ち、ちょっとわかったかもしれない。
翔さんは……この人なら、大丈夫って思わせてくれる。
自分がなにかしてしまっても、怒ったりせずに受け入れて……返事を返してくれるって。
「これで完成。これはおしゃれに使う物で、髪を結んだところに着けたりするんだよ」
おしゃれなんて……わたしには絶対似合わない。ましてや――
「ああでも」
「――え?」
「アンシアはたぶん、髪型変えたくないよね? それはね、腕に着けてもいいんだよ」
「あ……」
どうして、わかってくれたんだろう。
翔さんの言う通り、この頭を覆う髪型はわたしにとって盾で。
視線とか、色んなことから守ってくれてる気持ちになれるもの。
でも、本当は暗くて普通じゃなくて、変えろって言われてもおかしくないものなのに。
それでも翔さんはわたしを見て、察して……こんなことを言ってくれる人なんだ。
わたしもいつか、ほんの少しでもこんなふうになれるかな――。
「じゃあ、これありがとう。またねアンシア」
「あっ……はい。ありがとう、です」
翔さんと一緒に作ったこれは……腕だったら、服に隠れてほとんど見えない。うちの古布で作っただけだから、目立つ色なわけでもない。
それなら……せっかくだから、着けてみようかな。
今までの自分なら、絶対やらなかったこと。
翔さんは、色んなきっかけをわたしにくれる。
なんだか、ふしぎ。
トクトクって。いつもみたいにむねが苦しい気がするのに、しめつけられてるのとは違う。
翔さんと一緒に作ったこれを、これから大事なお守りにして。
ゆっくりでいい……ゆっくりでいいから、強くなっていけたらいいな。




