変えたい自分
わたしには最近日課が増えた。
それは、翔さんをこっそり見ること。
翔さんは、少しまえ村に来た男の人で、最近は市場を駆け回ってる。
まるで、翔さんが市場の中心みたい。
村に来てからまだそこまで経ってないのに、すごいなって思う。
ずっと村に居るのに、ずっと端に居るわたしなんかとは大違い。
この前、ちょっとだけ頑張れた……と思うけど。
そんな日課を続ける中で、わたしは気になっていたことがあって。
それは、翔さんがいつも、お昼頃にどこかへ行くこと。
そこでわたしは今日、わざわざ店をマリーさんに頼んでまで、翔さんの跡をついてきた。
それなのに、こうして影に隠れてる。
本当は、これも練習だと思って、話しかけてみるつもりも少しくらいはあったんだけど……。
「フッフッフー……」
翔さんのやっていることを見て……まるで冷や水を浴びたみたいに、その気力が失くなっちゃった。
マリーさんがなんとも言えない顔してたのも、わたしを気遣ってだったのかも。
でもマリーさん、わたしのあのこと、知ってたのかな?
翔さんがやっているのは、たぶん戦いの訓練だと思う。
やっぱり余所の人でも、男の人はやるものなのかな。
そういえば、翔さんはどこから来たんだろ。
「とは言ったものの、しっくりこないなあ。当たり前だけど……。そもそも元からほとんど技なんてできないし……」
むねの辺りが、奥の方から、よどんでいくような気持ちになる。
それをなんとか消し去りたくて。翔さんから貰ったぬいぐるみを、さらに強く抱きしめた。
今よりも、もっと小さかった頃。
わたしは、戦い方を習っていたことがある。
本当に小さかったから、よくは覚えてない。
『そしてこのまま、止めを刺す』
でも、父さんのこの言葉だけはよく覚えてる。
わたしはこれを聞いた時、怖くて怖くて身体が震えた。
必要な事なんだとか、色々言われた気もするけど……とにかくわたしは怖かった。
止めを刺すってなに?
それってその相手……敵を、生き物を殺すってこと?
わたしは、それ以来訓練から逃げた。
わたしは父さんと離れて、この村に来て。
それからは、おばあちゃんと暮らしてる。
今なら、戦争中なのもわかってるし、言われた理由もちゃんとわかる。
でも当時は、殺し方を覚えるのも、それを教えようとする父さんも、とにかく怖くて仕方なかった。
今のわたしがこんななのは、これが原因なのかも。
……ううん、きっと生まれつきこうだったんだよね。
少しは変わったつもりだったのに。
思い出しては、やっぱり自己嫌悪してばかり。
本当に嫌……こんな自分。
「誰だ!」
びくんと身体が反応する。相変わらずの大きな声。
そうだった。翔さんのことを眺めていたはずだったのに。
いつの間にか、気配を隠すのも忘れてて……。
見ているだけでよかったのに、ついにわたしは見つかってしまった。
よりによって……戦いの訓練中なんかに。




