表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/69

崩れた場所6

 私は、しばらく気持ちを整えた後……すぐ市場へ戻りました。

 でもそこに、お兄さんの姿は無くて。


「ちょっとだけ、お節介焼いてやったからね」


 代わりにソウさんから、そんなことを言われました。

 どうもお兄さんに、ある程度状況を伝えてくれたようです。

 今日は、助けてもらってばかりですね。



 お兄さんはというと、どうやら私を探して、どこかを彷徨っているようで……。

 すれ違いを避けるため、私は待っているところです。

 お兄さんと私だけが、帰る時には必ず通る、村の外れのこの場所で。

 心を整理する時間が、やっぱりもう少し欲しかったというのもあります。


 そしてやがて、待ち人はやってきました。


「お兄さん」

「え……」

「お兄さん、今日は色々ありましたし、もうこのまま帰りましょう」


 なんだか珍しく、元気がないじゃないですか。

 ……そうですよね。

 お兄さんだって、普通の人間なんですから。


「えっと……結局店、あのままにして来ちゃったけど、よかったのかな?」

「大丈夫ですよ。とりあえず、今日だけはソウさんが見ておいてくれるそうですから」

「あ、そうなんだ」


 遠くはなくても、核心ではない。

 そんなやりとりを交わしながら、私たちは歩き始めます。

 ですが私は、しっかり心の準備をして待っていました。


「お兄さん、私、言わなきゃいけないことがあるんです」


 だから、こんな気まずい状態は、すぐに終わらせるに限ります!


「「ごめんなさい!」」


 そう考えて、勢いよく謝った私と、お兄さんの声がぴったりと重なります。

 向こうは驚いたみたいですが……私はなんとなく、そんな気がしていましたので平気です。

 みんなみんな、本当に人がいいんですから。


「お兄さんには、嫌な思いをさせてしまいましたよね。本当に、ごめんなさい。私のせいで……」

「そ、それは違う! それはこっちの台詞だよ。俺がやったことで、マリーはあの市場に居辛くなってしまった。ちょっと上手くいったからって、調子に乗ってた。本当にごめん!」

「……いいえ、やっぱり、謝るのは私の方です。だって、私は……わかっていたんですから」

「そ、それ! 俺も……もう遅いけど、さっき気付いた。マリーは、あの市場でやってはいけないことをきちんとわかっていたんだって。あんな風に、目立ち過ぎちゃいけないって、ちゃんと俺に言ってくれてたのに」


 それでも、止めなかったのは私です。

 そして、ここからが一番言いづらいところ……。


「まあ、それもありますけど、わかっていたのはそれだけじゃないですよ。私は……私の代わりに店が危なくなっている人が居るのもわかっていました。わかっていて、でもやっぱり、また自分が稼げなくなってしまうのが怖くて、黙っていたんです。あと少しだけ、あと少し余裕ができるまでって……」

「それ……は……」

「あ、失望させちゃいました……?」


 私だけが、こんなずるくて、ひどい考え……そうなっても仕方ないです。


「いやあ、私もやっぱり、自分の命は大切なんですよねー」

「え、命……?」

「はい。お金稼いで、ご飯を食べなきゃ、死んじゃいますからねー」

「あっ……」

「なんだか驚いてます? てっきり、お兄さんだってそれがわかっているから、ああして私の言ったことを守らずに、あれこれしたんだと思ってましたよ。お兄さんだって、飢え死には嫌でしょう?」


 なんだか意外です。

 程度はともかく、お兄さんは村の現状に、気づいていると思っていました。


「そうだとしても、悪いのは俺だよ。マリーが謝らないといけないことなんて、一つもない」


 そうだとしたら、気づけたのは本当に私だけ。

 私の責任は、やっぱりとてもとても重い……。

 そのはずなのに、お兄さんは何を言っているんでしょうか。


「……お兄さん、何か勘違いしてませんか?」

「勘違い?」

「なーんか聞いていると、お兄さんが全部悪くて、そのせいで私がこんな状況に陥ってるーみたいに聞こえます」

「いや、だって……その通りでしょ」


 はあ……やっぱりそうです。

 方針変更。これはもう、弱気な姿を見せている場合ではありませんね。

 それが今、私にできる精一杯です。


「あー! やっぱりそんなこと思っていたんですね! 思い上がらないでく・だ・さ・い!」

「あ、で、う、ぐっ」


 私は意図して、強気な態度を演出しました。

 少しばかり勇気を出して、お兄さんの顔を、突いてみたりしてみます。


「確かにお兄さんを頼って、ここのところお店の運営をお任せしていましたけど、店主は私、お兄さんを養ってあげているのも私ですよ? それなのにお兄さん、自分に全部責任があるーみたいな顔して、いつからそんなに偉くなったんです?」


 アンシアさんもお兄さんも、私の責任まで背負おうとしすぎなんですよ。

 私は、そこまで子どもじゃありません。

 そんな情けない自分には、私だってなりたくないんですからね。


 自分の分は……自分で背負います。


「いやあ……もうぐぅの音も出ないよ。本当、もう……申し訳ありませんでした」

「うわ、ちょっと何いきなり気持ち悪い言葉遣いしてるんです? 気持ち悪い」


 お兄さんには、わかってもらわないといけません。私のことを、甘やかす必要なんてないってことをです。

 そのためなら虚勢だって、いくらでも張ってみせましょうとも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ