崩れた場所5
「あの……あ……」
「……」
アンシアさんは、何か言いたいようですが、言いづらそうにしています。
無理もありません。
この普段、自己主張の小さい子が、人の……私のためにとはいえ、あれだけのことをしたんです。
ずっと心配していましたが、ちゃんと強さを持っていたんですね。きっと、勇気を振り絞って、頑張ってくれたんだと思います。
だからここは、きつくても私が頑張って、お返ししないといけません。
それすらできなかったら、本当に立つ瀬がなくなってしまいますからね。
「ありがとうございます。アンシアさん」
「……え」
「さっきの土魔術、アンシアさんですよね。さすが騎士団長の娘さんです」
「あ……の……」
笑うんです。
こんな時こそ、お兄さんみたいに。
アンシアさんが安心できるように。
「あ……」
「どうかしましたか?」
「い、いえ……」
私はちゃんと、お兄さんみたいに笑えたのでしょうか。
それは自分ではわかりません。
でも、アンシアさんの怯えた様子が、いくらか和らいだような気がしました。
きっと、伝わったんだと思います。
私が本当に、感謝してるんだってこと。
「あの……ごめんなさい」
「いいんですよ。アンシアさんのおかげで、あの程度で済んだんですから。……あまりにスレスレ過ぎて、今も少しドキドキしていますけどね」
「ごっ……ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……」
「ふふ……」
「あ……」
アンシアさんは、とても控えめにですが笑ってくれました。
わかってはいましたが、なんて儚げな方なんでしょう。
お兄さんが、あれだけ世話を焼きに行くのもわかります。守ってあげないと……そんな気持ちになってくるんです。
だというのに、私は逆に守られてしまって……。
いつか、恩返ししないといけませんね。
「マリー……さん、これから……」
「わかっています。ちゃんと自粛するつもりです」
「そ、そうじゃなくて……わたし、謝りに……」
本当はそんな必要ないにもかかわらず、さっき私には、既に謝ってくれていたはずです。
それなのに、まだ謝りに行きたそうにしています。
私は、言葉を待ちつつ考えて……なんとなくまた察しました。候補も、それほど多くないですからね。
「もしかして、お兄さんに謝りたいってことですか?」
「……さっき、すごく……怒って……た、から……」
「ああっ、そんな気にしないでください! アンシアさんが悪く思う必要はないんですよっ」
今にも泣き出してしまいそうで焦ります。
でも本当に、アンシアさんが気にする必要はありません。謝らせるわけにもいきません。
「アンシアさん、これは私が、お兄さんに謝るべきことです。いいことをしたアンシアさんが謝るなんて、おかしいですよ」
「でも」
「でもじゃありません。アンシアさんは、もう頑張ってくださったはずです。次は私の番ですよ」
「…………」
「…………ね?」
「わかり……ました」
「はい」
「あの……最後に、本当に、ごめ……なさい」
「あーあーあーもうっ。謝る必要ないんですってば」
「ごめ……あの……」
おかげでなんだか、気を持ち直すことができた気がします。
忠告だけじゃなく、その後の心遣いまで。アンシアさんは、本当に優しい方ですね。
だから、私も頑張ります。
そして、この件がちゃんと落ち着いたら……。
アンシアさんとも、これからは仲良く……お話しとかしてみたいですね。




