崩れた場所4
いつから……いつから私はっ。
この涙のことではありません。
いったい私は、いつからこんなに気が抜けていたのでしょうか。
ここ数日……程度の話じゃありません。
頭ではずっと考えていましたし、気をつけているつもりでした。
市場で目立つ行動をしてはいけない。
ギリギリの生活をしているのは、私たちだけじゃない。
いつから、それを軽くみてしまっていたんでしょう。
本当はよくないだとか、そんな程度に……。
これは、私のせいです。
私が、管理しなければならなかったことです。
お兄さんがいくら知識を持っていても。
あらゆることを想定して、動いているように見えたとしても。
私の商人としての十年なんて、全然大したことはなかったんだと認めたとしても。
この村のことだけは、絶対に私の方がよく知っています。
だから絶対に、任せきりにしていいはずがなかったんです。
事によっては、それはここではダメだって、言わなければならなかったんです。
それなのに何を私は、お兄さんと一緒になって笑っていたんでしょうか。
……いいえ、違う違いますっ。
私はまた、お兄さんにも責任を負わせようとしてます。
お兄さんは、ちゃんと説明していました。
聞いた限りの情報を元に、今回の策を試すと言っていました。
ここ最近、自分が散々思い知っていたことです。
知らないことを覚えたり、把握したりしていくのはとても難しい。
お兄さんだって、きっと難しいはずです。
それなのに私は、自分が注意するべき仕事を疎かにしました。
その結果が……あの“忠告”です。
わかっています。
あれは、以前絡んできたガラの悪い男のような、外の人がやったことではありません。
十中八九、市場の誰かがやったことです。
明日への不安。私がそこから解放された分だけ、誰かがあの重圧を押し付けられていたはずです。
……納得ですよ。
やられたことを、お兄さんみたいに怒るとか、許せないとか、そんなことあるはずがありません。
ここのルールを破ったのは、私なんです……。
「はぁ……」
すぐに。
できるだけ、早く戻らないといけません。
みんな……は、謝られることなんて望んではいないでしょう。態度を、行動をもって変えるべきです。
お兄さんに対しては、ちゃんと謝らないといけませんね。
説明も、ちゃんと……。
本当はそんな余裕ありませんが、今日だけはもう、片付けをして店じまいにするべきでしょうか。
「居……た……。マリー、さん」
「え?」
そんな、後悔しながら悩んでいた時。頭を抱えていた私に、突然小さな声が掛けられました。
驚くことに、顔を上げるとそこに居たのはアンシアさんです。
村で唯一、私よりも年下の相手。
ずっと気に掛けてはいても、話す機会はほとんどありませんでした。
あの場所の雰囲気のせいもありますし、そもそもアンシアさんは、かなり控えめな人のようでしたから。気軽に声を掛けるのはためらわれたのです。
そんな彼女が、今、私に声を掛けてきた。
私は全てを察しました。
ああ……本当に情けないです。
私はアンシアさんにまで、助けてもらってしまったんですね。




