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まだ未熟な少女たち

 翔さんは、仕方ないかもしれない。

 でも、マリーさん、どうして?


『ねえ、どうするのさ』

『このままじゃ私らは……』

『……ふん、だから言っておいたんだよ』


 わたしは、ここが嫌いじゃなかった。

 ずっと張り詰めた雰囲気だったけど、嫌いじゃなかった。

 静かで、どこか危うくても、争いだけは起きなかったから。


『だってさ……』

『まだ若いあの子を不憫に思うのもいいが、あたしらだってギリギリで食いつないでるんだ。忘れたわけじゃないだろう』


 わたしは、ここのみんなとほどんどお話しをしたことがない。

 それは自分が逃げていたせい。

 人の目を見るのが怖くて。

 わざと前髪も切らないようにして。

 いつも怯えた態度で。

 だからみんな、最近はもうわたしのことを気に掛けない。

 気に掛けても、わたしが怖がるだけだから。

 震えるばっかりで、まともにお話しできないから。


『だからって、どうしろっていうんだい』

『あたしは忘れてないよ。十年前のあれだって、結局原因ははっきりしてないんだ』


 そんなわたしだけど、人の話を聞くことだけならできる。

 この静かな村の中でも、たぶん一番暗いわたしだから。

 置物みたいなわたしだから、こっそり聞いているのに気づかれない。


 十年前……魔物が村に来たっていうあれのことかな。


 わたしは、その頃まだ小さくて、その出来事をよく覚えてない。


『変わらず……変わらないことで、あたしらは全員が食いつないできたんだよ』

『それはわかってるけどさ……』


 わたしは嫌いじゃなかった。

 変わらないここが。


『……わからせてやるしかないね』


 え?


『わからせるってあんた……』

『なんだい? このまま飢え死ぬつもりかい?』

『そりゃ私だって……まだ……』

『まあ……ねえ……』


 え? え?


『わかりやすく、一度火でも放って燃やしてやった方がいいかもしれないよ』


 ――!?


 反射的に耳を塞いだ。

 怖くて、それ以上こっそり聞くことなんてできなかった。

 でもわたしには、忘れてしまえるような強さもなくて。

 さっき聞いた台詞が、頭の中で回り続ける。


 燃やすって何?

 何を燃やすの?

 マリーさんのお店?

 そうじゃないなら、お家?

 それともまさか……っ。


 怖い。


 変わってしまった。


 あの人なら……ここをもっと温かい場所に変えてくれるかもなんて、勝手に夢見てた。

 わたし、気づいてたのに。

 翔さんが来てから、みんな我慢してるって気づいてたのに。

 何も起きないからって、大丈夫かもしれないなんて考えて、また何もせずに下を向いてた。

 チャンスだって思ってたのに、わたしはまた変わらなかったから……こんな。


 …………。


 違う。


 違う違うっ。


 まだ、何も、起きてない。

 でも起きちゃう。

 怖くて最後まで聞けなかったけど、このままじゃ誰かが我慢しきれなくなる。

 そうなった時に……どんなことをしてしまうのかわからない。


 わたしは知ってる。

 人は簡単に敵を殺せるって。

 そう何度も教えられたから。


 なら、どうしたらいいのかな。


 わたし……わたしが……。


 誰か、人が傷つく前に。

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