売上向上策開始3
宣伝の持つ力。
お兄さんから聞いたそれは、信じられないほど大きな話でした。
いいえ。まだその全容を、把握など仕切れていないでしょう。
『せんざいこきゃく』やら『りぴーとりつ』やら、説明に使われる単語にすら、説明が必要なんですから。
客数と来店数がどうとか、『そんえきぶんきてん』が……ああだとか。
意味のわからない単語の数は、十や二十では足りません。
この数週間で、百はとうに越えてしまいました。
それの説明にこれが、あれがと、私はあまりに無知すぎて。
私が教わったのは、今回お兄さんが選択した宣伝についてだけだというのに、それでも理解するのは大変で。それなのにお兄さんは、こんなのはまだ序の口だと言います。
そう言えるだけの知識をもって、お兄さんは策を決めた。
そして……成果を出してみせたんです。今のうちの店に、一番合った方法を選んで。
「マリー、きっとこれから、さっきみたいに興味を持って店に来てくれる人が増えるよ。これで上手くいけば、生活に困ることなんて当面は無くなると思う!」
「……そうですね! そうなれば誰かさんのせいで、きびしー家計も余裕ができて、万々歳です」
私はなぜか……いいえ、きっと悔しかったんだと思います。
こんなにも早く現状を打開しようとしているお兄さんに対して、つい嫌味のようなことを言ってしまいました。
これまで自分は、何もしなかったくせに。
「うわ、それを言ってしまいますかー」
「いやあ、これで私も一安心ですよー」
それでもお兄さんは、こうやって笑って返してくれて。
実は嫌味を言う前から、そんな確信がありました。お兄さんは、そういう人なんです。
私とお兄さんは笑い合っていました。
この市場で、こんなふうに笑い声がすることは滅多にありません。
いいえ、そういう雰囲気に、私たちみんながしてしまっていたんです。
……そうです。ここは私たちみんなで、そういう雰囲気にしていた場所です。
でも、私は未来を得た気がして。
これからも食べていける。生きていけるのかもしれないと思えて。
少しだけ安心して。
翔さんにつられるように、一緒に笑ってしまっていました。
ああ、よかった!
ほんの数本売上が伸びるだけで、うちの家は助かります。
なんせ商品一つ一つの……『たんか』が大きいですからね。
お兄さんのおかげで、これからもやっていけそうですっ。




