売上向上策開始2
同じことの繰り返し。
どれほどすごいことをするのかと思っていましたが、やっているのは宣伝をただ重ねていくことだけ。
それは確かに変わったことでしたが、その変わったことを、変わらず続ける日々が過ぎていきました。
そうして一週間。
二週間。
そしてもうすぐ、さらに一週間が経とうとしています。
「それで、お兄さん? お兄さんの考えによる成果は、いつごろ現れるんです?」
「えっと、ちゃんとそれについては説明したよね?」
「確かにそうですけど……目に見えた結果がないと、疑いたくもなりますよ」
売上は、宣伝を始めた前とそこまで変わらない状況です。
お兄さんの言うように、説明は受けました。理解だってちゃんとしています。
それでも実際にそうなるまでは、やっぱり御伽噺のようで。
……と、ありがたいです。お客さんが来ました。
「あっ、いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ!」
今日もお兄さんに倣って、笑顔で挨拶をして迎えます。
……後に続いたお兄さんほど、無邪気に笑えているかは微妙ですけどね。今も笑う意味がわかりませんし。
上手くできているかもわからない笑顔を貼り付け、少しばかり気を抜きながら、お客さんの様子を眺めていた時でした。
ついに、その時は来たんです。
「ふうん……思ってたより良いな」
お客さんがふと呟いた台詞。
それは、聞きなれないものでした。
これって……。
「何かお探しでしたか?」
「ちょっ、お兄さんまた無闇に声をかけてっ……!」
って、お兄さんのことですから、何か確信をもってやっているんですよね。
つい反射的に、十年来のものと違う対応に指摘してしまいました。小声にしておいてよかったです。
ここは一度、引いて様子を見守りますか……。
「ん? いやべつに。まあ少し小耳に挟んだもんでね。ちょっと寄ってみたんだよ」
「なるほど。期待に添える物はありましたか?」
「ほんの気まぐれだったが、まあ悪くないな。今日は持ち合わせがないから、また寄った時にでも、よく見させてもらうよ」
「それはよかった。是非お願いします。お待ちしていますね」
見守った結果は、驚きと安堵、そして喜びでした。
これは……これはすごいことです。
お兄さんが、当たり前のようにこうなるとは言っていました。
従来の接客では気がつかなかっただけで、これまでだってお父さんの腕が評価されて、わざわざ来たお客さんは居たんじゃないでしょうか。
それも間違ってないかもしれません。
それでも、ここまで明確なものがあったでしょうか。
こうして、今日買うこともできないものを見に来るなんて。
この寂れた村では、ほぼありえないことだったはずなんです。
そんなここで、とうとうこうして成果が出ました。
寂れ、静かな、変わらぬ村の市場の一角で……。




