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ぬいぐるみを作ってみたり

 翔さんは、今日も相変わらず元気。


「ここを、こうしてひっくり返すと……」

「わあ……すごい、です。まんまるで、かわいい」


 そして、相変わらず目立ってる。


「でしょう?」

「これは、何なのでしょうか?」

「一応、ネコのつもりだよ」

「え、ネコさん、ですか……? あ、言われてみると……」


 テキパキ話せないわたしに合わせてくれて、申し訳ないけど嬉しい気持ち。


「ネコさんのお顔のぬいぐるみ……でしょうか? だとすると、この部分は、いったい……?」

「ふふ、これで一応全身だよ。デフォルメされているんだ」

「でふぉ、るめですか?」

「そう、デフォルメ。簡単に言うと、身体の一部をシンプルにして、かわいく見えるようにまとめたんだよ」


 注目を浴びることになって、怖くて、困ってしまう気持ち。


「不思議です、けど、まるまるしていて、かわいい、ですね」


 でも、やっぱり嬉しいかも。


 おうちでは、おばあちゃんがお話ししてくれる。

 優しくしてくれる。


 だけど、こうしてわたしの方が面倒を見てもらうのはいつ以来かな。

 おばあちゃん、身体よくないから……。


 簡単なぬいぐるみ作りを教えてもらって、嬉しかった。

 そんな翔さんにだからこそ、本当は、言わなきゃいけないことがある。


「あの、翔さん……」

「なに? アンシア」


 でも、今は目立ってるから言わない方がいいのかも。


「あの、ありがとう、ございました。でも、そろそろお店……大丈夫ですか?」

「そうだね、そろそろ戻るよ。そのぬいぐるみは好きに使って?」


 でも、でも、他に言えるような当てがあるわけでもない。


 そんな悩み続けるわたしの頭に、温かくて、大きな手が乗せられた。

 なぜかはわからないけど、翔さんがわたしを撫でてくれてる。


 大人の、男の人に撫でられると、こんなに……。


 弱気な自分を元気付けて、安心させてくれてるような気がした。

 だから、勇気を出さないと。


「し、翔さん……あの……」

「あ、ごめん。嫌だったかな」

「い、いえ、嫌では、とくには、ないのですけど……」


 でも、わたしがはっきりしないせいで、翔さんは撫でるのを止めてしまった。

 話そうとした勇気が萎れて、そのまま黙り込んでしまいそうになる。


 それでも、わたしが……っ。


「あの、最近……翔さんが、マリーさんの」


 でも、そんなうじうじとしていた時間がダメだった。


「ちょっといいかしら?」

「あ……」


 翔さんの後ろから来たのは、隣の店の人。


「すみません、話し込んでしまって。ひょっとして、待っていらっしゃいました?」

「いいえ、そんなことないのよ。でも、この子と話したいことはあるわ」

「そうでしたか……。じゃあアンシア、俺は戻るよ。また後でか、もしくは今度、話を聞くね」

「あっ……は、はい」


 たぶん、そんなに余裕はない。


 本当に、これでいいの?

 ううん、よくない。

 だって、ずっと変わらなきゃって思ってた。

 わたしにとって、翔さんは貴重なきっかけっ。


「あのっ、翔さん……!」


 翔さんが、少し驚いた表情で振り返ってる。

 それもそのはずで、思ったよりも大きな声が出てしまった。

 それでも、翔さんの声よりは小さいんだけど……わたしは自分で、自分にびっくりしてしまって。

 

「……お気をつけて、下さい」

「……? うん、気をつけるね!」


 結局言えたのは、しょぼくれたそんな言葉。


 そうじゃない。

 言わなきゃいけないことはこれじゃなかったのに。

 でもどの道、隣の人の前では言えない。

 わたし……何やってるの。


「……お気をつけて」


 わたしには、口元でそんなことを繰り返し呟くことしかできなかった。



 隣の人の用件は、翔さんを信用しすぎるなって話だった。


 大丈夫。

 わたしだって……こんなわたしだからこそ、やりすぎなくらい警戒してるつもり。

 問題があるとすればそれは、こんなことを言いにくるほど……。

 わたし、この人とお話ししたの……いつぶりなのか覚えてないよ。


 やっぱりさっき、もっと勇気を出すべきだったのに。

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