変化5
「魔力が、ない……?」
「はい、全然感じられません。正確なところは、私は専門家じゃないのでわかりませんよ? でも、明らかに魔力が無いです。あったとしても小さいものです」
私は念のため、お兄さんの手を取りました。
その方が、魔力の有無がわかりやすいからです。
触れてみた結果は思っていた通り……ではありますが……。
「といっても、全くないってことは無いと思うんですよね。初めてお会いした時、魔力欠乏の症状で倒れてましたし」
「え、最初全然身体が動かなかったのって、そういう理由だったの?」
「たぶんそうですよ。症状が魔力欠乏そのものでしたし、身体全体が真っ青でしたよ」
まるで生気が抜けたかのように、肌の色から血の気がなくなる。
魔力を使いすぎた時の、典型的な症状です。
「結局俺は魔術を使うことができるの? できないの?」
まあそんなことは、今お兄さんにとって興味のあることではないようで。
うーんこれは、変にフォローしない方がよかったでしょうか。
でも、無駄に嘘はつきたくありませんしね……。
「持っている魔力に見合ったものなら、使えると思いますけど……。ちなみにお兄さん、今はどんな魔術を使おうとしていたんです?」
「え、それは普通に、こう稲妻がどがしゃーんと」
!?
「なんで家の中でそんな魔術出そうとしてるんですか!」
「そうだね! すみません!」
こうなったら、現実的なラインでも探ってみるしかない。
そう思って寄り添ってあげてみればこれです。
これはやっぱり、知識を持ってるだけの、子どもみたいな人という認識でよさそうですね!
「まったく……。それにしても、雷が好きなんですか? さっき試していたのも、そうでしたよね?」
「まあ、そんなところ」
どこか含みがありますね……まあいいです。
「なら、静電気でも思い浮かべてみてください」
「静電気か……」
「はい、極々微小のを。ほんのすこーし、パリッとするイメージです」
「よし……」
なーんて、ただでさえ絶望的なのに、電気は無理だと思いますけどね。
人間が使える魔術は、基本的に種類が決まっています。
他は本当に稀なんです。その中でも、電気や雷はほぼ聞きません。ここでは常識です。
あ……でも、お兄さんの世界では電気が日常に溢れているんでしたか。
それなら、もしかしたら……。
私はお兄さんの邪魔をしないように、静かに待ちました。
離す機会を失ったせいで、手を繋いだままなので何もできません。
……だというのに。
長いです!!
もう十分、いえ二十分は経っているかもしれません。
この人は、どれだけ魔術を使いたいのでしょうか。
でも普段とは違う真剣そうな表情をしていて、目を閉じてはいても、寝てるわけではないのがわかります。
だからって、ここまで付き合う私も私かもしれませんが……。
それでもさすがに、そろそろ私が打ち切るべきかもしれない。
そう思った時でした。
「ひゃ!?」
驚きのあまり、私は悲鳴をあげてしまいました。
握っていた手に、今、確かに鋭い痛みが走ったんです。
まさか、本当に成功させた?
「やった! せいこぅ……だ……」
その疑問の答えは、すぐ目の前にありました。
お兄さんから血の気が引き、顔が蒼白になってきています。
驚きですが、待っている間に考えていた通り……本当に電気を出してみせたようです。
……まあ、使い道のないレベルですけどね。
仕方のないことです。
さて……この後お兄さんがどうなるかはわかりきっていますし、お世話するとしましょうか。
「あー、やっぱりこうなりますか」
「え……」
「さっきも言った通り、お兄さんはほとんど魔力が無いんです。それなのに、こうして魔術を使えば、そりゃあまた魔力欠乏になりますよ」
お兄さんは、既に意識が飛びかけているみたい。
これできっと、身をもって実感できたでしょう。
これからもああして、勇者ごっこのようなことを続けられては困りますからね。
「まあ、今日はもう寝るだけですし、ゆっくり休んでください。おやすみなさい、お兄さん」
お兄さんは、やっぱり本当に、異世界から来た人なのかもしれない。
この日、私はその可能性を、より高くみることになったのでした。




