変化4
そして食後……。
私は、勢いの全く変わらないお兄さんと向き合っています。
「……気持ちはわかりましたから、落ち着いてください」
「え? ちゃんと椅子に座って待ってるじゃない!」
「いや、もう体の揺れとかがすごくて、色々だだ漏れ……まあいいです。とりあえず、これ、はめてみて下さい」
「はめました! はめました!」
「……えっと、まあそれで準備は完了です。あとはやってみるだけですよ」
「やってみるだけと言われても、何をどうするのか全く知らないんだけど」
私が引っ張り出してきたのは、昔自分も使った指輪です。
指輪と言っても、当然着飾るための装飾品なんかじゃなくて。
「さっき魔術を使おうと色々イメージして、試してましたよね? 基本はそれでいいんですよ。口で言うものじゃないですから。その指輪は、魔力の流れとか、その運用を導いてくれるものです。まあ、最初は助けになっても、慣れてしまえば出力も出しづらくて、かえって邪魔になる物らしいですけどね」
これはお国の、なにかすごい人が発明したらしい補助具のようなものです。
今、この国の人たちがほぼ全員魔術を使えるのも、この魔術道具のおかげだと聞いています。
実際に、私も小さい頃これを使って覚えました。
大抵、一つの集落や村、町なんかに一定数あるものなのですが……。
私が持っていたのは、偶然最後に使ったのが自分だったからですね。
「なら、やってみる」
お兄さんは少し考えている様子でしたが、まずはやってみることにしたみたいです。
「あ、あの恥ずかしい大声は出さないでくださいね。見ていていたたまれないので」
「わ、わかってるよ……」
注意もしたのでこれで大丈夫でしょう。
さすがに家の中で叫ばれたら、お父さんに迷惑ですから。
お兄さんが集中し始めたら、ひとまず待つことしかできません。
私がこれをやったのは、いったい何年前だったでしょうか。
本来は物心付いた頃にはやっていることです。
こうしていると、やっぱり弟のお世話でもしてるようですね。
「ぷはあ!」
さあ、お兄さんが集中を解いたみたいですが……。
「な、何かこう……何も出る気がしないんだけど……?」
「まあ、そうでしょうね」
「そうでしょうねって、最初からできないってわかってたの?」
えー……。
「ちゃんと多分無理だって言ったじゃないですか……。仕事の話をする時はあんなに理性的なのに、その時々意味の分からないテンションになるの、止めて下さいよ」
「え、はい。気を付けます」
そして一気に冷静になるお兄さん。
この格差についていくのも大変なので、なんとかしてほしいものですけどね……。
さて、いよいよお兄さんには、現実を突きつけなければなりません。
少々心苦しいですが、仕方ないですよね……いきます。
「それで、無理な理由なんですけど……たぶんお兄さん、魔力がほぼ0なんですよ」




