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変化3

 無意識のうちに早足になっていたのでしょう。

 いつもより、少し早く帰ってきてしまいました。


 まあいいです。

 これでまた、油断しているお兄さんの行動を確認できるかもしれません。

 つい先日のこともあります。警戒はどれだけしてもいいですからね。


 そんな言い訳のようなことを考えながら、こっそりと近づいた私の目に入ったのは……。


「いでよ! 稲妻あああああああああ!」


 あー…………はい。

 なんかもう、わかっていました。


「……何も、出ないな」


 至って本気でやっていそうなのが、またなんともいたたまれません。

 今日はわざわざ木の上にまで登って、そこでできもしない魔術の真似事をしています。


 私には、じっとりとした目でお兄さんを見ることしかできませんでした。

 そしてついに、お兄さんと目が合います。


「…………」

「…………」


 お互いに何も言うことはなく……。

 私はお兄さんが木から下りてくるのを、黙って見守ることになりました。


 しかしまあ……向こうからは話しかけづらいですよね。

 本当に仕方のない人です。ここは私が大人になりましょう。


「お兄さん、その……色々困るので、できれば奇行を私に見せるのは、止めてくれませんか」

「……ごめんなさい」


 う……。しょんぼりさせたいわけではないのですが。


「えっと、とりあえずおかえり。お仕事お疲れさま」

「あ、はい。ただ今戻りました」


 と思っていたらこれです。

 切り替えが早いというか、本当によく笑いますね。


 でも……もうこの際ですからいっそ……。


「……ところでお兄さん、さっきの奇行についてなんですけど」

「う、うん」


 蒸し返さないでという顔をしていますが、無視します。


「お兄さん、魔術が使いたいんですか?」

「そうだね。できることなら使いたいかな」

「ふうん……。そういうものですか」


 お兄さんの世界において、魔術が空想の産物であることは既に聞いています。

 いわゆる憧れの対象なんだとか。

 だから現実に魔術のあるこの世界が、夢に溢れて見えているのも理解はできるんです。


「うん。こんなに魔術とかを使いたがるのって、普通と違うの?」

「まあ、そりゃあ……ほとんど誰でも、ある程度は使えるものですし」

「え、そうなの? 前に聞いた魔術師とか、そういう一部の人たちしか使えないわけじゃないんだ」

「ええ、まあ同じ使えるでも、質が全く違いますから」


 剣に秀でた使い手が居るように、当然魔術にも実力差というものがあります。

 素人でも剣をただ振るくらいできますが、それで敵を打ち倒したり、固い鉱物を切り裂いたりできないのと一緒です。


「へえ……ほとんどってどのくらいなの?」

「ほとんどはほとんどですよ。というか私も使えますし」

「え! マリーも使えるの!?」

「何驚いてるんです。普段から使ってましたよ。かまどに火を点けるときとか」


 魔術を使うのは疲れますが、火起こしは魔術を使わなくても、体力かお金か、何かしら使いますからね。


「全然気が付かなかった……」


 この人は……鋭いのかそうじゃないのかわかりません。

 今のやり取りだけなら、本当に子どもみたいです。

 だからこそ言いづらいのですが……いえ、もう話題も振ってしまいましたしね。覚悟を決めましょう。


「試してみます?」

「え、試すって?」

「魔術、使えるか試してみますか?」


 ただ……。


「まあ多分無理だと」

「やる! 何俺も使えるの!? やる!」


 思いっきり被せてきました。

 目が輝いています。希望に満ち溢れた顔です。


「いや多分無理……まあいいです。とりあえずやってみましょう。まずはご飯にしますね」

「わかった! あ、料理手伝うことあるかな!」

「なんて現金な……」


 今までは、そんな申し出をしてきたことなかったでしょうに。


 言いづらい気持ちを募らせながら……。

 私はお兄さんのクールダウンも兼ねて、普段通り全く急がず、食事の準備を始めたのでした。

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