表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/69

現状打開作戦3

 程なくして、お兄さんは戻ってきました。

 どこへ行くかと思えばアンシアさんのところへ行き、いつも通りなぜかアンシアさんとだけは長めにおしゃべりして、それから戻ってきました。

 いえ、アンシアさんだって、見た目が幼いとはいえもう結婚を考えていい歳です。そして私は、お兄さんをそういう対象に見れそうにないんですから……いいんですけどね。

 ただ、そうなると年下のアンシアさんに先を……私は当てもないままのに……。

 

 ……って、そんなことはいいんですよ。


 それよりも気にしなければならないことがあるんでした。

 寝不足に加え、さっきの問答で、少し気疲れしていたせいかもしれません。気持ちを切り替えましょう。


「何に使うのかと思えば、そんな物を買ってきて……どう使うんですそれ」


 私に土下座までしてお兄さんが買ってきたのは、布と糸でした。

 こんな物で、何をするっていうのでしょうか。これで大した意味もなかったら、私は押し切られたことを心底悔い続けなければなりません。


「うーん……簡単に言うと、特別な、売り場を作るんだよ」


 お兄さんは、チクチクと針を動かしながら答えます。


 意外と様になっていますね…………ではなくですよ。


 また思考が横に逸れています。

 徹夜すると、ここまで頭が回らなくなるとは思っていませんでした。私は気合を入れなおし、再び思考を本題に戻します。

 

「特別な売り場ですか」

「そう。例えば、今作っているのは値札なんだけど、そこに今までの値段を黒、今日売る値段を赤の糸で刺繍してるんだ」

「……値札なら、そこらの木に炭で書いたものがあるじゃないですか。それ、お金をかけてまでやる意味があるんですか?」


 ああ、ああ……っ。


 気づいてみれば、雲行きがとても怪しいです。

 自分の言葉にも、棘が出てしまっているのがわかります。

 でも止められません。止められるはずがありません。

 これで立て直せなければ、いよいよ店を畳むしかない状況なんです。


「何か赤い文字が書ける物があれば、それでもよかったんだけど、見つからなかったんだ。それに、できるだけ大きい方がよかった。そうなると、木で作ったら持ち運びに不便だしね」


 話を聞きつつ意図を考えていた私は、ここで一つ思い当たりました。


「お兄さん、たぶんですけどそれって、元の値段も見せておくことで、この値段は特別だって、わかってもらうためですよね」

「そうそう。さすがだね、マリー」


 何がさすがですか適当を言って……。

 ここは、当たってほしくなかったところなんですよ。


「でもそれって、意味ないと思います。結局安い値段で売ることに変わりはないですし、むしろこんなに大幅に値が下がっているのがわかったら、不審過ぎて私なら絶対買いません」


 さあ、どう説明してくれるんですか?

 私はそんな思いを乗せ、お兄さんをじっと見つめて待ちました。

 緊張の一瞬。そして返ってきた答えは……。


「そこは、接客の腕の見せ所だよ」


 …………。


 ああ、今の私はひどい視線を向けていることでしょう。

 疑いの眼差しとも言います。


 だって接客って……。

 専用の武具作成でも請け負うならともかく、ただ物を売るだけなのに、何ができるというんですか。


 しかし、ここで止めたところで事態は良くなりません。

 どうこう考えたところで、私に代案があるわけじゃない。対して、お兄さんに確かな案があるのは事実です。

 こうしている間にも、お兄さんは準備を進めています。


「もうここまで来たら、仕方ないと思って見守ってましたけど……。わざわざこんなふうに旗まで立てるなんて、私見たことないですよ……」


 お兄さんがやっているのは、言うなれば売り場への装飾です。

 これに何の意味があるのか、私にはさっぱりわかりません。


「大丈夫だよ。確かにここでは見たことが無いかもしれないけど、ちゃんと効果も実証されてることだからさ」


 でもお兄さんは自信満々な様子で、やっぱり笑っています。

 少なくとも、私を陥れようとなんてしていない。そう感じられる毒気のない無邪気な表情。


「……一応、期待してますからね」

「おう!」


 お兄さんは、素人考えでやっているわけではありません。

 確かに、その知識が使われていた世界はここではないです。でも徹夜してまで、私からこの世界のことを聞きだしていました。

 それを踏まえた上で、今こうしているんです。


 どの道このままじゃ、明日の食事もままならなくなります。こうなったらもう……。

 信じていいんですよね、お兄さん?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ