異端になっていく二人
わたしは、今日も翔さんたちをこっそり見てる。
「お願いします! この通りです悪いようにはしないから!」
「ああもうわかりましたよもうっ!」
えっと、見てる……けど……大丈夫かな。
二人ともすごく目立ってる。
少なくともマリーさんは、ああいうの、あんまりよくないってわかっているはずなのに。
「さて、と」
そんなことを考えていると、予想外のことが起きた。
話し合いを終えて移動を始めた翔さんが……これは、ここに向かってきてる?
「おはよう、アンシア! 今日もいい天気だね」
「あ……翔さん、お、おはよう……ございます」
はぁ……。わかってたのに、またはっきり返事できなかった。
翔さんは、初めて村に来た日から毎日、みんなに挨拶して回ってる。
これまで、目が合ったときに挨拶するくらいだったここでは、それだけでも充分目立つ。
もちろん、わたしも毎日挨拶される。
いつも、わたしにだけは少し小さめの声で。
きっとわたしの態度がこんなふうだから、余計な気を使わせちゃってるんだよね。
他の人とはしないのに、わたしとは少しお話しもしてくれるし。
「いつも一人で偉いね」
わたしは、目立つのは苦手。
今日は輪をかけて目立っていたから、今こうして来られちゃったのは、ちょっと困る。
翔さんを怖がる必要がないのは、もうわかってるんだけど……。
今日も、何かお話しするのかな。
「……気になってたんだけど、ご家族の人とかは? あ、他の店をやってるとか!」
「え……えと、おばあちゃんがいます、よ。でも体調、良くなくて、おうちで寝ています」
「そうなんだ……。早く良くなるといいね」
今日は、わたしの家族のことだった。
あんまり、聞かれたくはないこと……。そう思っていたら、翔さんはすぐにこの話を打ち切ってくれた。
わたしの気持ちを汲み取ってくれたのかもしれない。
すごくたくさん話す人みたいだし、そういうのが得意そう。
「アンシア、今日はお客さんとして来たんだ。それと、それ……あと、縫い針とかもしよかったら、貸してもらえたりする? 今日中には返すから」
気遣ってもらえていてもまだ、わたしにとって、翔さんの話すペースは速い。
他事を考えていたら、もう次の話題になっている。
「ありがとう、ございます。針も、えと、これでよろしければ?」
わたしはどうにか反応して、商品と言われた物を用意する。
言われるがままに渡しちゃったけど、よかったかな。
「それで大丈夫だよ。ありがとう!」
「……っ」
気になって、こんなに近くなのに翔さんの顔を見ていたのがよくなかった。
目が合ってしまったことに驚いて、つい顔を背けてしまう。
……また、やってしまった。こんな態度は失礼だと思う。
「じゃあまた後で。あ、何かあったら何でも相談してね。助けになるからさ」
「はい……。まいど、ありがとう、ございました」
気にしてないみたい。
でもやっぱり、普通にお話しすらできないのは……だめだよね。
翔さんは、怖い人じゃないみたいだけど、やっぱり声は大きくて。
大きな声は、やっぱり苦手で。
でも翔さんは、毎日わたしとお話ししてくれる。
これは、チャンスだと思う。
頑張って、一日でも早く……あ、でもそれより……。
戻っていった翔さんは、やっぱり目立ってる。
みんなこっそりだけど、それを見てる。
長い前髪で目線を隠してるわたしだけが、その様子をしっかり確認できてる。
この場所は……嫌いじゃない。
何も、嫌なことが起きないといいんだけど。




