表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/69

現状打開作戦2

 打開策の準備であるらしい投げ売り戦略。

 まずはこちらについて、私はお兄さんの話を聞きました。

 結論としては……お兄さんは結局、お父さんの作品の価値を低いと言っているんですよね。

 でも、言っていることはわかったといいますか……。

 すぐには納得できませんが、理解はした。そんな感じです。

 物の価値は、売り手である私だけが決めるものじゃない。

 要するにお兄さんが言っているのは、そういうことだと思います。


 私の店で扱う武具や金属関連の品は、基本的に高価な物です。

 しかし、基本的に大金を持って旅などしません。

 お客さんのほとんどが外の人たちであるこの村において、うちの店はこの上なく逆風が吹いていると言えます。

 商売は、お客さんが居なければ成り立たない。

 お兄さん曰く、需要の無い物はどれだけ安くても、どれだけ優れた物でも売れないんだ、と。


 言葉を濁して言っていましたが、つまり需要が無い物は、商品としてはゴミだと言っているんです。わかってるんですからね。

 

 物の価値と質は、一致するとは限らない。

 言われれば……いいえ、言われなくてもわかってはいたんです。

 でもだからってこんな……。

 儲けが出ないほどに価格を下げるなんて、先のこともわからないのに普通はできません。今までなんとかやりくりできていたのですから、なおさらです。

 お兄さんみたいな経験を積んだ商人なら、これくらい当たり前なんでしょうか。

 実際、先の見通しができているのか、まるで恐れていない様子です。きっと、珍しくはないことなんでしょうね。


 もう一度、自分に言い聞かせましょう。

 “この村での”商売において、確かにお父さんの武器の価値は低いのかもしれません。

 でもお兄さんは、決して質を低いとは言っていない。思ってもいない。

 はい、そういうことです。


「そういうわけで、どうかな? マリー」

「……とりあえず、お兄さんが何を考えて、お父さんの武器をさらに安く売ると言ったのかはわかりました」


 しかし、まだです。


「でも、やっぱりお兄さんはわかっていません」


 当然ですよね。

 だって今聞いたのは、価格を下げるに値する理由だけ。

 その先について、私は納得のいく説明を聞かなければなりません。


「確かに、価値をわかってくれるお客さんは多いです。わざわざうちで買うくらいですから。でも、一度値段が下がったものを、また元の値段で買ってもらえるとは限りません。いいえ、実際に……買ってもらえなくなりました」


 私がお母さんの代わりに、店を始めたばかりの頃……。

 今みたいに、家計が回らなくなったことがありました。

 その時の私は、何をしても商品を売るしかないと慌てていて。

 なんの知識も考えもなく、目の前のお客さんに安い値段を提示しました。

 無事それで食い繋いだのは、紛れもない事実なのですが……後日どうなったかは、お兄さんに言った通りです。


「それは、今売ってるみたいに、元の価値より値を下げたってことだよね」

「そうです。一度安い値段で買ってしまえば、もうお客さんは元の値段に納得しません。買ってくれるのは、価値をわかってくれて、且つ人の良い方だけになってしまいます。そうなったら、それこそもう……常連さんたちがたとえ数人でも、今の値段で買ってくれなくなってしまったら、もうやっていくことができません……。それについてはどう思っているんです?」


 これは本当に重要なことです。

 下手なことをしてしまえば、もう店が続けられません。

 お父さんに合わせる顔だって無くなってしまいます。あれだけの物を作れるお父さんが、鍛治を続けることすら難しくなる。


「それについては……」

「……ついては?」


 全てはこの返答次第。

 さあ……いざ!


「そのとおりだね!」


 ……こんなに強い苛立ちを覚えたのは、初めてかもしれませんねえ。


「へえ……」

「待って待って、同じように値下げをするつもりはないんだ」


 この人は、悪びれもせず笑顔のままで……。


「同じように値を下げない? 値段を下げるのに、同じも何もないじゃないですか」

「確かに値段自体は、ただ下げるだけだよ。でも、今みたいには売らない」


 うう……さっぱりわかりません。


「一体どういう……?」

「それについても説明するって! だからマリー……」

「は、はい!」


 私は驚いて、少し声が裏返ってしまいました。

 だってずっとヘラヘラとしていたお兄さんが、急に真剣な顔をするから。


 何を言われるんでしょう……。

 もしかしたら、私の想像できないような――


「少しで構いません! お金を貸してください!」


 ――…………。


 私はこの日、人を見下す目というものを覚えてしまいました。


 この状況でお金をくれって……なんなんですか、なんなんですかもうっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ