現状打開作戦2
打開策の準備であるらしい投げ売り戦略。
まずはこちらについて、私はお兄さんの話を聞きました。
結論としては……お兄さんは結局、お父さんの作品の価値を低いと言っているんですよね。
でも、言っていることはわかったといいますか……。
すぐには納得できませんが、理解はした。そんな感じです。
物の価値は、売り手である私だけが決めるものじゃない。
要するにお兄さんが言っているのは、そういうことだと思います。
私の店で扱う武具や金属関連の品は、基本的に高価な物です。
しかし、基本的に大金を持って旅などしません。
お客さんのほとんどが外の人たちであるこの村において、うちの店はこの上なく逆風が吹いていると言えます。
商売は、お客さんが居なければ成り立たない。
お兄さん曰く、需要の無い物はどれだけ安くても、どれだけ優れた物でも売れないんだ、と。
言葉を濁して言っていましたが、つまり需要が無い物は、商品としてはゴミだと言っているんです。わかってるんですからね。
物の価値と質は、一致するとは限らない。
言われれば……いいえ、言われなくてもわかってはいたんです。
でもだからってこんな……。
儲けが出ないほどに価格を下げるなんて、先のこともわからないのに普通はできません。今までなんとかやりくりできていたのですから、なおさらです。
お兄さんみたいな経験を積んだ商人なら、これくらい当たり前なんでしょうか。
実際、先の見通しができているのか、まるで恐れていない様子です。きっと、珍しくはないことなんでしょうね。
もう一度、自分に言い聞かせましょう。
“この村での”商売において、確かにお父さんの武器の価値は低いのかもしれません。
でもお兄さんは、決して質を低いとは言っていない。思ってもいない。
はい、そういうことです。
「そういうわけで、どうかな? マリー」
「……とりあえず、お兄さんが何を考えて、お父さんの武器をさらに安く売ると言ったのかはわかりました」
しかし、まだです。
「でも、やっぱりお兄さんはわかっていません」
当然ですよね。
だって今聞いたのは、価格を下げるに値する理由だけ。
その先について、私は納得のいく説明を聞かなければなりません。
「確かに、価値をわかってくれるお客さんは多いです。わざわざうちで買うくらいですから。でも、一度値段が下がったものを、また元の値段で買ってもらえるとは限りません。いいえ、実際に……買ってもらえなくなりました」
私がお母さんの代わりに、店を始めたばかりの頃……。
今みたいに、家計が回らなくなったことがありました。
その時の私は、何をしても商品を売るしかないと慌てていて。
なんの知識も考えもなく、目の前のお客さんに安い値段を提示しました。
無事それで食い繋いだのは、紛れもない事実なのですが……後日どうなったかは、お兄さんに言った通りです。
「それは、今売ってるみたいに、元の価値より値を下げたってことだよね」
「そうです。一度安い値段で買ってしまえば、もうお客さんは元の値段に納得しません。買ってくれるのは、価値をわかってくれて、且つ人の良い方だけになってしまいます。そうなったら、それこそもう……常連さんたちがたとえ数人でも、今の値段で買ってくれなくなってしまったら、もうやっていくことができません……。それについてはどう思っているんです?」
これは本当に重要なことです。
下手なことをしてしまえば、もう店が続けられません。
お父さんに合わせる顔だって無くなってしまいます。あれだけの物を作れるお父さんが、鍛治を続けることすら難しくなる。
「それについては……」
「……ついては?」
全てはこの返答次第。
さあ……いざ!
「そのとおりだね!」
……こんなに強い苛立ちを覚えたのは、初めてかもしれませんねえ。
「へえ……」
「待って待って、同じように値下げをするつもりはないんだ」
この人は、悪びれもせず笑顔のままで……。
「同じように値を下げない? 値段を下げるのに、同じも何もないじゃないですか」
「確かに値段自体は、ただ下げるだけだよ。でも、今みたいには売らない」
うう……さっぱりわかりません。
「一体どういう……?」
「それについても説明するって! だからマリー……」
「は、はい!」
私は驚いて、少し声が裏返ってしまいました。
だってずっとヘラヘラとしていたお兄さんが、急に真剣な顔をするから。
何を言われるんでしょう……。
もしかしたら、私の想像できないような――
「少しで構いません! お金を貸してください!」
――…………。
私はこの日、人を見下す目というものを覚えてしまいました。
この状況でお金をくれって……なんなんですか、なんなんですかもうっ!




