夜の質問会
あ、あー……?
私はいったい何をやって……ああそうです。
村のことを説明しないといけませんね。
ここは、山の中腹にある名もない寂れた村。
特徴といえば、外れに神樹様が立っていることくらい。何もないところです。
そんなこの村ですが、十年ほど前までは、今ほど寂れてはいませんでした。
溢れるほど……とまではいきませんが、少なくとも今よりは活気があったと記憶しています。
ではなぜ、ここが今のようになったのか。
それには理由があります。一本、新しい道ができたからです。
不便な山奥。そこに道ができたのなら、むしろ賑わってもいいはず。
はい。そうだったら本当によかったです。
その道がこの村に通じるものであったなら、きっとそうなっていたんでしょうね。
周りに何もないところですが、それでもここから近いといえば……という人里は必ずあるものです。
この村からなら、主に二箇所。
一つは王都の方角にある石の町。もう一つは、ここから更に山奥にある国境沿いの砦町。
これらの町についての詳しいことは、今は置いておくとしましょう。というか私も詳しくありません。
重要なのは、うちの村を含めた三箇所の位置関係なんです。
うちの村が位置しているのは、この二つの町の間。
以前は、砦町に行くならうちの村を通るのが当たり前でした。
何日も掛かる道中ですから立ち寄る人は多かったし、補給のために市場で買い物をする人もたくさん居ました。
でも、それが一本の道によって変わってしまったんです。
うちの村は、道中にこそありましたが、二つの町の直線上というわけではありませんでした。
もう察してもらえてると思います。
その新しい道というのは、町と町をほぼ直線で繋いでしまうものだったんです。
それにより、うちの村に寄る経路と比べて、町から町への移動にかかる時間は、ほぼ一日短縮されました。
途中、うちという村で補給や休憩をすることができないので、全ての人がその新しい道を使うわけではありません。
それでも健脚な人たちは、新しい道を使うことが多くなりました。
国の最端にある砦町は現在の前線。人も、物資も不足しがちだと聞きます。
そこへより早く行けるようになったとあっては、文句を言うこともできません。
私たちは、黙って受け入れるしかなかったんです。
これが、ここ十年この村が衰退し続けている理由。
むしろ、よく今も市場が潰れることなくもっていると言えるでしょう。
ああこれで、お兄さんが主に知りたがっていたことはわかるはずです。
ちゃんとまとめてみれば、これだけ早く伝えられたんですね。
でも仕方がないじゃないですか。こんなこと、誰かに説明しようとしたことなんてないんですから。
他にも細かいことをこれでもかと聞かれましたからね。聞かれるがまま、あたふたと答えていては、こうなるのも当然ですか……。
表では、チチチ、チチチと、野鳥が元気に鳴いています。
はい。もう夜明けです。
「まさか、本当に寝させてもらえないとは思いませんでした……」
「ごめん、つい興奮しちゃって」
「……わざと言ってます?」
「え?」
「なんでもありませんっ!」
せっかく男女だというのに、それらしいことなど全くない一晩でした。
お兄さんに説明する気力は、もうこれ以上残っているはずもありません。
「夜通し付き合わせて悪かったよ。でもおかげで、とりあえず何を試してみるか、大体決めることができた」
「はあ……それで、まずは何をすると?」
「うん。とりあえず……倉庫にあるっていう商品、全部見せてもらえる?」
一睡もしていない私は、頭が上手く回らなくて。
言われるがままに、フラフラと倉庫へ案内するのでした。




