お兄さんを引率して3
私は、さっそく残ったソウさんに話しかけます。
「えっと……なんで知らないふりを?」
「いやなに、あたしはあたしで、噂の男を見定めてやろうと思ってね。先入観無しに話してもらおうと思ったのさ」
「はあ」
「ほら、マリーちゃんと通じてるってわかったら、あたしにだけいい顔をするかもしれないだろう?」
「ああ、そういうことですか」
ソウさんの立場を考えて、納得しました。
翔さんが信用できるかどうか。当然、私の見立てを鵜呑みするわけにはいきません。
まあ、もっとも……。
「ま、聞いていた通り、警戒するような危ない奴じゃあなさそうだねあれは」
「なんか、もう……お恥ずかしいです」
ああ、ソウさんに笑われてしまいました。
それはそうなるでしょう。
当の翔さんはといえば、私が小さい頃と比べても元気すぎるくらいです。
そんな無邪気で、騒がしい挨拶をしながら市場をぐるりと回っています。
「とりあえず、ほとんどの奴らからは、別段嫌われはしないだろ」
「そうですよね。悪い人には全然見えません」
「んー……?」
なぜでしょうか。
唐突に、ほんの一瞬、ソウさんがいやらしい笑みを浮かべた気がしました。
「嫌な奴じゃない、ならわかるけどね。随分と警戒を解くのが早いじゃないか。まだ数日だろう?」
「……まあそれはそうですけど」
隠れてやっていたことがお子様過ぎて……というのは、さすがに名誉のために黙っておいてあげましょうか。
「ふうん……まあよかったじゃないか。可能性はありそうだね」
あ、これソウさん、私と翔さんがくっつくかもってこと言ってますね。
でも残念ながら、私の中では既にその候補から外れてしまいました。
「ただ……わかってるね?」
「っ!」
真剣な話に変わった。
それが明確にわかる声でした。
「ちゃんとマリーが手綱を引くんだ。あんまり勝手させすぎると……」
「……わかっています」
「ならいい」
そう言うと、ソウさんは自分の店へと戻ってしまいました。
忠告はもっともです。
だって……私たちは今、とても危ういから。
挨拶回りも、もう充分でしょう。
さっそくですが、お兄さんを呼び戻すことにします。
「お兄さん、こっち手伝ってもらえますか?」
「うん。今行くよ」
そして、すぐに言うべきことがあります。
「あんまり目立つことは控えて下さいね。ここではお兄さんは……何もしなくても目立ちますから」
「うん。無闇に目立とうとは思わないけど……」
思ってなくても、目立ちに目立っていたのですが……。
お兄さんが居たところでは、あれくらい普通だったということなんでしょうね。
……それから、目立つ理由はさっきの行動だけではありません。




