お兄さんを引率して
翌日。
約束通り、お兄さんと村へ向けて歩いているところです。
「へえ……結構近くに村があったんだ」
「はい。大体15分くらいの道のりですね」
それにしても、流されるままに連れて行くことにしてしまいましたが……大丈夫でしょうか。
やっぱりもう一日待ってもらって、連れて行くことを、先にソウさんやみんなに伝えていた方がよかったような気もします。
あと、もう一つ、目の前の問題が……。
私はちょっぴりドキドキしながら、翔さんに声を掛けてみます。
「お兄さん! 平気ですかー! 荷物、持ちましょうかー!」
「大丈夫だよ! なーにこのくらい!」
とりあえず、変だとは思われてないみたい。
私は内心ほっとしました。
ずっと呼び方に迷っていて、まだ一度も『翔さん』と呼んでいなかったのも、よかったのかもしれません。
「あと少しですから、頑張ってくださいねお兄さん」
遅れていたお兄さんが、駆け足で追いついてきました。
目の前の問題というのはこれです。お兄さんが、いつものペースについてこられないのです。
「この道を毎日、荷物を担いで往復って大変じゃない? 村があるのなら、そこに住むわけにはいかないの?」
「うーん、まあ色々ありましてー」
お父さんの無愛想とか。
「そうなんだ」
「それに村からだと、今度はメルクリウ様の所が遠くなってしまいますからね」
「それって、神樹様の名前だっけ?」
「はい。特に何をしているわけじゃないんですけど、定期的に様子を見に行っているんです。極々稀にですけど、異変があったりしますからねー?」
あなたのことですよ?
なんてことを言外に伝えてみると……笑うしかないって顔をしています。
本当に……この人はよく笑いますね。
おしゃべりをしながらも進み続けます。休憩を挟んであげたいとことですが、市場は早くから開くので、遅れるわけにはいきません。
やっぱり私が荷物を持った方がいいんじゃないですかねー。
頑なに自分が持つって……。どうして意地を張るんでしょうか。
確かに最初は、行き帰りの荷物運びを手伝ってもらうって話でしたけど。
私が毎日運べていた荷物に、お兄さんがここまで苦労する理由。それは魔術の有無です。
驚くことに、お兄さんは魔術が使えないみたいで。だからこれは、仕方のないことなんです。
物心つく頃にはみんな使ってるものなので、うっかり忘れていました。
それを考慮すると、お兄さんはむしろ体力のあるほうだと思います。身体強化もなしに、あの中身が金属だらけの鞄を背負って、この山道を歩いているんですから。
中身は鞄が破れない程度しか入ってませんし、私だって持つだけならできます。
でもこうして運べるかといえば……厳しいですね。お兄さん、本当に大丈夫でしょうか。
魔術のことを話して、荷物持ちを変わればいいのはわかっています。
でも……お兄さんのこのやる気に満ちた態度。
それから、昨日見た様子から察するに、魔術に変な憧れを持っていそうなところ。
それなのに、ここでは魔術はありふれたもので、にもかかわらずお兄さんにはおそらく使えない。
夢を壊してしまって、落ち込んだりしないでしょうか。
そんなこんなと考えているうちに、私たちは村の近くまでたどり着いてしまいました。
せっかくずっと会話をしていたのに、どうにも言い出せませんでした。
ま、そのうち知ることになりますか……。
「お疲れさまです。あとは市場まで行けば到着ですよ」
お兄さんは、安堵の表情を浮かべています。限界が近かったんでしょう。
本当に憎めない人。
でもやっぱり、イメージは弟ですね。
無理して頑張って、姉を手伝ってくれるかわいい弟……。
仕方がないので、私は少しだけ歩を緩めて。
最短ルートで、持ち場へと先導するのでした。




