新しい家族3
夜。
ベッドで横になり、私は一日を振り返ります。
今日も色々あって、やたらと長く感じました。
おかしいな。実際は、一日のほとんどが変わってないのに。
それでも長かったように感じるのは……やっぱり、これまでとの差のせいですかね。
ここ十年……本当に、何も変わらないと言っていい毎日でしたから。
変わらぬ生活に変化をもたらした人。
同じ部屋の床で眠る翔さんを、私はまたなんとなく見つめます。
寝ている時は、当たり前だけど静かなんですよね。
幸せそうな寝顔しちゃって……ちょっとかわいいくらい。
でも……。
ここで私は寝返りを打ち、翔さんから視線を切りました。
私はちょっと勘違いをしていました。付き合いのある人が増えることなんて、もうずっと無かったから。
翔さんのこと、どんな人なのかわかってきたと思ってた。
でも今日だけで、子どもっぽいところに、押しの強いところと……。
そうですよね。
そんなにすぐに、どんな人なのかなんてわかるはずありません。生まれてから、ずっと村に居るみんなとは違うんです。
……もっとも、村のみんなのことならよく知っているかというと、そんなこともないですが。
話をすることなんて、ほとんどありませんからね……。
また寝返りを打ち、なんとなく翔さんを視界に入れます。
その点、既にこの人とは話をしている方です。
それこそ市場で何年も一緒の何人かより、もう会話の量が多いくらいに。
……それもそのはずですよね。
だって……こうして一緒に住んでいるんですから。
同じ家で、同じ食事をして、同じ部屋で寝る。
その上、自分にできることはないかとあんなに必死になってくれて。
新しく付き合いの始まった人というより、まるで家族のようです。
家族……ですか。
私はあの日からずっと、お父さんと二人きりでした。
もし翔さんが家族なら……私とどんな関係でしょう。
ここまで接してきた印象だけで言うなら、決まってるんですけどね。
はい、弟です。
落ち着きなく子どもみたいにはしゃぐので、どこか放っておけません。
とはいえこの人、年上ですしね。
弟じゃないなら……兄?
そうですね。おじさん……と呼ぶほどの歳にも見えませんし。
兄……お兄さんですか。
「お兄さん……」
実際に口に出して呟いてみます。
もちろん相手は寝ているので、返事は返ってきません。しかし目的は果たしました。
呼んでみた感じは……悪くないですね。
本当は、普通に『翔さん』って呼べばいいとわかっていました。
きっと私は、少し寂しかったんだと思います。
お父さんは居ても、ずっと静かで話し声のない家で暮らしてきて。
そんな時に、うるさいくらいのこの人が来たから。
それから、ちょうど将来の伴侶候補という他人の枠から、外したりなんかしたものだから。
それなのに、この人は今距離が近くて。
だからふと、家族みたいに呼んでみたいって……。
べつに、おかしくはないですよね。翔さんくらいの男性の呼び方としては。
ソウさんも、翔さんくらいのお客さんを『にいさん』なんて呼んだりしますし。
ちょっと違う気もしますが……まあ変じゃなければそれで。
どうもぼーっとしている気がします。
あれこれと考えていて、夜更かししすぎたかもしれません。明日のことは、明日考えることにしましょう。
あれ、私……明日のことを考えながら寝るなんて。
これも随分と、久しぶり……ですね……。
慣れない考え事が尽きぬ中……こうして私は、とある一日を終えたのでした。




