新しい家族2
その後はつっこむ気にもなれず、黙って二人で帰ってきました。
「あ、ストスさん。ただいま戻りました」
「……」
こういうところは、しっかりしていていいんですよね。
むしろ駄目なのは、無愛想すぎるお父さんの方。見習ってほしいくらい。
一日に一度もしゃべらないことだって多いし……。
水を飲んで工房に戻ったお父さんが、もう作業に戻っています。
いつも通りの金属音を聞きながら、食事の準備を進めていく。
……もっとも、そんなに大してやることはありません。
「準備できましたよ。ご飯にしましょう」
「ありがとう、頂くよ」
こうして誰かと一緒に食事をするのも、随分と久しぶりだったんですよね。
無駄に笑顔で明るいこの人が一緒だと、まるで自分の家ではないみたい。
慣れていないという意味で、まだまだ気になる目の前の人を、なんとなく見ていた時でした。
「あっ……」
空腹を訴えるお腹の音が、しっかりとこちらまで届いてきたのは。
「……ごめんなさい」
「いやいやいや! こっちこそ本当ごめんね。ほら、今日俺極意だーとか馬鹿なことやってたからね。本当ごめんね!」
翔さんがお腹を鳴らすのも当然です。
今日の食事も、昨日の食事も。一人当たりの分量は、子どもでも充分かわからない程度しかありません。この人は身体も大きいですし……。
「えっと……そうだ。馬鹿なことする余裕もできてきたし、もっと何か手伝うよ。行くあての無いところを世話してもらって、俺本当に感謝してるんだ。日中は何をしてるの? いつも仕事だってどこか出かけちゃうけど」
「あ、そんな……。大丈夫ですよ。マキ割りとかをしてくださっているだけで、お父さんが仕事に集中できて、助かってますから」
ふんぞり返って、食べさせてもらって当然みたいな態度をとる人なら、気は楽だったのに。こういう人だと、なんだか申し訳なくなります。
この人を家に置いたのは、私が自分の意思でしたこと。お腹いっぱいとは言わなくても、もう少しくらい食べさせてあげたい。
でも……本当に余裕がないんですよね。
「まあまあ、そう言わずにさ。ひょっとしたら、もっと力になれるかもしれないし、何してるか教えて?」
出会ってから初めてここまで押してきたのも、この手伝いたいという申し出です。
いい人……なんでしょうね。
見知らぬ土地で、家族や友人も居ない。突然そんな状況になったはずなのに。
私が同じ境遇になってしまったら、きっと何もかも投げ出してしまいます。もういいや……って。
もう……。
……なんて。
気落ちしている場合ではありませんでした。返事をしなければなりません。
「では手伝っていただくかは別として、お答えしますけど……まあお店です」
「お店!?」
「ひゃ!? なんですか! 急に大きな声を出さないでください」
そんなにおかしなことを言ったでしょうか。
この人の元居た世界では変なことだったり?
でも先日お話していた時、割と似た世界だって言っていましたよね……。
「そうか、お店ね……。えと、大変じゃない? やっぱり俺も手伝ったり……」
「まあ、確かに大変ではありますよ。慣れてるとはいえ、重いですし」
「お、重い……」
「でもやっぱりいいですよ。あまり目立つのも良くないですし、そんなにやることもないですしね」
「そ、そうなの?」
大変なのは行き帰りくらいで、あとは本当にやることがないですからね。
とはいえ、そのうち村には一度案内するつもりでしたし……。
「どうしても、と言うなら考えますけど……。行き返りで手伝っていただければ助かりますし」
「な、ナニを手伝うの!?」
どうしてこの人は慌ててるんですかね。
自分から手伝うと言っておいて……。本当に落ち着きがない。
「それはもちろん……」
「う、うん」
「武器の運搬に決まっているじゃないですか」
私と翔さんの間に、なぜか生まれた原因不明の間。
その後、なぜか妙に冷静になった口調で、向こうが会話を再開しました。
「武器の運搬?」
「はい。正確には武器以外もありますけど」
またしても、謎の間。
「つまり……金物屋みたいなもの?」
「まあそんな感じです。正確に何屋だって謳ってるわけでもありませんが」
今度は妙に納得した様子です。
なんなんですかいったい。
「そうか、お店か……。ねえマリー? もしよかったらなんだけど、やっぱりそれ、手伝わせてくれないかな」
「はあ、でも……」
何を考えてるかあまりにわからなくて、ちょっと不安になってきたんですが。
「もしかしたら、力になれるかもしれない」
「それは……一体何を根拠に?」
何も……知らないくせに。
「俺も、前の世界では商売をしていたんだ。これでも店長だったんだよ?」
結局勢いに押し切られた私は……明日、翔さんを村へと連れて行くことになりました。




