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 世界は、無数に存在する。

 例え、一つ一つの世界から、他の世界が観測できなくても……。

 それは、確かに存在している。

 今、一つの世界が危機に瀕していた。その危機がもたらす悪循環により、自力で立ち直ることができないほどに……。


 とある一つの世界。

 そこに、別の世界を観測できる特別な存在が居た。


「うむ……。やはり、こやつしかおるまい」

(この世界を救う為、協力して貰うぞ)


 それは、俗に神と呼ばれる存在。

 一口に神と言っても、その在り様は多岐に渡る。

 この世界においては……象徴たる神を指す。世界に事象が繁栄することで生まれ、その事象に対して加護をもたらす。ますますの発展が叶えば、神もまた力を増す。

 相互に影響を与え、双方が成長していく。

 この世界の神は、そういう仕組みでできていた。


(それにこやつは……、何という星の元に生まれたんじゃ。このままではあまりに不憫すぎる。いっ

そ苦労があろうとも、こちらへ呼んでやった方が、救われるというものだ。……もっとも、我の勝手な都合に過ぎぬのは、百も承知だが)


 人間を模し、中性的な容姿を持ったその神は、苦い表情で見つめていた。


(いずれにせよ、もう他を探す猶予は無い)


 いくつかの世界同士には、繋がりが近づく周期が存在している。

 それはこの神であっても抗えない。その神自身が存在を置く世界の大前提。


(力は有限……。ただでさえ、現実へ干渉するのは大変なのだ。今を逃せば、我の力で手が出せるのは、また何年後になるか……)


 神は、映し出す先を自らの世界、その未来の情景へと切り替える。

 そこに映るのは、絶対なる世界からの、抗いようのない災い。


(こちらへ呼ぶのが遅くなれば、この未来を変えるのも難しくなる。近づけば近づくほど、変化が入り込む余地は減り、この世界の消滅が確定してしまう)


 神であろうと、一つの個を持つ存在。

 迷いもあった。しかし、これはこの世界で、神々が話し合い決めた。間違いなく必要なことだった。

 ……そんな迷いが、一つの歯車を狂わせる。


(そう、この世界のためだ……)


 再び視界を切り替え、自らの世界……そこにある自らの象徴から見える景色を映し出す。

 それを見つめ、緑豊かなこの世界を守るためにと、覚悟を決めるつもりだった。


(また来ておったのか。参拝などしても、何も……な……)


 そこに映ったのは、この世界において、普通に起こり得るものだった。

 ただしそれは……時に酷く、残酷な場合もある。


(仕方の無いことだ。これは……)


 ここで起きた凄惨な出来事も、まぎれも無い現実として享受され、この世界はまだ続いていく……はずだった。


『――――――あ゛う゛え゛ぇえ!!』

(――っ!)


 それはもはや言葉では無く、ただの叫びと化していた。

 しかしそれでも……この上なく、強い意味を孕んだ叫び。

 助けを求める慟哭――。


(ああ、我は……我はなんということを)


 神が思う嘆きは、目の前の悲惨な現実を、見て見ぬ振りしたことへの無力……。

 ()()()()()()()()()()()()()


(わかっていたことだ。この世界であろうと、あやつが居る世界であろうと……。現実に干渉するのに、多大な力が要るということは。これでは、呼ぶどころか加護すらも……)


 神は、自らの行いを悔いた。その短絡的な行いが招く事態を、痛いほどわかっていた。


(意識が落ちる。今は回復のためにも、眠るしかない。……皆……すまない)


 映し出している光景では、小さな女の子が、父親に寄り添いながら泣いている。


(半端なことをして、これまでの準備も全て……)


 父親の身体からは血が噴き出し、そこには片腕が無かった。助かるかは、この世界においてもわからなかった。


 何が、神様じゃ――。

 



 とある世界。

 ここには、豊かな自然と不思議な力があった。

 それをこの世界の人々は、魔力と呼んだ。

 歩き、走り、言語を使い……そして、魔術を使う。そんな当たり前のものとして、魔術が生活に根付いていた。

 そんな世界にある辺境の村に、両親と娘一人の家族が居た。


「んぅー、わかんない。どうしてお母さんは、お父さんのかんがえてることわかるの?」

「ふふ。確かに、この人は無口だもんね。でもね……うーん」

「なんでー……?」

「そうね……。マリーにも、将来気になる人ができたらわかるわよ」

「……やっぱりわかんない」

「……」


 仲の良い三人家族。

 無口な父親と、それを補って余りあるほど明るく、朗らかな母親。そして、娘のマリー。

 まだまだ無垢で、世界が違えば、幼稚園に通っている年頃の女の子。しかし、この世界では違った。

 近い年齢の子と交流する機会も少なく、マリーにとっての世界は、ほぼ両親が全てだった。

 しかし、そんな狭い世界であっても、マリーは間違いなく幸せに暮らしていた。

 時は戦時下で、決して裕福な暮らしでは無い。この世界の平均と比べても、不便と言える暮らし。それでも愛情を注がれ、元気に育っていた。

 そんな家族には、一つの習慣があった。

 それは、神樹を見守る事。今も、そこへ向かう最中だった。

 山奥で確かな存在感を放ち、佇む……。いつからか、神が住まうとされた一本の大樹。

 マリーの家族は、それを見守る役目を継いでいた。もっとも、かつて成された神事などは風化し、役目と言っても、本当に見るだけとなっている。伝統ではなく、習慣的な参拝だった。

 やがて三人は神樹の元へたどり着き、その様子を確認していく。


「きょうも、きれい」

「そうねえ」


 微かな光を放つ新樹は、神秘的な空間を演出していた。

 マリーにとって、自分の住む小さな家以外で、唯一知るステキな場所……。

 ――そこに、何の前触れもなく影が落ちた。


「……え?」


 それは、初めて見る生き物だった。

 目立つのは、翼と同化した腕。人間より二回りは大きい体躯。威圧感を放つ暗い色。

 この世界で、魔物と呼ばれる生物――。


「マリーー!」

「っ!!?」


 魔物が空から降り立った時、一番近くに居たのがマリーだった。それを庇う為、両親が間に割って入る。

 しかしそれは、一瞬の出来事すぎた。


「え……」


 先程は、まだ疑問に思っただけだった。

 しかしたった今マリーが発した声は、呆然自失なままこぼれ出たもので――


「っあ゛……!?」


 それは、父親の呻き声。マリーがそれを聞いた時には、何もかもが起きた後だった。

 魔物の腕が、マリーへ振り下ろされた。

 庇った父親の片腕が、吹き飛んでいた。

 そしてそこに、もう母親と呼べるものは無かった。残ったのは、少し前まで人間だったもの……。


「……」

「マ、リー……」

「あ……ぇぁ……」


 マリーは、何が起きたのか理解などできていなかった。

 でも、さっきまで見つめていた綺麗な樹も、母親も目の前には無い。見えているのは、止まることなく血を流し続ける父親と、見たことも無い生き物だけ。自分の倍以上に大きい……重たく、暗い色――。


「っぁ……ぁぁあ゛えあ゛あ゛う゛え゛ぇえ!!」


 マリーは訳も分からず叫んでいた。それでも本能によるものか、恐怖心から助けを求めた。

 誰か助けて――。

 しかし、ここは森の奥。魔物に対抗できる“人間”で、間に合う者はどこにも居なかった。

 この小さな幸せを築いていた家族は、ここで息絶える。そんなつらい現実があるはずだった。

 ――光が、その場を包んだ。

 マリーの視界を埋め尽くしていた闇は、それによって打ち消されていく。

 その突然の光が徐々に薄れ、消えた時……。


「おとう゛さん゛……ね゛え……」


 そこに残ったのは気を失い、地面に倒れ伏す父親。無くなった腕の断面からは、今も血が流れ出ている。


「う゛……ぇ――」


 そして、泣き叫ぶマリーと……光を失った神樹があった。




 ……。

 …………。


 ……我は、どれほど眠っていた?

 とにかく、状況の把握……。

 ……。

 これは……何という……。

 可能な限り早く回復するためとはいえ、意識を完全に断ったのは失敗だったのか?

 ……いや、じゃが呼ぶしかない。力はまだ足りぬ。しかしあやつの居る世界が近づく機会はもう無い。ここで再び意識が飛ぼうと、やるしかないんじゃ。

 新しい勇者を探す時間も無い。

 こやつは……随分と、歪んでしもうておる。これも、我のせいか……。

 ……いくぞ。

 ……やはり、力が。これでは存在を引きこめても、この世界に適した肉体へ変化することも、力を授けることもできぬではないか。

 このまま、同じ形を取る他ない……。

 それでも、こやつなら。

 これほどの才覚、魂を持って生まれたこやつなら。

 抱える歪みも、この世界も、もしかしたら……。

 無理を押し付けて、すまない。

 しかしこやつは、元の世界に居ても幸せにはなれまい。

 ならばせめて、可能性だけは残るこの世界で――。




 無数に存在する世界。

 本来、この世界同士が交わることは無い。

 しかしそれが、時に何かの意志を持って繋がることがある。

 これは、世界を越えた繋がりの話――。

 この小説はhttps://ncode.syosetu.com/n3237eb/

 この作品と同一の世界で起きた出来事の別の視点、別ルート的なものです。それにより、前作の謎が解明されるなど、相乗的に楽しくなる読み物にしたいと思っています。

 開いてくださった方は、両方読んでくだされば嬉しいですし、片方でも楽しめるものにしていこうと思います。

 こちらの作品の続きは、しばらく間を頂いてから連載していきます。

 その際は是非とも応援をお願いいたします。

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