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それを見た男が後ろに下がった。
しかし真琴が右手を軽く上げると、その動きが完全に止まった。
真琴が俺たちのほうを見た。
「逃げなさいと言ったのに、困った子たちね」
「……」
「……」
「そんな悲しそうな顔をしないで。これが霊能者の運命。私たち一族のたどってきた道なの。私はその使命をまっとうしたのよ。そこに一片の後悔もないわ」
「……」
「……」
「あなたたちに言っておくわ。人間はいつ死ぬかわからないし、必ず死をむかえるの。だから今を、今日を、毎日をせいいっぱい生きなさい。けっして後悔などしないために」
「……」
「……」
「わかったの?」
「……はい」
「わかりました」
真琴は男を見た。
男の色は赤から元の青白い色に戻っていた。
「ほんと、手間とらせてくれたわね。でもね、こっちは一つしかない命まで捧げたんだから、きっちりあの世に行ってもらうわよ。私といっしょにね」
真琴は男に歩みよると、抱きついた。
そして俺たちを見て笑った。




