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真琴はそう言うと、何かをぶつぶつと呟き始めた。
それはかなり小さな声の上に、どうやら現代の日本語ではないようで、俺には何を言っているのかさっぱりだった。
単語の一つすら聞き取れなかった。
そしてしばらくすると真琴が手を離して立ち上がった。
「終わったわよ」
「えっ、もうですか」
「そう。あの子は行くべきところへいったわ。もう二度と現世には戻ってはこないでしょう。それじゃあやることはやったし、私はもう高知に帰らないと。ほおっておけない姉がいるしね」
真琴は部屋を出て階段を降りた。
ついて降りると、としやが下で待っていた。
天野真琴の除霊。
ちょっと前のとしやなら見逃したら一生後悔するであろうことを、自ら見ることを放棄したのだ。
「……」
俺は何も言えなかった。
真琴が軽く微笑むと、としやの肩を叩いた。
そして真琴は家を出ようとしたが、不意に立ち止まった。
そして何かを見ていた。
そこに何かがいた。




