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「そんなにひどいんですか?」
「ひどいわよ。まあ、よくないものが五十年以上もここにいたからね。まわりもその負のエネルギーによって、徐々に変化するのよ。でも、それにしても……」
真琴は見える範囲を隅々まで見た。
その様子は何かを気にしているように、俺には見えた。
「ちょっとひどすぎるわね、ここ。子供の自縛霊一体で、ここまでになるなんて。ちょっと不自然ね」
真琴はまだあちこちを見ていたが、やがて前もって知っていたかのように迷いなく階段に向かうと、そこを登った。
俺がついていくと、真琴はすでに左の何もない部屋に入っていた。
「ここね。間違いないわ。君に憑いている子供が殺されたところ」
なんとなくそうではないかと思っていたのだが、やっぱりそうだった。
ここに何もないのは、全てをなくすことによって子供の存在自体を後世に残さず、事件そのものをなかったことにしようと意思が働いたからなのだろう。
誰がそうしたのかまではわからないが、母親をふくむ身内の誰かだと思われる。
二人で見ていたが、やがて真琴が言った。
「それじゃあ始めるわよ。いいわね」
「はい」
真琴はしゃがみこみ、両手で俺の右足を掴んだ。
先ほど強烈な痛みがあったところだ。
「うん、ここにいるわね」




