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近くにいる人のほとんどが、眉をしかめてとしやを見ている。
俺はその人たちと目があう度に、申しわけなさそうに頭を下げて、としやのわき腹を肘でつついた。
しかしそんなもので大人しくなるとしやではなかった。
としやが一旦黙ったのは、高知に着いて電車が止まったときだ。
それでも電車を降りてしばらく歩くと、再び先ほどと同じような状態になった。
たださっきと違って移動し続けているので、同じ人間がずっと傍にいることはない。
なので俺はもうほおっておくことにした。
早口で何かをしゃべりながら、としやはどんどん歩く。
行き先は事前に調べてわかっているようだ。
大通りから裏通りに入り、さらに裏に入った。
駅の周りの騒がしさが嘘のように静かなところだ。
「こっちこっち」
別にどっちだと聞いたわけでもないのに、としやがそう言って前方を指差した。
そこには五階建てでアパートともマンションとも言い難い、どっちつかずの建物があった。
とはいえ俺には、アパートとマンションの境目が、よくわからないのだが。
「あそこの二階だな。203号室」
としやは階段を上りだした。
俺がついて行くと、階段を上りきったとしやが突然走り出した。
――えっ?
としやの走った距離は短かった。




