ノブリス・オブリージュ
「姫様は厨房にいるコック全員が作った食事を、こっそりと持ち帰っていただけませんか?」
ミニタッパーに食堂に届けるフリをして、天音はコックが作った全ての料理にサンプルを入手。
クレアーレなら作った食べ物の中に確実にアルカナが検出される、それを検査に回してクレアーレを探すという任務。
しかし、天音がこのままこの地に留まることを守もカレンも反対だった。
薔薇に敵の存在を感知し報告をすると、迎えを寄越すので天音だけ帰還するように命令を出したのだが天音自身が拒否。
さすがの守も声を荒げて帰るように説得をしたが、天音の言った言葉に反論できなかった。
『もしも守と同じミーレスが出てきたら、誰が彼らと戦う武器を創るの?』
敵とてアルカナで創られた武器を持っている可能性は高い。
通常の素材や作られた兵器では太刀打ちができない、そうなるとやはり天音は此処に留まってもらうしかない。
「すみません・・貴方に危険なことを」
「いいんだよ、絶対に安全なんて永遠の命を手にすることと同じくらい無茶なことなんだから。覚悟の上だよ」
申し訳なさそうに笑うカレンに対し、天音は大人びたように微笑んだ。
検査結果はほどなくして届いた、その結果は予想通りの結果。
天音は新たなクレアーレと、人目のない夜に待ち合わせをすることに。
誰も使っていない客間で二人と待っていると、彼は時間通りに現れた。
「おまたせ、アマちゃん。・・・って男付き???」
無邪気な笑顔から嫌そうな表情に顔を歪ませたのは、ニグロ。
天音からのお誘いにスキップをして来たのに、まさか男二人しかもメイド達皆が虜になっているイケメン男子なんて
これが女子ならどれほどよかったことか。
「アマちゃん、二人っきりじゃない~」
「ごめんね、でもとっても大切なお話なのは本当だよ」
そういうと天音は写真付き身分証を見せる、最初は以前の天音達のような反応をし聞きなれない組織名に首を傾げる。
「秘密結社?怪しい黒魔術教団か?」
「違う、僕達は世界にいるミーレスとクレアーレの保護を行っている組織だ」
もう一つ、テロを行うミーレスとも戦うのもカレンは追加をした。
話を一通り聞き終えると理解はできたのか、腕を組んで何度も頷いていた。
「つまり、俺はそのクレアーレとかいう凄い力の持ち主でアルカナとかいうのを使ってすげーうまい料理を作っていってわけか」
料理のクレアーレというも驚きだ、島を生み出せるシルベストもそうだがクレアーレにもいろんな種類の人間がいるものだ。
敵はクレアーレなら見境なく狙ってくることも考えられ、安全を考え保護下に置こうとするが。
「お断りだね、そんな聞いたこともない組織に誰が入るかっつーの」
あっかんべーをカレンに向けてやらかし、さすがのカレンも米神に四つ角マークが浮かぶ。
「・・・・当然の反応だな」
守と同じ反応の仕方からして、あれがやっぱり当然の反応なのだろう。
身分証を呈示しても、世界的な組織だなんてニグロに確認する方法もなくカレンの言うこと全てを信じるなんて簡単なことじゃない。
「ニグロ、私もクレアーレなんだよ。・・狙われたこともあってだから君のことをカレンは考えているんだ」
周りのことなど考えない、己の欲望のために人さえも殺した彼らを思い出した。
あんな想いをニグロにさせたくない、だから薔薇の保護下に行くべきだとニグロもまだ子供なのに
天音のように偶然カレンや守のような人間が傍にいるわけでもない、狙われたらひとたまりもない。
「アマちゃんも俺と同じ・・・でもいきなりそんなこと言われても、わかんねーよ!!」
「あっ!!」
許容量を超えたのかニグロは外へと飛び出して行った。
天音も後を追いかけ走り出し、守とカレンも後を追うが突然銃弾が床にめり込む。
「誰だ!!」
守はさりげなく天音を後ろに回し、カレンも敵を警戒したように構えると主と数十人はいるであろう傭兵が銃を手に暗闇から現れた。
「お前らか、わしの金のガチョウを狙うのは。ニグロはわしの大切な使用人だ!!奪う奴ら許さん!!」
引き金を引かれると天音は目を瞑ると、両手を前に差し出す。
すると金色の粒子が生まれると突風が吹き荒れる。
「なんだっ!!」
主は混乱し、その隙にと天音は武器の創り出した。
右手にサーベル、左手に打刀が形づくられて行くと目を見開いて凛とした声で。
「・・・・御開帳あれ!!桜!!ローズ!」
刀の頭には金具に桜が掘られた立派な刀が、淡いピンク色の薔薇が柄に細かに描かれサーベルが生まれると
一回転してから守とカレンの手に向かって投げられ、受け取ると中の刀身を確認するため中身を見る新品同様に銀色に輝いていた。
「姫様、・・・・ありがとうございます」
「サンキュー!天音!」
これまで鍛錬に使っていた普通の刀とは違う手の感触に、ミレアーレとして力が発動したかのよう身体の奥から力が湧き出てくるよう感覚がする。
守は床を二、三度蹴っただけで至近距離で彼らに近づくと、蜘蛛の子を散らすように蹴散らした。
「うっ・・・撃て!!」
「・・チッ!」
マシンガンを発砲してきたが、スローモーションのように銃弾が一つ一つ目で捕えられる。
それを刀の刃で全て弾くと壁に全て銃弾が埋め込まれる、天音のクレアーレとしたの力で
ミーレスとしての自分の力がこれほど高まるなんて想像もしてなかったが
これなら戦えるとこんな時なのに笑みを浮かべてしまう。
「カレン、此処はお願い。守は私と一緒に」
「わかった」
最後に主様の腹を思いっきり蹴って地面にのしつけると、カレンにこの場を任せてニグロを追いかける。
後ろから「すぐに追いつきます」と声が聞こえ
天音と守の背後から強い風圧が来る。
カレンは強いし大丈夫と天音達はニグロを保護すべき探す。
「あのメタボ腹野郎、どうして急にニグロのことを奪われるなんて知ったんだ?」
「そういえば・・・クレアーレの力とかって普通の人が知るわけないのに」
ニグロは力の事を知らなければ料理の上手い子供という認識だ、希少な力を持つだなんて簡単にわかるはずがないのに
誰かに吹き込まれたのではないかと、天音と守は走りながら必死にニグロを探す。
「ガキのくせに早いな・・一体何処に行きやがった・・」
此処にニグロはずっと暮らしていて、まだ一週間程度しかいない守達はかくれんぼの鬼としては不利だ。
天音ももしかしたら敵に捕まったのかもしれないという不安が大きくな、星空の下で隠れて居そうなところ探していた。
食料庫も探してみたが人の姿はなかった、しかしニグロは小さな体を生かして其処に隠れていた。
彼女達がいなくなるとそーっと顔を出そうとするか頭を強く掴まれて引き戻されて、慌てて後ろを見ると顔見知りのコック達がいる。
「お前こんなところで何やってんだよ、あの外国人二人に追われてるっぽいみたいだし」
「えっ・・あ・・うん。いろいろと」
何となく眠れずに酒を仲間達で飲んでたら、ニグロが後ろを気にしつつ食料庫に逃げ込んで
数分後天音達が人を探しているかのように走ってきて、何かあると天音達がいなくなった後ニグロの元へ裏口から入り込んで話しかけたのだ。
「もしかしてあのカワイイ女の子に手を出したんじゃないんだろうなー」
「あっ・・いやそういう・・」
「お前ー、エリザベートちゃんが本命のくせにそんな・・・」
コック仲間で一番年上の男だが酒のほろ酔いながらからかっていたが、突然声が止まるとそのまま動かなくなった。
酔って眠ってしまったのかと起こそうと肩に触れると、男はそのまま床に倒れると背中に鋭い凶器が刺さっている。
「ひっ!!だっ・・誰かいるのか!!ぎゃああっ!!」
床に置いてあったランプの火が突然消えると、暗闇の中で仲間達の悲鳴だけが響く。
それは恐ろしく、ニグロは歯が悴み手足は震えていた。
「おい!!どうし・・・ぐああっ!」
「誰かいるぞ!・・ひぃいっ!!」
「に・・逃げろ!!ニグロ!!」
最後の一人の声にニグロは金縛りから解放されて、出口へ向かって走り出す。
決して後ろを振り向かないようにして、溢れる涙を堪えながら我武者羅に。
「あれ・・・この扉、さっきは閉じてたよね?」
何となく食料庫が気になったのか天音達が戻ってくると、開いている扉に気になったのか近づいて行こうとすると守が引き止めた。
「まも・・」
「お前はそこにいろ、絶対に中を見るな」
守は袖で口元を覆いながら、鞘から抜いた刀を手に慎重に中へと進む。
中は悲惨な光景だった、守も顔だけは知っているニグロのコック仲間達が死んでいる。
隙間から僅かに見えた人の死体に、天音は目を反らす。
その中にニグロはいなかったと守は扉を軽く閉めると、地面を見ると小麦粉を踏んでしまったであろう足跡がある。
「この足音を辿ればニグロの元へ行けるね!」
「・・どうやら敵が本性出してきたらしいな」
足跡は外へと続いていて、この建物から逃げたものと思われる。
すぐに後を追いかけていくと外から人の争う声が聞こえてきた、ニグロと使用人長のアフロ男だ。
「だーから!こっちにこいって言ってるだろうが!」
「離せよ!!俺はいかねーぞ!!」
強引に連れていこうとするのに対してニグロが抵抗している、無事な姿にホッとしている天音の横を守が小走りで彼らの元へ向かうと
刀を向けただけで男は逃げ出し、ニグロはやっと男から解放された。
「ニグロ、大丈夫・・」
「・・・うん、でもみんなが!!」
コック仲間達のことだろう、ニグロは身内同然の仕事仲間を失ってしまい天音の服に縋りついて泣いていた。
男は距離を取りつつもニグロのことを諦めずに、隙を伺うように距離を取っている。
「おい、お前どうしてコイツを狙う?」
「主様が言っていたんだ、そいつは金になる!俺はあいつにずっと扱き使われてきたんだ少しくらい報われてもいいだろう!」
短時間であの主がどれほど人に重労働押し付けているかは、納得はできるがニグロを巻き込んで良いという言い訳にはならない。
「だったらお前だけで夜逃げすればいいだろうが、こいつはこいつ自身で決める」
守の言葉にニグロが僅か反応をし、顔を上げると守を見た。
「子供のくせに自分のことを自分が決めるだって、そんなこと無理に決まってるだろうが!」
言い終えた瞬間、今度は男の胸が赤く染まる。
そのまま絶命すると男は地面に倒れて、二度と起き上がることはなかった。
「・・・!!」
天音とニグロを背後で庇う守、人の気配がしたからだがその相手は暗闇の物陰から月の光に照らされて現れたのは
エリザベートだった。
「・・・エリザベートちゃん・・・?」
「迎えにきたわよ、ニグロ。さぁ・・一緒に私達のところへいきましょう」
いつものように聖母のように微笑んでくれているのに、酷い悪寒で足が震えて本能が行ってはいけないと警告している。
天音もこの女性から血の匂いがすることを嗅ぎ取り、少しずつ後ろに下がっていく。
「2人共逃げろ!!」
守がエリザベートに斬り込みをかけるが、メイド服のエリザベートは紙一重で全て交わしていく。
本気の守の剣をまるで子供の遊びのように時折笑いながら、翻弄していた。
「貴方、まだまだ青臭すぎてダメね。もしかして私が女だから本気で殺せないとか」
「んなことはねぇ!!」
「そうかしら?」
エリザベートの狙いに気付き、上を見上げるとギロチンが見え守は後ろに飛ぶと
首に目掛けてだろうギロチンが落ちてくる、
「異端審問、異端者のフォーク」
黒鋼のエリザベートの身長ほどあろうホークが金色の光と共に現れると、それを手にして今度は守に猪突猛進並みに攻めていく。
守が手も足も出せない姿に、天音は逃げるのを忘れて佇んでいた。
(こいつ・・・もしかして!)
ある予想が一つ生まれたが、天音の武器が制限時間を迎えて消えかけていく。
一瞬勝機はこちらに完全にあると油断した隙に、まだ僅かに残っていた刀先を守は目を細めて指で挟むように掴むとエリザベートの胸元を切り裂いた。
「ええっ!!」
「嘘・・・・エリザベートちゃんが・・・・
男??」
ポトと地面に落ちたのはパットだ、彼女・・彼の胸は乳房がなく誰が見ても男だった。
本来の性が見破られると、女神から邪神に変化するように鬼気迫る表情となり守達を睨み
ニグロと天音は悪寒がしゾッとする、守は驚きながらも構えているが
技を繰り出そうとするエリザベートだったがカレンが遠くに見えたこともあり、彼女は退散していく。
「ごきげんよう、貴方達は私達と会うのは初めてだから紹介しておくわね。
私達はノブリス・オブリ―ジュ、力あるものとしてその力を行使するもの」
それだけを言い残すと後ろに大きくジャンプすると、霧のように消えていなくなった。